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臨床判断ティーチングメソッド

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高度化、また地域へ移行が進む医療現場では、看護師の臨床判断能力の向上が求められています。本書は、タナーが開発した臨床判断モデルをもとに、学習者が実践的な思考を獲得する方略をわかりやすくご紹介します。学習者中心の考え方や、生涯学習を続けるためのかかわりなど、教育学の最新の知見とともに、基礎教育から新人、エキスパートへと、看護師の熟達を橋渡しする1冊です。
三浦 友理子 / 奥 裕美
発行 2020年11月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-04277-2
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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はじめに

 「Thinking like a nurse:看護師のように考える」 この言葉で表現される臨床判断モデルについて,私たちが開発者のタナー先生からはじめて直接話をうかがう機会を得たのは,2014年3月のことでした。当時,聖路加看護大学(現聖路加国際大学)大学院では,未来の看護教育者を育成するFuture Nurse Faculty育成プログラム(以下,FNFP)を開始し,臨床に軸足を置く看護学教員(Clinical Nurse Educator:CNE)を育成するコースを立ち上げたところでした。そして,コースでの教育内容を検討するなかで,熟達した実践を行っている看護師が臨床的な思考を伝える枠組みはないものかと思案していました。
 私たちが後輩や学生のサポートを行うとき,看護の対象となる人々をどのように理解し,ケアを実践するかを伝えるべく努力します。しかし,看護師の思考を伝える際の枠組みや共有できる言葉をもたないために,学習する人々に効果的に伝わらないということがしばしば起こります。そのようななか,臨床判断モデルの「気づき」「解釈」「行為」「省察」というプロセスに出会い,看護師の思考は,そういえばこのとおりだと思わず膝を打ちました。そして,学習者主体の教育を支援する人材の育成をめざしたFNFPにおいて,当事者の思考を中心にしたこのモデルと,モデルを活用した教育方法の探究を始めました。

 学べば学ぶほど,看護師自身と組織全体の知識や技術,患者や家族を理解し関係を構築する力,倫理的で安全な環境をつくる力が,患者へのケアの質を決定づけるスタート地点であることを確認しました。また,常に最良な状態をめざして自らの実践をモニターする,看護師の絶え間ない思考のサイクルを示していることを痛感し,シンプルなモデルの奥深さと重要性に気がつくことになりました。このモデルは,使えば使うほど学習者・教育者双方が,新たな学びを得るきっかけをつくるものでした。

 ところで,本書では基本的にタナーが2006年に開発したモデルを,臨床判断モデルと称し,これを主軸とした教授・学習方法について記述しています。これまでのたくさんの幸運な出会いをとおして知ることができた事柄について,私たち自身が数年前に「これを知っていたら役立っただろう」と思うことを,できる限り具体的に掲載しました。さらに,教育の基盤となる理論や,現在の看護教育を取り巻く状況,看護教育に限らない,学習者中心の学びを支援する方法についても掲載しました。看護教員だけでなく,臨床で実習指導や,新人教育に携わる看護師など,「看護を教える」にかかわる多くの方に活用していただけるよう,さまざまな場面を想定した内容を含めました。看護師が患者に「気づき」,患者を知ろうとする瞬間を表現する臨床判断モデルと同じように,本書が看護を教える方々にとって,学習者とその学習を支援することへの「気づき」を感じるきっかけになれば幸いです。

 最後になりますが,いつでも惜しみなくご自身の知識や実践を伝えてくださった,タナー先生,ラサター先生,ニールセン先生ほか,オレゴン健康科学大学の先生方,臨床判断モデルの可能性を広げる実践や研究を進めた聖路加国際大学大学院看護学研究科の学生・修了生,そしてFNFPをリードし,多くの貴重な機会を与えてくださった,前聖路加国際大学教授松谷美和子先生に感謝します。そしてここには書ききれない,かかわってくださったすべての皆さまに,心からお礼を申し上げます。

 また,医学書院の編集者番匠遼介さんには,FNFPのスタート当初から,ことあるごとに支援をいただき,本書の作成にも全面的にお力添えをいただきました。また,同社の近江友香さんをはじめ,多くの皆さまのおかげでこの日を迎えることができました。ありがとうございました。

 2020年秋
 三浦友理子・奥 裕美

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はじめに

第1部 臨床判断能力が求められる看護現場
 第1章 臨床判断能力が求められる背景と現代の教育
  ①本書の基盤となる看護学教育に対する考え方
  ②臨床判断能力の育成に取り組み始めた経緯
  ③臨床判断モデルで多様な状況を整理する
 第2章 看護を取り巻く現状
  ①看護職の想像力と多様性を生かす
  ②看護基礎教育制度

第2部 臨床判断能力を育成する─思考をはぐくむ
 第1章 臨床判断とは
  ①臨床判断とは─タナーによる概念の探究
  ②臨床判断モデルの4つのフェーズ
 第2章 臨床判断能力を育むための教育方法
  ①事例(case)を使う─看護師らしく考えるために
  ②「気づく」を支援する
  ③ディスカッションの重要性
  ④臨床判断能力の育成を支援するリフレクション
  ⑤臨床判断能力の評価
  ⑥コンセプトにもとづく学習方法
  ⑦看護実践に向けた思考力の育成
 第3章 臨床判断のさらなる探究に向けて
  ①タナーの文献レビュー(2006年)
  ②カペレッティの文献レビュー(2014年)
  ③マネッティの概念分析(2018年)
  ④3つの文献からの示唆
  ⑤さまざまな臨床判断のモデル

