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看護教育のための自己点検・評価・改善
現場発のカリキュラム・マネジメント

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授業、臨地実習、そしてカリキュラムそのものの改善のために──。前著『看護教育のためのパフォーマンス評価』の続刊として、読者ニーズに基づいて深掘りされた実践ワークブック。現場ならではの57 Episodesに頭を抱え、先達の知恵と箴言からあなたの真のミッションをふり返りましょう。21世紀の教育改革の柱である「逆向き設計」論に基づくパフォーマンス課題やルーブリックづくりもこの1冊でアップデート!

糸賀 暢子 / 山口 麻起子 / 西岡 加名恵
発行 2024年02月判型:B5頁:388
ISBN 978-4-260-05366-2
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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はじめに

 自己点検・自己評価は,高等教育機関がその目的・目標のために実際の活動について点検し,その結果を評価,または公表して社会のなかでその教育の質を保証するしくみのことです.2007(平成19)年に私立学校振興助成法で義務化され,看護師養成校にも公表の努力義務が課されたことを受けて,全国的に実施されるようになりました.そのチェック項目は,看護師養成校として認可を受けるときや指導調査の際に事前提出することが求められています.また,10年程度の周期で行われている看護基礎教育のカリキュラム改正の機会をとらえて,そうした自校の自己点検・自己評価をもとに課題を検討し,次代に反映させることができるものです.
 筆者は,2022(令和4)年に施行された現行カリキュラムへの改正を機会に,改めて2014年改正時から評価の観点,尺度と目標の一貫性のなさという自分たちの課題に向き合い,なぜ現在の「逆向き設計」論に基づく理解をもたらすカリキュラム導入に至ったのか,ふり返ってみました.そこで浮上したのは,とかく日々の教育現場で噴出・直面し続ける課題と,自校の教育目的とのズレを改善し続けようとしてきた教師たちの奮闘の記録でした.

 前著『看護教育のためのパフォーマンス評価』から5年が経過し,パフォーマンス評価とルーブリックの活用がわが国の教育体系のなかで広がりつつあります.その続編として世に問う本書は,形式を満たすための自己点検・自己評価マニュアルではない,看護の本質を貫く教育のための点検・評価・改善を実現したいと願う読者のための本です.その目的に叶うよう,カリキュラム・マネジメントのやり方やカリキュラムのひな型をつくるためだけのワークブックにならないよう配慮しています.現場で教える人であろう読者その人の看護と看護教育への願いからはじまる点検・評価・改善を実現するため,あなた自身がカリキュラム・マネジメントのサイクルを回し,教育の質の改善と教師としての力量形成となることを体感いただく構成にしました.

 本章で紹介する自己点検・評価・改善のきっかけとなった57のEpisodeは,読者が実体験された事例と通じることばかりではないでしょうか.あなたの教師としての感性を最大限にはたらかせて,これらEpisodeのなかに没入いただき,共感したり
ときに失笑したりして読み進めていただければ幸いです.それらのすべては,筆者が30年ほど前に看護教員になってからの体験や個人的な経験に基づきます.そのため,当事者が特定されないようプライバシーと名誉に配慮した変更を加えています.また,資料や扉で用いている学生の記述はすべて承諾を得て,許可を得た方のみ氏名を記載しています.
 Episodeの展開だけを見ると,失敗ばかりの事例だと思われるかもしれません.また,考え方や内容に偏りを感じられるものもあるでしょう.そうした不安と懸念を抱きながらあえて本書に書く勇気を与えてくれたのは,日本のどこかに看護教育もしくは臨床現場で困っている学生や患者がいるだろうという,筆者の老婆心に共感して背中を押してくださった編集担当の青木大祐さんです.読者の皆さんが教育上の課題に気づいたとき,悩み迷ったときや行き詰まったときなど,その時々に応じてどのEpisodeから読みはじめても,看護教員としてのミッションが再確認できる内容を心がけました.なお,試行錯誤を経ての改善から現在のカリキュラムにまでつくり上げたのは現場の教員たちです.教員側の失敗談も多々登場しますが,教員自身もぶれたり失敗したりをくり返しながら成長しています.明るく,前向きでポジティブシンキング,なによりも「看護が大好き」で「看護が実践できる」素晴らしい教員たちの力に支えられて本書が出版されることを心より感謝いたします.

