医学界新聞

  • 医学

2026年10月13日公開分

書評

2026.10.13 医学界新聞:第3590号より

《評者》 聖マリアンナ医大総合診療内科

 私と本書との出合いは,私がまだ医学部5年生だった頃,そして本書がまだ第2版だった頃である。当時,臨床実習で総合診療内科をローテーション中だった私は,指導医が「ヤギ音」やら「Skoda's zone」やら,「口もとで聴こえるearly inspiratory crackles」やら,講義でもOSCEでもそれまで全く聴いたことがなかった診察手技を回診で披露する姿に衝撃を覚えた。

 しかしである。学生の時分に手に入りやすい身体診察の書籍をひっくり返すが,どこにも詳細が書いていない。困った私に指導医がすすめてくれたのが本書であった。

 早速通販サイトのプレビューを見てみると表紙に「感染症レジデントマニュアル」と書いてある。本当に本書にそんな今まで見聞きもしたことがないフィジカルが載っているのか? 私の心配をよそに,手元に届いた瞬間,私は本書のとりこになった。

 それ以降,常に実習の白衣のポケットには本書を忍ばせ(虚飾ではない),内科外科の入院患者を問わず,東に肺炎の患者あれば,行ってヤギ音と肺胞呼吸音の気管支音化を聴き,西に胸水貯留の患者あれば,行ってSkoda's zoneを確認し,南に急性虫垂炎の患者あれば,行って腸腰筋徴候・閉鎖筋徴候を確認し,といった具合に読みふけった。私が学生時代に深く身体診察にのめり込めたのはこの本と,この本をすすめてくれた指導医のおかげと言っても過言ではない。

 さて本書の特徴を一言でいえば,私は「圧倒的な臨場感と安心感」であると思う。本書は「マニュアル」と銘打たれているが,内容は単なる取扱説明書(マニュアルの意)の域を超えている。文調はさながら藤本卓司先生が隣にいらっしゃるがごとく,その場で指導を乞うているかのようなライブ感にあふれている。

 例えを挙げると枚挙にいとまがないが,「胸水の量は毎日,打診など身体診察により評価する。診察なしで『明日,胸部Xpフォロー』のプランは論外である」や「少し大袈裟だが。JVPなしの日常診療は成り立たないとさえ思う」というのはその好例ではなかろうか。本書を手にした学生,研修医は書中の藤本先生の叱咤激励に大いに助けられ,励まされること間違いなしである。

 そして本書の醍醐味はなんといっても“Memo”にあると私は思う。特に身体診察に関する記載は他のフィジカル本に全く引けを取らない。というよりポケットに入って持ち運べるサイズでここまで実践に即したフィジカルが記載されている書籍は他にないのではないか。

 肺炎の患者に出くわした時,COPDを疑った時,うっ血の評価で中心静脈圧が知りたくなった時,とっさにどんなフィジカルを取ればよいのかわからない。そんな時にも心配御無用。本書があればわかりやすい図表を参照しながら,自信を持って診察ができること請け合いである。

 本書は第2版までは藤本先生による単著であったが,今回第3版の改訂では藤本先生イズムを受け継がれた多くの先生方によって共著で執筆されている。COVID-19など,第2版が出版されてから12年の間に出現した疾患や概念が新たに項目として盛り込まれているのに加えて,前版から続く項目に関しても新規の知見に基づいた加筆がされており,日進月歩のエビデンスを網羅的に学ぶことができる。多くの先生がかかわっていながら,それでいてまるで藤本先生お一人が執筆されているかのような統一感と一貫性はまさしくculture(文化の意。培養ではない)の伝播,継承によるものなのではなかろうか。

 本書の序にもある通り「感染症診療のアートとも言える診療の根幹は驚くほど変わっていない」。ひいては丁寧な問診と身体診察に基づいた診療,これもまた揺るがないアートであると私は思う。

 これから臨床の現場にこぎ出していく学生,研修医にとって,本書はこの連綿と受け継がれてきたアートを伝承していくための虎の巻となることを最後に付しておく。


《評者》 日医大武蔵小杉病院循環器内科 准教授・部長

 この度永嶋孝一先生が上梓された『EPSとSVT――心臓電気生理学的検査と上室頻拍』を拝読した。平易で明快な解説に定評のある著者による本書は,文章が極めて丁寧かつ詳細であり,一見すると心臓電気生理学(EPS)の入門書のような印象を与える。しかし実際には最先端の知識が体系的に網羅されており,本書を通読することで上室頻拍(SVT)の診断および治療に関する知識をほぼ網羅的に修得することが可能である。

 EPSを習得し臨床で実践するには,実際の心内電位記録の理解が不可欠である。欧米の代表的なEPSテキストには多数の心内電位記録が掲載されているものが多いが,わが国のEPSテキストでは模式図や文章での説明が中心で,実記録の掲載は相対的に少ない印象がある。これに対し本書では,驚くほど豊富な心電図および心内電位記録が提示されており,各所に理解を補助する模式図が付されている。このような構成により,わが国発のテキストブックとしてこれまでにない高い完成度を実現している。

 実記録を中心とした構成ゆえ,初学者にとってはやや難解に感じられる可能性は否定できない。しかし,SVTの診断をリアルタイムで行い,EPSさらにカテーテルアブレーションへと進む過程においては,前述の通り心内電位記録の読解力は不可欠なスキルである。本書はそのトレーニングを目的とした実践的指南書としても,日本人読者にとって極めて有効な一冊であるといえる。

 近年,三次元マッピング・ナビゲーションシステム技術の進歩により,心臓の電気興奮が可視化され,初期の時代と比べると不整脈学は随分親しみやすくなったと思う。しかしながらSVTの診断および治療においては,直接的な電位記録が困難な「房室結節」というブラックボックスの機能が依然として重要なこともあり,テクノロジーの進んだ現代においても電位記録の正確な解釈や刺激に対する応答の差異の解釈など,EPSの包括的な理解が求められている。

 SVTの診療において判断に迷う場面で参照すべき一冊として,本書が臨床現場で長く活用されることを期待したい。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook