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看護教育のパラダイムシフトを牽引し得るコンセプト学習
日本看護学教育学会第36回学術集会の話題から
取材記事
2026.10.06
日本看護学教育学会第36回学術集会(会長=大阪医科薬科大学・池西悦子氏)が8月29~30日,「看護学教育における革新と伝承」をテーマに大阪国際会議場(大阪市)で開催された。医学界新聞プラスでは,津波古澄子氏(京都看護大学大学院)と西田好江氏(泉佐野泉南医師会看護専門学校/京都看護大学大学院博士後期課程)による交流セッション45「看護と学習の視座から捉える『コンセプト学習』――看護教育改革の挑戦と可能性」の模様を報告する。本セッションでは,看護教育実践においてconcept(概念)に注目する「コンセプト学習」の利点と課題を取り上げつつ,日本の看護教育における具体的な取り組みが紹介され,活発な意見交換が行われた。
コンセプト学習で達成される看護教育のパラダイムシフト
セッションの前半では,津波古氏がコンセプト学習の特徴,目的について解説した。コンセプト学習は教育学の文脈で,具体的な事実やスキルを学ぶ中から共通する概念を見いだし,その概念を基に新たな具体的事象にも意味付けを行い応用することで,知識をより深く理解し,異なる文脈へ転移できるようにする学習とされる1)。こうしたコンセプト学習は現在, 看護教育において2つの潮流で紹介されていると氏は整理する。1つはタナーの臨床判断モデルに基づき,臨床判断能力を育むための学習2~5),もう1つは教育学者リン・エリクソンの理論を基盤にギデンスが提唱した,概念思考を育むための学習6~9)である。本セッションで焦点が当てられたのは後者であり,看護学と教育学の視座からコンセプトをとらえ,学習の転移を促すための教育方法について解説された。
津波古氏はコンセプト学習の主な目的として,①学生の思考と学習の促進,②学生の主体性(積極的関与)の促進,③臨床判断につながる高次思考(クリティカルシンキング・推論)能力の促進,④卒業時における適切な患者ケアマネジメント力の備え,⑤横断的学習による過剰カリキュラム内容の整理(スリム化),⑥看護を主軸とした学生と教員の協働学習による教育へのパラダイムシフトの6つを挙げた。また③に関連し,「臨床推論のアウトカム結果として臨床判断がある」と両者の関係を整理し,コンセプト学習を通してクリティカルシンキングを育み,さまざまな事例を検討する中で臨床推論力を鍛えることが,学生の臨床判断能力にもつながると強調した。
意図的な教育プロセスと教員の果たすべき役割
コンセプト学習の特徴は,「学習環境をコンセプトの視点から意図的に構築するプロセス」にある。津波古氏はその重要性を説明するために,ろう者であったヘレン・ケラーと,その家庭教師サリバンのエピソードを紹介した。サリバンは,ヘレン・ケラーの手に水を触れさせながらもう一方の手にその言葉をつづることで,具体的なものと言葉を結びつけた。こうした意図的な働きかけを通して,ヘレン・ケラーは「物には名前がある」ことを知り,さらに「冷たい」「流れる」「硬い」といった物事の属性をとらえていった。津波古氏は,具体的な経験と抽象的な概念を結びつけるこの学びのプロセスは,看護学生にも共通すると指摘。コンセプト学習においても,教員が意図的に学習環境をつくることが重要だと述べた。また,学生の脳の可塑性には個人差があるものの,それを埋めるのは教育者の役割であると強調。「feed and back」を繰り返すことで個人差は低減し,学生の理解を深めることができるという。
さらに,具体的な事例を通してコンセプトを学ぶことの重要性を「ガス交換」を例に挙げて説明した。ガス交換というコンセプトを学ぶ際には,COPDや肺炎,喘息など異なる疾患・患者の事例を複数取り上げる。事例を重ねて検討する中で,学生は個々の疾患を覚えるだけでなく,それぞれに共通する特徴や類似性に気づき,コンセプトをより深く理解していく。こうして頭の中にコンセプト同士のつながりが形成されることで,初めて出会う患者や異なる臨床場面においても,既に獲得したコンセプトを手がかりに考えられるようになる。氏は,こうした学習の「転移」こそが,最終的に看護における臨床判断につながると説明した。
「学習のための実践」へと転換する臨床実習
セッションの後半では,西田氏がコンセプト学習を取り入れた臨地実習の具体的な取り組みについて報告した。西田氏が副学校長を務める泉佐野泉南医師会看護専門学校では,看護基礎教育の第5次指定規則改正を機に,コンセプトに基づくカリキュラムを導入している。
西田氏は,ギデンスの指摘を引き合いに,米国の旧カリキュラムにもみられる「Learn to Practice(実践するために学ぶ)」という学習スタイルが抱える構造的な課題に言及した。そこでの実習では学生はタスク中心の実践に追われ,臨床の指導者に負担がかかる上,たまたま受け持ちとなった患者による偶然の教育に依存していると指摘。指導者の手が空くのを待つ時間が生じることや,反復的なタスクの実践に時間が奪われ,高次思考能力の育成に十分な時間が割けないといった問題が指摘される。一方,コンセプト学習は「Practice to Learn(学習のために実践する)」を促し,臨床で生き生きと患者の中に現れるコンセプトを意図的に設計することで,出会う全ての患者がコンセプト理解を深めるための新たな例示として機能すると説明した。