 表紙を飾るに至った天使のステンドグラスは,現場の看護教員としての筆者の卒業制作にあたるものです.患者の冷たい手とこころを暖める太陽に手を伸ばす天使と,その暖かさの余韻を映す「名もなき池」に浮かぶ月に手を伸ばす天使とで,観える世界と,こころでしか観ることができない,循環する看護の陰・陽の世界観を表現しています.太陽,月,天使にそれぞれ込めた寓意は,読者の皆さんには言うまでもないかもしれません.看護の道を選び,教え続けてきた読者に贈る尽きせぬ敬意です.青木さん,制作担当の宮下敦司さん,デザイナーの轟木亜紀子さんたち本づくりの裏方にも改めて感謝します.今回もたくさんの学生たちから快く学びや成長の言葉,資料を提供していただきました.看護教育の点検と改善はこのような学生たちの言葉によって実現しました.ここに紹介できなかった学生・卒業生たちも含めて心から感謝いたします.
 前著に続き,共著ならびに全体指導を快諾してくださった西岡加名恵先生に心から感謝いたします.西岡先生と出会わなければ「逆向き設計」を知ることもなく,自校の現在のカリキュラムも存在していません.

◆  ◆  ◆

 皆さんの心に灯る看護教育の火が消えないよう,皆さんのすべてのつまずき,失敗,悩みが,本書でのふり返りを契機にポジティブな改善に向かって前進しはじめる大きな炎になることを願っています.部扉などで紹介している物理学者アインシュタイン(Albert Einstein)の言葉は,筆者をずっと励ましてくれた箴言です.章扉で紹介した学生たちの思いと合わせて,読者自身の気づきにつながるものであれば幸いです.

 2023年歳末 執筆者を代表して
 糸賀暢子

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序章 なぜ今,自己点検・評価・改善なのか
  「自己点検・自己評価」と看護教育
  「目標と優先順位の意思決定」から
  本書の構成

第I部 看護教育のミッション
 第1章 看護基礎教育のミッションをふり返る
  目標細目分類から「逆向き設計」へ
  評価の点検からミッションへ
  職業レディネスを育てる

 第2章 カリキュラム・マネジメントの進め方
  「逆向き設計」論の発想をどう活かすか
  カリキュラム・マネジメントの全体像
  カリキュラム評価論の3つの潮流
  「逆向き設計」論に基づくカリキュラム設計
  「逆向き設計」論によるカリキュラムの評価と改善

第II部 授業の評価・改善
 第1章 授業の点検──教授錯覚
  「ミクロな設計」の改善
  単元「排泄ケア」授業計画改善の実際
  改善の道筋
  「看護ができる」重点目標
  Episodeにゴールあり
  患者を困らせない看護

 第2章 「網羅」から「看破」へ
  「看破」するということ
  「網羅」と「看破」の対比
  「看破」の具体例
  「理解」を看破する
  「理解」の深まりと広がり
  教師自身の「看破」

 第3章 理解のための指導
  「理解」のための点検
  理解の6側面
  理解のための指導──専門家の盲点

 第4章 パフォーマンス課題とルーブリックの点検・改善
  最初のつまずき
  パフォーマンス課題とルーブリックの改善
  理解が表れるパフォーマンス課題の改善
  「理解」を表すパフォーマンスについての再確認
  「理解」のパフォーマンスを評価するための指導の改善

 第5章 テクニカル・スキルから「看護ができる」へ
  テクニカル・スキルの点検
  看護ができる人を育てる
  テクニカル・スキルを超えるパフォーマンス

 第6章 評価計画の点検・評価・改善
  看護技術のゴールの点検・評価
  なぜ,いきなり指導方法から改善しないのか
  「ミクロな設計」と「マクロな設計」の往還
  「看護ができる」ための改善の実際
  授業改善のサイクルを回す
  サイクルを回し続ければ「失敗」でなくなる

