京都ERポケットブック 第2版

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ER研修の壁を乗り越えるサポーターとして、上級医の頭の中を言語化してコンパクトにまとめるという趣旨はそのままに、第2版では日々の臨床の中で研修医との対話を通じて浮かび上がった皆が躓くERでのポイントを意識して改訂。また主訴別アプローチの「アタマの中」は文字+イラストやフローで図示し、緊急性の高い病態対応の大きな幹をイメージ化し捉えやすくすることを目指した。

編集 洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER
責任編集 宮前 伸啓
執筆 荒 隆紀
発行 2023年02月判型:A6頁:528
ISBN 978-4-260-04988-7
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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推薦の序(松村理司)/第2版の序(宮前伸啓)

推薦の序

 筆者が医師になって半世紀近くになる.この間の医学・医療界の変化は多岐にわたる.ITの普及,教授選考や学位制度の透明化,医局運営の民主化,インフォームド・コンセントの浸透,癌告知の広がり,医療安全への配慮,カルテ改竄の撲滅,多職種協働の増加,医療者の労働条件の改善,パワハラ・セクハラの激減…….
 良いことづくめではない.医療者と患者との間に電子カルテと画像診断機器が濃密に介在するようになり,対面の機会や身体診察が激減した.コロナ禍とはいえ,身体診察消滅の光景すら散見される!

 半世紀前の日本の救急は悲惨だった.夜間は特に酷く,受入拒否が横行し,患者は医師になかなか診てもらえなかった.医学界は三次救急以外には重きを置かなかった.夜間一次救急は規模の大きい病院から締め出され,民間の小さな救急告示病院での1人診療に終始した.救急訓練など受けたことがない若手医師のアルバイトの巣窟であった.筆者の若きころの連日の姿である.一次救急を拒めば,施設とは呼ばれても病院とはみなされない米国の医療情勢とは,根本的に異なっていた.そのような情勢下に,「救急の日赤」の間隙を縫うように登場してきたのが徳洲会だった.
 学生運動の高揚下で廃止に至ったインターン制度は,中身を充実させ,2004年に「新医師臨床研修制度」(以下,「新制度」)として36年ぶりの復活を果たした.この抜本的改革の真意は,救急を含めた幅広い基本的臨床能力の獲得である.対象は初期研修医全員.救急に関して平たく言うと,飛行機や列車の中で,「ただいま急患が発生.どなたかお医者さんはおられませんか?」というアナウンスに対して,現役医師の大半が各々の専門性の垣根を越えて怯まずに対応できる医療体制の基盤が整った.欧米先進諸国や,米英の教育的影響が強い一部のアジア諸国の水準にやっと比肩できるようになった.
 「新制度」のあおりを食った形で大学医局の医師派遣能力が劣化し,「病院崩壊」の一因となったこともあり,“弾力化”が開始された.すなわち,2年間の研修義務年限が実質的に1年間に短縮され,2年目は将来の専門性の方向に舵を切る風が吹き荒れた.全国的に2/3の研修病院がこの方向になびいた.その状況下でも,6か月以上の内科研修,1か月以上の地域医療研修とともに必修対象から外されなかったのは,救急医療にとっても幸いだった.その後の多年に及ぶ見直しの結果,2020年にこの嵐が止み,「“弾力化”の廃止・2004年への回帰」に至ったのは慶賀にたえない.
 COVID-19は,日本の医療とERを襲った.医療崩壊を防ぐために最終学年の医学生を繰り上げ卒業させたイタリアや,100万人を超えるコロナ死に直面した米国には遠く及ばないが,日本の初期研修医も大半がERでの未曾有のコロナ対応に奮闘した.「新制度」以前には見られなかった光景である.

 本書の旧版は,洛陽の紙価をいささか高めたと聞く.引き続き本書が,ERでの研修医の学習と,ひいては患者の福音に資することを願う.