第3部 学びをサポートするための理論と方法
 第1章 看護職の生涯学習を支援する
  ①成人学習の特徴
  ②自ら学ぶとは─自己調整学習
  ③モチベーションの支援にかかわる理論
 第2章 自ら学ぶ力を育成する
  ①自ら学ぶ力の育成方法
  ②自ら学びを続ける4つの方略
  ③自ら学びを続ける看護職を支援するために
 第3章 研修・勉強会をデザインしよう
  ①研修・勉強会をデザインする枠組み
  ②学習者のアセスメント
  ③学習者と共有できる目的と目標の設定
  ④学習者が活性化する研修方法

索引

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看護師のように考えたことを伝えていくための一冊
書評者:小出 智一(東京ベイ・浦安市川医療センター看護部・救急部/地域医療振興協会医療人材部シミュレーションセンター)

 看護師は自分の臨床判断を言語化して,同僚や後輩にシェアできているだろうか? 本書は,臨床現場や実習の場で教育的介入をしていく上で,教育の羅針盤の役割を果たすだろう。私たちは患者の多様性や個別性が大事と教育される。その一方で,看護師が看護師を教育するときにその多様性や個別性を考えることが少ない。さらに就職すると,基礎教育と臨床教育の間にある溝に新人側,教育側双方が悩んでいる。そして身についた暗黙知を言語化して伝えていく手法を知らないまま,教える側に回ってしまう事態が起きる。この本はその問題点をクリアするための助けとなるだろう。

 著者は,聖路加国際大で看護教育者を育成するFuture Nurse Faculty育成プログラムに携わってきた三浦友理子氏と奥裕美氏である。看護師としてだけではなく,看護教育学と看護管理学を専門とする著者らが丹念に,そしてわかりやすくつづった一冊となっている。書籍の随所に,自身の教育的かかわりで起きた経験をあらわにして例として提示してくれることで身近に感じる。

 学生の時には知識を詰め込むことが多く,現場に出ると覚えたことを引き出せないということは珍しくない。そして看護実践も指導も,熟練していても教科書通りにはならないのが難しいところである。そこで知識や経験,思考を整理し,どう言語化するのかという理論が紹介されている。この学びや経験を臨床判断として生かす手法がまさにタイトルにもなっている,臨床判断ティーチングメソッドだ。

 「臨床で流動的に変化する状況で,考えや気付きを学びに変えるにはどうしたらいいだろう」と迷うことがあった方には,ぜひ読んでほしい。また教育者だけではなく,学習者も本書を読むことで,臨床で学びを加速するにはどう思考し,言語化するとよいかに気付けるはずだ。

 この本は,どこから読んでもよい。まず第1部から入って基礎教育や看護教育の現況を把握してもよい。臨床判断能力を育てるための方法論を知りたいなら第2部から読み始めてもよい。大人の学びを支援する方法論や理論を知りたいなら第3部から読むのもよいだろう。

 特に2021年4月以降の教育は混迷を極めると予想される。前例になく,実習が十分に行われず就職する新入職者は不安があるだろう。施設側も,研修や教育に人員や時間を割けず,オンラインにするなどして,従来にはなかった慣れない対応を続けることになるだろう。本書がそれぞれのギャップを埋め,より安全な医療を提供する組織を作る布石となることを願ってやまない。  さらに,本書をテーマとした読書会・勉強会などを行うことで,それぞれの読解を深め,より実践に役立てられるだろう。困難な状況であるが教育を抜きに未来の看護は語れない。多くの看護師が未来のエキスパートになれるように,その臨床判断能力を養う支援をしていこう。


これからの看護基礎教育を考えるための、待望の1冊(雑誌『看護教育』より)
評者:池西 静江(Office Kyo-Shien 代表/一般社団法人日本看護学校協議会会長)

 令和2年10月30日付で第5次指定規則における「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」が通知されました。指導ガイドラインの別表3「看護基礎教育の考え方」に、「科学的根拠に基づいた看護実践に必要な臨床判断を行うための基礎的能力を養う」と示されたこともあり、看護基礎教育で臨床判断能力をどう育成するかに注目が集まっています。ですが、筆者自身も、臨床判断そのものの勉強は進んでも、その教授方法については、なかなかイメージ化ができずにいました。そんななか、まさに待望の「ティーチングメソッド」を記した書籍が刊行されました。本書は3部編成になっており、なかでも第2部第2章「臨床判断能力を育むための教育方法」ではいくつかの示唆が得られました。

 筆者は授業づくりにおいて、・事例、看護場面を教材化し、リアルな場面で看護を考えられる授業づくり、・学生が自ら考えるように発問を効果的に取り入れた授業づくりを大切にしており、書籍を読み、この考えの重要性を再確認しました。と同時に、次の2つの方法で、臨床判断能力の育成につながるというヒントが得られました。