 第7章 パフォーマンス課題の指導の改善
  学生が自己決定的に取り組むための改善
  パフォーマンス課題導入当時の課題
  パフォーマンス課題の指導に関する改善
  パフォーマンス課題への不安に対する改善

 第8章 パフォーマンス課題の評価方法の改善
  パフォーマンス課題の評価方法の工夫
  授業におけるパフォーマンス課題の限界

 第9章 パフォーマンス課題の評価の改善
  評価方法の点検
  科目,単元のパフォーマンス課題と評価の整合性

 第10章 領域横断的な学びを創る──知識の統合のために
  からだのしくみと基礎看護技術をつなぐ──生活形態機能論
  「生活形態機能論」と看護技術の橋渡し──「症状メカニズム」
  医学モデルから看護モデルへ再構築──「逆向き設計」論
  臨床現場のパフォーマンスに焦点を合わせる──「総合臨床看護」

 第11章 残された課題の改善
  基礎学力低下の課題
  資質・態度の育成と情意領域の評価の課題
  学習態度に関する課題

第III部 臨地実習の評価・改善
 第1章 実習科目の点検
  実習の点検・評価・改善の入り口
  改善の実際
  改善のポイント

 第2章 看護実践の質の評価
  自校の点検
  実習の点検・評価
  「落とされない」「失敗しない」学生の作戦
  評価から改善の実際
  受持ち患者選定の教育的配慮
  実習記録の課題

 第3章 実習指導計画の点検・評価
  患者の反応と実習指導計画の点検
  実習計画・実習方法の点検
  実習指導計画の中心は患者
  実習指導計画の改善
  「臨床判断」を学ぶ実習方法
  流行に掉さすカリキュラム・マネジメント

 第4章 臨地実習の評価と授業の改善
  「逆向き」の改善サイクル
  臨床現場のEpisodeから授業の改善へ
  「上書き」と「臨床判断」──基本的考え方に関する改善に寄せて

 第5章 臨地実習の評価・改善のプロセス
  臨地実習の評価・改善のサイクル
  サイクルの項目
  良い設計の条件

 第6章 「セルフコントロール支援実習」の評価・改善
  実習から教科の点検
  「セルフコントロール支援実習」の改善
  「教える側の論理」から看護される「患者側の論理」へ
  プロジェクト学習のゴールが改善のサイン

第IV部 カリキュラムの改善
 第1章 カリキュラム改善のポイント
  カリキュラム再構築のプロセス
  現カリキュラムの臨地実習の科目の全体像
  ルーブリックの作成
  予測できない事態への対応

 第2章 ミッションに基づくカリキュラムの構築
  ミッションに基づくカリキュラムの枠組み
  カリキュラムはあなた自身

 第3章 評価・改善の課題と展望
  カリキュラムの評価・改善の課題
  指導ガイドラインと臨床現場のタイムラグ
  看護・患者・家族のニーズとの乖離
  指導ガイドライン・指導要領を超えるカリキュラム
  自分自身のマネジメントへ

索引
Episode一覧

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看護教育のめざすべき姿がここにある
書評者:藤原 恭子(国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官)

 「実習は,とっても楽しい」「患者さんが変化していく姿をみることで,やりがいを感じる」と,笑顔で看護を語る学生さんたちの姿に驚愕し,「私もこんなポジティブな看護教育がしたい!」と強く思ったのが15年ほど前。私が,著者の勤務校を初めて訪れた際のことだった。それから,著者たちが手がける学生さん中心の教育活動の過程を追いかけるようになった。自らも「逆向き設計論」やパフォーマンス評価を学び,ひたすら実践と失敗を重ねながら,今に至っている。2017年に刊行された前著『看護教育のためのパフォーマンス評価』に無数の付箋を貼り込み,ボロボロになるまで活用してきた。本書は,著者たちのその後の実践をまとめた続編的な位置付けの成果物として,コロナ禍を経て出版されたものである。私も,多くの看護学校の先生方と同じようにこの出版を心待ちにしていた一人である。

