医学界新聞プラス

  • 医学
医学界新聞プラス

Dr.いっしーの聴診レッスン

連載 石井大太

2026.08.07

前回は具体的な症例をもとに,心音アセスメントの基本手順を実践しました。第2肋間胸骨右縁の収縮期雑音から大動脈弁狭窄症を疑ったものの,心尖部では僧帽弁閉鎖不全症のような異なる質の音が聴こえる……という研修医あや先生の鋭い気づきで終わりましたね。

引き続き同じ症例を用いて,判断に迷いがちな大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の鑑別について,一歩踏み込んだ考察をしていきましょう。

CASE
[患者]90歳,男性
[主訴]呼吸困難,体重増加
[現病歴]介護施設に入所中の高齢男性。受診3日前から夜間就寝中に呼吸困難を自覚するようになった。 呼吸困難は座位で改善した。受診前日に介護施設の職員がSpO2を測定したところ, 室内気で86%まで低下しており,施設医の紹介により受診した。3週間前まで60 kgであった体重が受診時65 kgまで増加していた。
[既往歴]前立腺肥大症,陳旧性心筋梗塞, 誤嚥性肺炎, 慢性閉塞性肺疾患。
[常用薬]ラベプラゾール,バイアスピリン®,デュタステリド,シロドシン, カルボシステイン,ビランテロール・フルチカゾン吸入
[生活歴]ADL:自立。介護施設入所中。
[バイタルサイン]体温36.7℃,血圧145/89mmHg,心拍数62回/分,呼吸数18回/分,SpO2 94%(室内気)。

Q.あなたはこの患者さんの身体診察をすることになりました。心臓聴診の動画を参照して,所見を拾い上げ,評価してください。

動画 心臓の聴診
心尖部から心基部に向かって聴診しています。

【前回の聴診所見のおさらい】

●Ⅰ音,Ⅱ音ともに聴取できる漸増・漸減型の収縮中期雑音(動画 01:58~02:37)
●最強点は第2肋間胸骨右縁(動画 01:58~02:37)
●放散は右鎖骨上にある(動画 02:55~03:12)
●左腋窩ではよく聴こえない(動画 03:17~03:25) 
⇒大動脈弁狭窄症を疑う所見

心尖部で音質が変わる? 聴診を迷わせるGallavardin現象

 :Dr.いっしー
A :研修医あや先生

A 先生,この方は大動脈弁狭窄症だけでよいのでしょうか?

 なんでそう思うのかな?

A 第2肋間胸骨右縁と心尖部では音の質が違う気がします……。

 どんなふうに違って聴こえた?

A 第2肋間胸骨右縁の音は確かに大動脈弁狭窄症が疑われる収縮中期雑音に聴こえるのですが,心尖部はなんというか……。僧帽弁閉鎖不全症のような音に聴こえてしまいます(動画 00:27~00:43) 。

 よく音を観察しているね! 具体的に音の質はどう違うかな?

A 心基部は粗雑な感じの音が聴こえますが,心尖部は心基部と比べると濁りがなくて澄んでいるように聴こえます。

 いい表現だね。大動脈弁狭窄症の雑音は第2肋間胸骨右縁から心尖部にかけて広い範囲でタスキ状に聴こえるのだけど,実は心尖部に向かうにつれて低調な音は減弱して,高調な音だけが放散することがあるんだ。これをGallavardin現象と呼ぶ。特に高齢者ではこの現象が起きやすいと言われているよ。

A では,特に心尖部領域においてはGallavardin現象によって,大動脈弁狭窄症による収縮期雑音を誤って僧帽弁閉鎖不全症によるものと認識してしまうことが起こり得るの...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

聖マリアンナ医科大学総合診療内科

2019年聖マリアンナ医大卒。大船中央病院にて初期研修の後,浦添総合病院病院総合内科にて後期研修を修了。24年より現職。同大の専門教育科目である診断学シリーズで講義を担当し,動画コンテンツを活用した身体診察の教育に携わる。編書に『フィジカル大全ーー読んで,見て,聴いて,身体診察を完全マスター』(医学書院)。