 2022年11月
 洛和会本部参与・洛和会京都厚生学校長 松村理司


第2版の序

 2018年の『京都ERポケットブック』発刊から,早4年が経過しました.
 初版では,ER研修の壁を乗り越えるサポーターとして,上級医の頭の中を言語化してコンパクトに実装するということをコンセプトに制作しました.
 その後の4年間はCOVID-19のパンデミックが起こり,救急初療の現場では,日々変わる不確実な状況に対して暗中模索での対応が求められました.そのような中,洛和会音羽病院(以下,当院)ではoff the jobとして,初版で語れなかった各症候学の補完内容を示した勉強会を行ってきました.また日々の臨床の中で,研修医との対話から浮かび上がった,皆が躓くERでのポイントや初版では触れていなかった病態対応を言語化して共有してきました.第2版ではそれらの要素を組み込んで内容を大きく刷新しました.改訂の主な内容としては,まず「I 原則編」を大幅に加筆しました.「ERと不確実性・複雑性」についてと,超高齢化や社会の変化への対応を盛り込み,1:1のマニュアル対応では捉えきれない,ERでの臨機応変で柔軟な対応についての考え方を掘り下げました.次に,研修医との対話の中から,躓くポイントとして挙げられた採血オーダーの検査項目の考え方や,初期点滴オーダーを図表化して加えました.そして「III 主訴別アプローチ編」の「アタマの中」を,文字だけではなくイラストやフローで図示し,緊急性の高い病態対応の大きな幹を,イメージ化して捉えやすくすることを目指しました.項目も,トリアージ黄に尿閉,低血糖,高血糖,高体温,低体温,コラムにCOVID-19対応を新たに追加しました.最後に,「V 特殊分野編」では「肝硬変患者救急」「担癌患者救急」「自殺企図・自傷行為対応」「虐待対応」などの項目を加えました.いずれもその症例に当たったときに,研修医と振り返る頻度の高いポイントとなっています.
 これらの内容は,当院での実践経験をもとに,荒 隆紀先生との対話を通して試行錯誤しながら紡ぎ出されているものです.「アタマの中」では,当院のセッティングで考えられる対応の根幹部分を「見える化」していますが,もちろん全てを語りきれているものではありません.この本を手に取っていただいた方々も,救急外来での実践経験を積みながら,自施設の状況を踏まえて,ご自身の言葉で書き加えながらご使用いただければ幸いです.
 救急外来での経験が,豊かで実りあるものになることを願いつつ.

 2022年11月 秋深まる京都にて
 宮前伸啓

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I 原則編
  ER診療の大原則
  ERと不確実性・複雑性
  ER診療の流れ
  ER診療におけるプレゼンテーション
  ER診療におけるリスクマネジメント
  ER研修での学習方略①――成人学習理論を利用して
  ER研修での学習方略②――検査の判定や日々の学習にEBMを利用する

II 検査編
  ① 血液ガス分析
  ② 心電図
  ③ 救急エコー
  ④ 胸部X線
  ⑤ グラム染色
  ⑥ 血液検査
  ⑦ CT読影
  ⑧ 頭部MRI
   COLUMN 脳梗塞局在診断の手引き

III トリアージで考える 主訴別アプローチ編
 トリアージ赤
  心肺停止
  多発外傷
  ショック
  呼吸困難
  胸痛
  けいれん
  喀血
  吐血,下血
 トリアージ黄
  意識障害
  めまい
   COLUMN 徹底分析! 中枢性めまい
  頭痛
  腹痛
  腰背部痛
  失神
  麻痺,脱力,しびれ
  嘔気・嘔吐
  発熱
  風邪
   COLUMN インフルエンザ
   COLUMN COVID-19
  咽頭痛
  陰囊痛
  血尿
  尿閉
  分類困難愁訴
  【ERでの電解質異常対応①】 低K血症
  【ERでの電解質異常対応②】 高K血症
  【ERでの電解質異常対応③】 低Na血症
  【ERでの電解質異常対応④】 高Ca血症
  低血糖
  高血糖
  高体温
  低体温
 トリアージ緑
  咳
  下痢
  下腿浮腫

IV 治療編
  ERでの気管挿管
  ERでの酸素療法と人工呼吸器管理
  ERでの抗菌薬

V 特殊分野編
  薬物中毒
  創傷処置
  熱傷
  皮膚科救急
  整形外科救急
   COLUMN 肩関節脱臼の整復方法
  眼科救急
  耳鼻咽喉科救急
  妊婦,婦人科救急
  透析患者救急
  肝硬変患者救急
  担癌患者救急
  自殺企図・自傷行為対応
  虐待対応(DV・子ども・高齢者)
  トラブル患者対応

VI 使える! ERの覚え書き
  一般
  循環器
  呼吸器
  消化器
  血液
  腎臓
  神経
  小児
  感染症
  薬剤

あとがき
索引

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ER医の「これを伝えたい」が詰まった1冊
書評者:加藤 陽一(熊本赤十字病院第一救急科部長)