 ページをめくるたびに,自分のこれまでの授業改善のプロセスと重なり,一つひとつの言葉が心に刺さり,まさに自己点検・評価をしながら,どう改善していけばよいかをイメージし,丁寧に読み進めていくことになった。また先日,縁あって著者たちの勤務校を訪問し,卒業を間近に控えた学生3人から話を聞かせてもらった。いざ臨地実習に出るまでは日頃教壇で口うるさい先生たちに反発の思いしかなかったが,実習現場で“看護のプロ”として患者に向き合う姿に感動し,そこから先生の言葉の意味が理解でき,自分で考え,行動できるようになったこと。実習を重ねるごとに患者さんのために勉強し,少しでも良い看護ができるように取り組んでいったこと。また,そうした段階に至る上で,学内で演習として行うパフォーマンス課題への真摯な取り組みがその後の自信につながったことなど,活き活きと話してくれた。何より,学びを共にした仲間からのパフォーマンス課題に対する評価が記された付箋が励みとなったのだと,まるで宝物を見せるかのように各人の成長ポートフォリオも嬉しそうに見せてくれた。これこそ私が願う,学習者が自律した学びに向かう姿勢の現れである。

 また,看護師を育てるためには,単に教員一人ひとりの授業改善だけでなく,学校全体のカリキュラム・マネジメントが必要不可欠である。本書には,そうした改革を行う際にも,手順ではなくあくまで看護の本質に対する問いを軸に考えていくプロセスが丁寧に示されている。評価が変われば必然的に授業は変わる。今こそ,看護基礎教育の場においても真に患者の幸せを中心とした授業設計をすべき時が来ていると実感している。その方向性を見出すきっかけが,本書には多数のエピソードとともに紹介されている。患者に寄り添い,本当の意味で,看護を実践できる看護師を育てたいと願っている先生方の背中を押してくれる心強い一冊である。

 私も再び看護を教えることができる日を心待ちにしながら,全国の先生方と共に,「学生にどんな看護をしてほしいのか」「看護とは何か」の問いに対して,しっかり向き合っていきたいと思う。


授業・カリキュラムの改善と教師の成長のための一冊
書評者:堀内 晃代(神奈川県立保健福祉大実践教育センター教員・教育担当者養成課程看護コース専任教員)

 看護教育にパフォーマンス評価を浸透させてこられた著者たちによる待望の新刊が出版された。本書は,読み手それぞれの教育実践において看破をもたらす一冊である。

 本書で紹介されるエピソードは,私自身の経験と重なるものだった。ジーンと胸が熱くなったり,「あるある」と呟いたり,頷いたり,クスッと笑ったり,反省させられたり……。現場で紡がれる悲喜こもごもの事象に引き込まれながら,改めて自己点検・評価・改善のプロセスとは,教師たちの学びと成長のプロセスでもあることを実感する。「評価」というと,成績を付けることだけにとらわれ,気になる学生への単位付与に悩んだ経験のある教員も多いのではないだろうか。卒業生がやがて出会う患者を大切に考える教員であれば当然の悩みだが,学生が目標に到達していないとき,それは学ぶ側の能力の問題ばかりではない。教授内容は目標の到達に寄与しているのか,課題はパフォーマンスのゴールに到達するために適切なものであるのか,私たち教員こそ常に,自己点検・評価・改善のサイクルを回す必要がある。本書で一貫している提言は,看護教育とは「看護ができる人を育てること」である。“看護ができる,とは?”という問いを私たちが探究していくことに,その神髄がある。

 また,本書はそのまま,教員自身が自ら授業やカリキュラムを改善するための具体的な道標となる。授業設計とその評価や改善からカリキュラム全体のマネジメントまで,各章ごとに分けられているため,それぞれの立場に近く,興味のある部分から読み進めることができる。ベテラン教員ばかりでなく,教育の初任者にもお薦めしたい。

