延命治療の中止を巡って(13)
クルーザン家の悲劇(4)
連載
2007.04.02
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第105回
延命治療の中止を巡って(13)
クルーザン家の悲劇(4)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)〈これまでのあらすじ:1990年,連邦最高裁が,遷延性植物状態患者ナンシー・クルーザンの経管栄養中止を巡って「患者が治療を拒否する権利は憲法で保障された権利」と認定した半年後,ミズーリ州検認裁判所は,ナンシーの経管栄養中止を命じた〉
クルーザン家にとって,たとえ3年余に及んだ訴訟に「勝った」とはいっても,ナンシーと別れを告げなければならない悲しみや辛さが減じたわけではなかった。それだけに,「pro-life」の活動家たちの心ないプラカードやシュプレヒコールは家族の心を傷つけた。
しかも,ナンシーが入院していたミズーリ州リハビリテーション・センターの医療者との関係は,必ずしも良好なものとはいえなかった。ナンシーのケアに当たる医療者の大半は「pro-life」派であったし,裁判で,「ナンシーは,植物状態とは思えない反応を周囲に示す」とか「回復の兆候を見せている」とか,たとえ「pro-life」の立場からのバイアスがかかっているとはいえ,家族にとっては「嘘」としか思えないような証言をする者もいたからだった。
三つの日付
経管栄養の中止後,ナンシーとの辛い別れの時を過ごす家族にとって,「救い」となった存在がホスピス病棟の看護師,アンジェラ・マッコールだった。マッコール自身は「pro-life」として経管栄養中止には反対だったが,それでも,家族と裁判所の判断を尊重し,ナンシーとの別れに耐える家族の気持ちに配慮することを忘れなかった。マッコールの心優しさに感動した家族は,いつしか,彼女のことを「天使」と呼ぶようになっていた。ナンシーの血圧が下がり始めたのは,経管栄養チューブが外されてから12日目,クリスマスの日のことだった。午後,検温のために病室を訪れたマッコールは,検温結果を家族に説明した後,「私が,皆様とお...
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