実際の基礎看護学実習では,学生が一人の看護師に付いて行動を観察するシャドーイング形式を採用している。実習前には学内で入念にシミュレーションを行い,教員が患者役と看護師役を演じる中で,学生はコンセプトの視点を持って患者を観察し,得られた情報をホワイトボードに書き出す。こうした演習を通じて,個々の情報をばらばらにとらえるのではなく,関連する情報を結び付けながら患者の状態をとらえるプロセスを学ぶ。また,教員間でも学生の思考を深める「発問」の練習を行い,学生への問いかけや指導の方向性をそろえているという。
シャドーイングと「学びの会」がもたらす効果
臨地実習では,1日目は「栄養」,2日目は「排泄」,3日目は「活動」と,日ごとに特定のコンセプトに焦点を当てて患者を観察する。4日目にはそれまでに得た情報を統合し,コンセプト同士のつながりから患者の全体像を捉える。午後からは教員との「学びの会」を行い,学生が収集した情報を持ち寄り,観察した事実とカルテなどのエビデンスを結び付けながら患者の状態について考えていく。その後,指導者を交えて通常のカンファレンスを行う形式を採っている。
西田氏によれば,コンセプトという視点を持って患者のもとに行くことで,学生の情報収集の在り方にも変化が見られたという。学生は「何を見たらよいのかわからない」という状態に陥らず,あらかじめ持っているコンセプトを手がかりに患者の様子を焦点化して観察し,必要な情報を整理して収集できるようになっていた。さらに,観察した情報をカルテの記載や検査データなどのエビデンスと結び付けて考える姿も見られたという。
4日間のシャドーイングを終えた学生のまとめには,個々の情報だけでなく,栄養や排泄,活動などのコンセプト同士のつながりや,患者ごとの個別性に対する気づきが表れていた。西田氏はこうした学びを通し,学内で学んだことと臨地での経験がつながることの意義を強調する。実習の中で「学校で学んでいることが,臨地で一つにつながる」という経験を重ねることで,学生は日頃の学習の意味を実感し,次の実習に向けた学内での学びにも,より主体的に取り組むようになっていったという。
こうした取り組みにより,学内では「コンセプトを学ぶ」→「臨地でコンセプトを手がかりに患者を観察する」→「実際の患者を通してコンセプト同士のつながりをとらえる」→「その経験を次の学内での学びに生かす」という好循環が生まれている。西田氏は,こうした積み重ねによってまずは学生の思考の土台をつくり,学年が進むにつれて受け持ち患者への責任やケアの統合度を高め,最終的な実践力につなげていくことが今後の課題であると結んだ。
本セッションは学会最終日の最終演題であったにもかかわらず,会場は満席となり,コンセプト学習に対する参加者の関心の高さをうかがわせる中,盛況のうちに幕を閉じた。
参考文献
1) 遠藤みゆき.コンセプトの持つ力とは①――近年の世界の教育を捉え直す枠組み:コンピテンシーとコンセプト学習.看護教育,66(3):306-12,2025.
2) 喜吉テオ紘子,他.臨床判断モデルに基づいた学習の内容と評価について─―コンセプトを基盤にした学習(Concept-based learning activities)と,ラサター臨床判断ルーブリック評価(Lasater Clinical Judgment Rubric).看護教育, 57(9):720-6,2016.
3) 岩間恵子.米国看護教育の改革――コンセプト・ベースド・カリキュラム.看護教育, 59(12):1024-31,2018.
4) 奥裕美.コンセプトにもとづいた学習で「看護師のように考える」を支援する①――臨床のリアルを追求した紙上事例の取り組み.看護教育, 59(12):1048-53,2018.
5) 三浦友理子,他.コンセプトにもとづいた学習で「看護師のように考える」を支援する②――看護ゼミ「臨床判断」の取り組み. 看護教育,59(12):1054-60,2018.
6) 津波古澄子,他.概念基盤型学習のアプローチ:根幹は“Less is more!”にあり─―Giddens教授との対話から.看護教育,59(12):1032-39,2018.
7) 津波古澄子.看護教育にコンセプト学習を用いるメリットと可能性.看護教育,66(3):320-27,2025.
8) 西田好江,他.コンセプトにもとづくカリキュラム構築への歩み.看護教育,63(2):172-80,2022.
9) 西田好江.コンセプト・ベースド・カリキュラムを通した臨床判断能力の育成.看護教育,65(6):664-72,2024.
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