 黄の帯紙に黒文字で「救急搬送までの5分間に,頭の中でチェックすべき事項がわかります」とはっきりある。そう,われわれの救急搬送患者との対峙はそこから始まる。この本の中核に位置する「主訴別アプローチ編」では,各主訴の始めの1ページに「アタマの中」として,この「5分間」でまず考えるべきことに加え,その主訴の初療がどのような方向に向かっていくのか,全体像がふんだんなイラストと共にわかりやすく示されている。患者に効率よく最良のアウトカムを提供するために,初療の早い段階から自分の立ち位置と,方向性を認識しておくことは大変重要である。経験が少ないとこのピクチャー(全体像)を描くことが難しく,それを的確に指導するのも容易ではないのだが,本書はそれを見事にこのページで示している。カラーで語呂合わせも多く登場するキャッチーなこの1ページだが,これを見ただけでも本書がERの臨床と指導に向き合い続けて,そして悩み続けた人たちが紡いだものだと実感できる。

 ER診療にまだ慣れていない人は,全体像をつかんだ上で実際の患者に向き合ったら,本書の「はじめの5分でやること」を押さえていくことになる。その上で患者の状態に余裕があるのであれば,「Q&A」を読んでから指導医に相談にいくことを薦めたい。指導医が投げかけてくる質問を先取りすることができるだろう(逆に指導医はこれを参考にワンポイントレクチャーをすることもできる!)。

 ER診療に慣れてきた人,少し興味を持った人,そしてERで指導に当たる人は,時間を見つけてぜひ,「ERと不確実性・複雑性」や高齢者診療の項目が初版よりもさらに充実した第I章「原則編」をめくってみてほしい。なぜわれわれがERに引かれるのか,なぜ悩み続けるのか,その一端がひもとかれている。興味を持った人はより一層魅力を感じるだろうし,悩める人はその解決の糸口がつかめるかもしれない。

 本書は初版から第2版への改訂にあたって,複数の項目が追加された。「COVID-19」や「担癌患者救急」そしてその中のirAEなどは時代の変化の中で新たに現れてきた病態である。また「自殺企図・自傷行為対応」「虐待対応」などは以前にも増して,ERにその初動の期待が掛けられているものである。いずれも社会の変化がいち早く現れ,その社会的要請に応えていくことが大きなミッションであるER診療を素早く反映させた形となっている。

 私はER診療の同志として,長年の真摯な臨床と指導への向き合い,そして苦悩の結晶であるこの1冊に純粋に敬意を表したい。

 われわれER医の「これを伝えたい」が詰まっている1冊。ぜひ,多くの場面で本書が活用され,患者の最良のアウトカムにつながることを願っている。


あなたのポケットにスマホでは得られない温かい相棒を。
書評者:溝辺 倫子(東京ベイ浦安市川医療センター救急集中治療科(救急外来部門)/地域医療振興協会シミュレーションセンター副センター長)

 今年も新年度がやってきました。初期研修医の皆さんが見せる,医師としてのはじめの一歩を踏み出すことができる喜びと期待に満ちた輝く笑顔が,本当にうれしく映ります。そんな初期研修医の皆さんが避けては通れない宿命が,救急外来での研修ではないでしょうか。現場に立って,初めて(当たり前ながら生身の人間として)実在する患者さんの症状症候に対応する時の不安と緊張は,何年経っても忘れられない記憶です。

 学生時代の机上の学習では,症状や所見が常に「言語化」され,記載されているのは必要な情報だけに絞られ,時系列に沿って並べられ,後は公式に当てはめるだけで診断や治療法を導き出すことができます。一方で,実臨床では,患者さんの訴えや所見を自ら言語化し,情報を引き出し取捨選択し,時系列に沿って並べ替え,どの公式を当てはめるべきか思案し,診断や必要な治療を考えなくてはなりません。これは,医師となれば毎日幾度となく繰り返している作業ですが,実は膨大な労力と知識量が問われます。医師になってからの繰り返しの訓練と学習で,その作業は徐々に楽になってくるのですが,当初は困難です。その労力と知識量を補ってくれるのが,本書です。「救急搬送までの5分でCheck! アタマの中」を見ながら情報収拾項目と当てはめるべき公式を,文字通り,頭の中に準備できます。これだけで,正しい診断や治療にグッと近づけるとともに,不安や緊張を少し和らげることができ,その分,患者さんとのコミュニケーションや共感に心を割くことができるでしょう。この度,第2版になってこの「救急搬送までの5分でCheck! アタマの中」の図が,さらに洗練され,図解もよりカラフルで明快になったと拝見しました。ぜひご活用いただきたいと思います。

