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『内科救急 好手と悪手』より

連載 坂本 壮

2025.08.22

救急の現場で「もしかして見落としがあるかも?」と不安を感じることは少なくないでしょう。『内科救急 好手と悪手』は,救急外来で遭遇する頻度の高い疾患を中心に,鑑別診断のアプローチ,検査の考え方,そして時に起こり得る判断ミスまで具体的な「悪手」を提示し,それらを回避して適切な対応へと導く「好手」を紹介しています。『medicina』の特集で好評を博した内容に,今回新たに産婦人科や小児科などの項目を加え,さらに充実した内容になりました。救急診療に携わる全ての方にとって,日々の診療に役立つ一冊です。

「医学界新聞プラス」では,本書より「一過性脳虚血発作」「気管支喘息」「低血糖」「高K血症」の項目をピックアップし,ご紹介していきます。


 

こんな対応は悪手
高K血症を疑うサインを知らない
数値のみで緊急度・重症度を判断してしまう
原因を意識していない
グルコン酸Ca,GI療法を行い安心してしまう
透析のタイミングを逃す

キーワード|高K 血症,グルコン酸Ca,GI 療法,透析

悪手① 高K血症を疑うサインを知らない

皆さんは,どのような場面で高K血症を疑うでしょうか.致死性不整脈を引き起こしかねない高K血症においては,血液検査の結果が判明してから気づくのでは遅すぎます.

とはいえ,採血結果を見て「え?高K?」と驚いた経験がある方も多いのではないでしょうか.実際,高K血症の主訴は嘔気・嘔吐,脱力,倦怠感など多彩であり,意識していなければ早期対応は困難です.

心電図所見としては徐脈,T波の増高,P波の消失などが有名ですが,これも高K血症を念頭に置いていなければ心電図そのものを確認しなかったり,実施しても異常に気づかなかったりするおそれがあります.

高K血症は慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者に多くみられ,特に高齢者で頻度が高いのが現状です.頭痛や胸痛など,具体的な鑑別診断がすぐに想起されるような場合を除けば,高齢者では一度は高K血症の可能性を念頭に置いて対応することが望まれます.筆者自身は高齢者,特に表1に該当するようなケースでは,高K血症を積極的に意識し,初期対応に反映させるように心がけています 1)

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表1 高K血症をいつ疑うか

悪手② 数値のみで緊急度・重症度を判断してしまう

高K血症は, 一般に血清K値が5.5mEq/L 以上の場合と定義されます 2).重症度の分類に絶対的な基準はありませんが,K値が6.0mEq/L を超えた場合は注意が必要で,迅速な対応が求められます.ただし,K値が高い=重症というのは一面に過ぎず,それ以上に重要なのは症候性かどうか,心電図に異常があるかどうかです.

前述の「疑うべきサイン」を把握し,心電図異常の有無を速やかに確認することが鍵となります.典型的な心電図所見としては,T波増高(いわゆるテント状T波)やサインカーブ様波形などが知られていますが,洞調律の消失による房室接合部調律に伴う徐脈がみられる場合には特に注意が必要です.「徐脈+ショック」は高リスクの組み合わせであり,緊急対応が必要です.「徐脈+ショック」では,高K血症以外に徐脈性不整脈,下壁梗塞(右室梗塞)も考えましょう.

したがって,「疑わしい病歴+心電図変化」が揃った時点で,治療を開始する判断力が求められます.

悪手③ 原因を意識していない

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高K血症の原因は表2の通りです.腎臓でのK排泄障害が多いですが,それ以外にも原因は存在し,また併存していることも少なくありません.例えば,CKD患者が尿閉をきたし高K血症をきたしている場合には,後述する薬剤投与だけでは事態は改善せず,導尿や細胞外液の投与が必要です.また,薬剤性の高K血症であれば,薬剤の調整が必須となります.

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表2 高K血症の原因

悪手④ グルコン酸Ca,GI 療法を行い安心してしまう

高K血症の治療は,①膜電位の安定化(近年の報告では,Ca2+依存性の伝導を改善することで電気生理学的な異常を是正する役割を果たすことが示唆されている3)),②Kの細胞内へのシフト,③K の体外への排泄,の3つに大別されます(表3).原因のいかんを問わず実施すべき治療と,原因に応じた治療とが存在します.前述の通り,原因を意識した治療の選択が必要です.

例えば,透析が導入されている患者では,炭酸水素ナトリウムや利尿薬は無効です5).カルシウム製剤やGI療法で時間を稼ぎつつ,早期に透析を実施する必要があるケースが多いでしょう.

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表3 高K血症の治療

悪手⑤ 透析のタイミングを逃す

高K血症に対する透析は「最終手段」と捉えられがちですが,判断が遅れることで救命が困難になる症例も確実に存在します.高K血症は緊急透析の適応条件の一つであり(ほかに,代謝性アシドーシス,心不全,中毒など),治療の選択肢として初期段階から常に意識しておく必要があります.

透析の準備には,少なくとも1時間程度を要することが多く,その間にカルシウム製剤やGI療法などで時間を稼ぎつつ対応することが求められます.すでに透析が導入されている,あるいは導入を検討されていた患者で高K血症を呈し,心電図異常や血行動態の不安定さを認める場合,または初期治療で奏効が不十分な場合には,速やかに透析の準備を進めなければなりません.

好手のおさらい

高K血症に遭遇する頻度は,今後さらに増加すると予想されます.早期介入のためには,まず疑うサインを知ることが重要です.そして,適切なマネジメントを行うには,原因を意識した対応が不可欠です.事前に頭の中でシミュレーションを行い,万全の準備を整えておきましょう.

(坂本 壮)

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  • ●文献
  • 1)坂本 壮:救急外来ただいま診断中,第2版,中外 医学社,2024
  •     ←具体的な薬剤の投与量や投与方法に自信がない場合は,事前に確認しておきましょう.
  • 2)Long B, et al:Controversies in Management of Hyperkalemia. J Emerg Med 55:192-205, 2018
  • 3)Piktel JS, et al:Beneficial Effect of Calcium Treatment for Hyperkalemia Is Not Due to “Membrane Stabilization”. Crit Care Med 52:1499- 1508, 2024
  • 4)Illingworth RN, et al:Rapid poisoning with slow-release potassium. Br Med J 281:485-486, 1980
  • 5)Blumberg A, et al:Effect of various therapeutic approaches on plasma potassium and major regulating factors in terminal renal failure. Am J Med 85:507-512, 1988

 

救急外来で遭遇する85疾患の診療における好手と悪手を徹底解説!

<内容紹介>
雑誌「medicina」で好評を博した増刊号「救急診療 好手と悪手」が待望の書籍化。救急外来で遭遇するさまざまな疾患の診療について、陥りがちなミスを「悪手」として提示し、適切な対応を「好手」として解説。書籍化にあたっては各項目を全面アップデートしたほか、産婦人科、小児科の章を追加し、救急外来でおさえておくべき主要な疾患を網羅した。

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