 本書では,たびたび「評価と教育の一体化」という言葉が登場する。教育評価はそもそも教授学習過程の一プロセスであるが,あえて「一体化」と強調することに,著者の信念が垣間見える。教育実践の中で改善のサイクルを回し,学生の育ちを実感することができると,評価とは,「教育の改善への手がかりの発見」であると捉え直すことができる。また,教育の手がかりを見つけることができるようになると,活き活きとした学生像が見え始める。学生を既存の評価表に当てはめたり,記録の良し悪しだけで値踏みしたりするのではなく,今ここで起きている学習者自身の生きた学びを捉えること,その形成的評価を通してかかわることこそが学生が活き活きと看護を学びながらゴールへと近づく教育となる。その学びは,教師の持つ前提を問い直し,即座に指導の改善につながる。こうして評価と教育が一体化したとき,教えるものと学ぶもの,どちらにとっても豊かな学びの場になる。単に学生の能力を数値化し,そうした点数をまとめ,一律に管理することを目的とした学校現場であれば,そうしたプロセスの主体は,やがてAIが人間に取って代わるであろう。

 本書には,著者たちの看護教育者としての魂が込められているように私は感じた。全ての看護教員に手に取ってほしい。


学生の成長を心から願う看護教員必須の現場レシピ
書評者:高口 みさき(愛知県立総合看護専門学校学校長)

 著者たちの前著『看護教育のためのパフォーマンス評価』は,現代の教育改革の土台になっている「逆向き設計」の考え方を導入し,その実践の過程を紹介することで,伝統的な看護教育の在り方に警鐘を鳴らすものとなった。私含め,多数の読者に支持されるロングセラーとなっている。あれから7年。それまで想像もしなかった世界規模での新興感染症のまん延が起こり,看護師の社会的評価が高まるとともに,この時代は常に予測不可能で,危機は背中合わせにあることが実感できた。

 看護基礎教育が,そんな変化の激しい世の中に立ち向かえる看護師を養成できているのか――。飽くなき自問を続ける著者の糸賀暢子自身が日々の教育現場の中で,目に観える世界と,こころでしか観えない世界に真摯に向き合ってきた履歴が,再び一冊の本にまとめられて世に出た。

 出版の意図について,「看護の本質を貫く教育のための点検・評価・改善を実現したいと願う読者のための本」だと,著者は述べている(本書p.iii)。前著に刺激されつつ,新カリキュラム構築の際も思い切った改革にまでは踏み切れないまま,本当にこれでいいのかと自問していた私にとって,本書はおいしい料理ならぬ,素晴らしい看護師の育て方のヒントを与えてくれる,そんな素敵なレシピ本であった。私たち看護教員にとっての「あるある」が詰まった57の具材(エピソード)から,まさに自らの教育実践のありようが連想させられたからだ。

 本書は,どの章から読んでも,学生のリアルな泣き笑いの姿を通して,読者それぞれの実践の振り返りが促され,改善の方向性を示してくれる。各章末に設けられている紙上ワークに向き合うことでも,固くなった自身の思考がほぐれていくことが実感された。そして,驚くべきことにその一つひとつの学びは,カリキュラム・マネジメントの視点でしっかりとつながっている。そこに見えてくるのは,「看護とは何か?」「私たちは本当に看護を教えているのか?」という真正の問いである。そもそも看護を教えるためには,そこにある最善を尽くす看護を教師自身が深く理解しなければ教育内容は見えてこないし,ルーブリックも作成できない。

 なぜ著者は,こう惜しげもなく学生との奮闘記を示してくれるのか。それは「看護が大好き」な看護師を全国で広く育てたい,という熱い想いからに他ならない。「うちの学校ではこうした取り組みは無理だ,忙しくてとても……」と言っているその時間がもったいない。本書を手にし,「それでも,やっている教師がいる。学校がある」ということを実感してほしい。まずはどのページからでも,読者がいま困っている項目からでも読み,これまで漫然と行ってきたかもしれない己の教育を看破する光を見つけてみてはどうだろうか。

 「recipe」の語源は,ラテン語で「受け取るもの」という意味がある。私自身も著者たちの看護教育に向き合ってきたその真髄を,本書をとおしてしっかりと受け取りたい。そして,自分自身を「看破」し,学生の成長を心から願えるような教師でありたい。