 また,お勧めしたいのは,この本の通読です。通読して,それ以降は辞書のように,必要な時に必要なページを検索できるようになることをお勧めします。「特殊分野編」や「使える! ER覚え書き」の章も含めると,救急外来で出合う疾患がくまなく網羅されているため,教科書を超え辞書のように使えると思います。「あ,あのスコアリングが使えそう」「あのページに便利なフローチャートがあったな」「写真で載っていたあの皮疹に似ているのではないかな」といった形で活用してみると,この小さな本に隠された大きなキャパシティに気付くと思います。繰り返しているうちに,自然とその知識が頭の中に定着し,2年後にはこの本を卒業できるかも? いえいえ,このキャパシティを侮るなかれ。後期研修医になって専門研修に進んでも,折に触れて,この本の膨大な知識量が,皆さんの診療を支えてくれることでしょう。といいますのは,私自身が高校時代に海外留学した時,ポケット版の辞書を常に持ち歩き,周りが擦り切れボロボロになったことを思い出したのですが,使い込んだ本ほど使いやすく心強い相棒はいません。スマホにはない温かさを感じます。皆さんのポケットにも相棒として本書を忍ばせてみてはいかがでしょうか。


研修医の「立ち尽くすフェーズ」を乗り越えさせてくれる書
書評者:齊藤 裕之(山口大病院准教授・総合診療部)

 研修医と一緒にERで診察をしていると,症状から鑑別診断を考え,初期対応として何を行うべきかがわからずに立ち尽くしている状況を時々見ます。研修医の成長段階を質的研究すると,それは「立ち尽くすフェーズ」と言われ,そういえば若いころの私たちもERで何をしたらよいかわからず,立ち尽くしていた時期があったことを思い出します。私たち指導医は,研修医がなぜ立ち尽くしているのだろうと,彼らの立ち尽くす原因を鑑別診断するのですが「vitalが変化している患者さんにまずは何をしたらよいかわからない」,「主要な症状からどのような疾患を鑑別したらよいかわからない」「疾患は想起できているが,診断を確定するための検査方針がわからない」など研修医が立ち尽くす原因はさまざまです。中には何がわからないのかもわからないといった答えさえも聞かれますが,そういった「立ち尽くすフェーズ」を上手に乗り越えさせてくれるのが,この京都ERポケットブックです。救急初期対応の最初のステップは普段通りの落ち着いた思考でいること。青地に黄色の文字でERと書かれている表紙は「ええ(E)からリラックス(R)してや」と,優しく関西弁で語りかけてくれています。

 本書の内容はMBAホルダーの荒隆紀先生が執筆しただけあってさまざまなフレームワークを活用し,臨床現場でカオスになりがちな種々雑多な行動をわかりやすくまとめてあります。患者のファーストタッチから緊急性を察知し呼吸と循環を安定させるprimary survey(初期評価),状態を安定させた上で鑑別診断を挙げツボを押さえた問診と身体診察を行うsecondary survey(二次評価)は本書を通した一貫した行動目標となっており,私たちも常日ごろから研修医への指導や初期対応のセミナーで伝えているメッセージです。実は私たち指導医の行動も,このような型に基づいたシンプルな構成になっていることを研修医の皆さんに知ってもらえるとうれしいです。「なんだ,いつも同じ原則で動いているだけじゃないか」と気付くことができると,立ち尽くすフェーズから次のフェーズに移行することができます。

 第2版になりバージョンアップした点は,各症候のQ&Aが充実した点です。救急外来という限られた時間軸の中で診断・初期治療を行うことは,どうしても不確実性の要素が含まれてきます。だからこそ,研修医の疑問を指導医との議論で補うことで理解を深めていくわけですが,本書は診察中の研修医がよく質問してくれる内容を,文献を添えた説明やフレームワークを活用しながら解説しています。指導医にとっても指導方法の参考になるので,研修医から質問をされる前にチラッと目を通しておくと安心です。

 第2版京都ERは「立ち尽くすフェーズ」から脱却する研修医だけではなく,彼らの指導をサポートする指導医にもお薦めの一冊です。みんな,ええ(E)本やからレジデント(R)にお薦めしてや

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