 1つ目は「思考発話」です。前述したように筆者は「発問」を大切にしてきました。それだけに、指導者が「何に気づき、どう解釈し、だからこのように行動した」と先に語ることで、学生が考えなくなるのではないか、という危惧をもっていました。しかし、池田葉子氏やリサ・デイ教授の具体例を読み、まず、発問で、学生の思考・判断を促し、それを認めつつ、私ならこう考える、という助言をすることで、指導者の助言を意識でき、多方面からの観察を行うことで、学生の経験がより有意義なものになると思います。ここで筆者は「守破離」という言葉を思い出しました。先輩たちから「型」を学び、それを自分のものに取り入れ、学習を深化させるということだと考えます。

 2つ目は「展開する事例提示」です。これまでの看護過程教育においては、特に講義・演習では、入院時などの1つの場面を切り取って、情報を提示し、問題抽出し、個別な計画を立てることを目標としてきた傾向があります。臨床判断能力を育成しようとするとき、計画を立てることより、何を行うかを判断し、実践して振り返ることが重視されます。したがって、1日目、3日目、退院時というように、経過を追ってその折々の状況を判断し、実践につなげる、という事例提示が必要となります。本書によって「教材」の使い方、提示の仕方など臨床判断を育成するために、考えなければいけないことが見えてきたように思います。

 「ティーチングメソッド」を参考に、目の前の学生にどう教授するか、ここからはそれぞれの教員の力量が問われるところでしょう。

(『看護教育』2021年2月号掲載)


知識と実践の間を埋める素晴らしい1冊(雑誌『看護管理』より)
評者:佐々木 菜名代(浜松医科大学医学部附属病院 副病院長・看護部長)

 新人看護師だった30数年前,私は実家に帰る度に,現場で体験したことを両親に話した。恐らく,目をキラキラと輝かせながら語っていたと思う。「看護婦さんがね……」と,先輩看護師のことを話すたびに,「おまえも看護婦だろう」と両親は笑いながら聞いていた。当時は学生気分が抜けないから,先輩のことを「看護婦さん」と言ってしまうのだろうと思っていたが,この本を読んで気づいた。Thinking like a nurse:看護師のように考える─自分とは違う,看護師らしいものの考え方,そして,それに基づいて実践をする先輩に対する尊敬と感動が,「看護婦さんがね」という言葉として現れたのだと思う。

 本書の著者らは,聖路加国際大学修士課程で,看護教育学上級実践コースを開設し,Clinical Nurse Educator(CNE)を育成している。CNEコースは,「未来の看護教育者を育成する」というコンセプトのもとに創設されたコースである。臨床に軸足を置き,学生や臨床看護師の教育を行うCNEの活躍を目の当たりにしたとき,看護職の教育の場に新たな時代が到来したことを感じた。古い時代の看護教育と,新たな時代の看護教育の違いは何なのか……。その答えがこの本の中にあった。

看護を伝える上で最も重要なこと
 本書では,「臨床判断モデル」を主軸とした教授・学習方法が紹介されている。このモデルにおける「気づく」「解釈する」「反応する」「省察する」という4つのフェーズは,経験豊富な看護師の実践を段階的に説明したものである。本書で用いられている事例を読むたびに,「そうそう,私もそう考えた」と深く納得した。しかし,それと同時に,「それでどうするのか」という部分しか,自分が伝えてこなかったことに気づいた。実践の中で,「何に気づき,どう解釈し,だからこのように行動している」という,私が頭の中だけで思い巡らせていたことこそが,実は看護を伝える上で最も重要だったのだ。

 筆者が述べている通り,看護の知識はあっても,その知識を看護師ならどのように使うのかを知らない学生や新人看護師にとって,「臨床判断モデル」は知識と実践の間を埋めるための素晴らしい道具になる。

臨床における汎用性の高さ
 本書で紹介されている臨床判断モデルを枠組みにしたリフレクションは,特に臨床において汎用性が高いと感じた。新人看護師の日々の振り返りや「アセスメントができない」という状況の克服など,多くの臨床現場でぜひ参考にしてもらいたい。また,臨床判断モデルでは,「コンテクスト・背景・関係性」が全ての前提となり,各フェーズに影響を与える。例えば,ライン類を自己抜去しようとする患者に対し,抑制が頻繁に行われている部署の看護師と,抑制最少化に向けて取り組んでいる部署の看護師とでは,異なる臨床判断をする可能性があるということだ。臨床判断モデルという枠組みを用いることで,看護師の置かれている状況や文化の違いがケアの内容を左右するという事実の認識につながる点も,看護管理者としては大変興味深かった。

 2020年度は,新型コロナウイルス感染症の影響により,臨地実習を行うことができなかった教育機関が多い。これにより,これから臨床に出る学生も,迎える側の教育担当者も大きな不安を抱えていると聞く。そのようなときだからこそ,本書を活用して,「看護を教える」ことについて深く考え,不安を払拭できるような教育環境を看護部長として整えていきたい。

(『看護管理』2021年2月号掲載)

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