医学界新聞

ケースで学ぶマルチモビディティ

連載 大浦 誠

2021.03.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3411号より

60歳男性。高血圧,2型糖尿病,脂質異常症,高尿酸血症,陳旧性心筋梗塞で近医通院中。飲酒は缶ビール500 mLを毎日,喫煙は40本/日×30年だったが10年前から現在まで禁煙。単身赴任のため継続加療依頼。紹介状には「アドヒアランス不良で予約通りに来院せず,薬がなくなったら受診される」との記載。BMI 26.0,腹囲95 cm,血圧130/70 mmHg。主要検査:尿蛋白(-),糖(-)。HbA1c 7.5%,ALT 35 U/L,γGTP 50 U/L,LDL 100 mg/dL,UA 8.5 mg/dL,Cr 0.64 mg/dL。処方薬はエナラプリル,ヒドロクロロチアジド,アスピリン腸溶錠,ロスバスタチン,アロプリノール,メトホルミン,リナグリプチン。

連載第3回(本紙第3374号)と同じ症例です。

 これまでの連載で,プロブレムリストを5つのマルモパターンで分類し,ポリファーマシーや心理社会的問題をチェックすることで,複雑なプロブレムの全体像をつかむ方法を解説しました。そして,四則演算のアプローチで効果的な介入方法を検討することができるようになったのではないでしょうか。

 これらは「問題解決アプローチ」,すなわち原因を特定し除去すれば問題が解決するという考え方です。一方で「ナラティブアプローチ」という考え方があります。これは患者さんを取り巻く状況や価値観,解釈に焦点を当てて,複雑な問題をそのまま取り扱う方法とも言えます。読者の皆さんは,悩みについてとりとめもなく話をしているうちに,やるべきことが見えてきたという経験をしたことはないでしょうか? これは,問題を解決しようとして原因を抽出したわけではありません。自分のことを語っているうちに,しっくり来る答えが出せているのです。

 ナラティブアプローチは1990年代に臨床心理学の領域から生まれた方法です。それ以前にもカウンセリングは行われていましたが,「患者の言葉から客観的な状態を探る」手法でした。一方でナラティブアプローチは「患者の解釈を探る」ことを目的としています。提唱者のGreenhalghはナラティブアプローチの特徴として「1つの問題や経験が複数の物語り(説明)を生み出すことを認め,『唯一の真実の出来事』という概念は役に立たないことを認めること」を挙げています1)

 ナラティブアプローチの詳細な方法は専門書2)に譲りますが,以下の5つを意識するとよいでしょう3)

1)ドミナントストーリー(患者が信じている物語)を聞く

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