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研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A

連載 小林只

2025.06.13

Q. 転載したい時は誰に許諾を申請すればいいですか?

A. 著作物の利用許諾を得るには,「著作者(創作者)」と「著作権者(財産権の保有者)」の違いを理解し,現在の著作権者が誰かを特定することが不可欠です。多くの場合,著作者自身が著作権者ですが,譲渡,職務著作,相続などにより,著作者と著作権者が異なるケースも少なくありません。利用前には必ず権利関係を確認し,適切な権利者から許諾を得るようにしましょう。

前回は著作権の基本と資料利用の判断フロー(第3回)について概説しました。今回は,著作物を利用したいと考えた際に,「誰から許諾を得ればよいのか?」という疑問に答えるため,著作権の中心的な登場人物である「著作者」と「著作権者」の関係性について,さらにはオーサーシップについても掘り下げて解説します。

著作者とは誰か?

著作者とは,文字通り「著作物を創作した人」を指し(著作権法第2条1項2号),論文執筆者,小説家,作曲家,画家,写真家,プログラマーなどが該当します。押さえておきたいのは,著作者は著作物を創作した時点で精神的な権利(著作者人格権)と財産的な権利(著作権)の2種類の権利を自動的に取得することです(詳細は第3回参照)。

著作権者とは誰か?

著作権者とは,著作物を創作した人のうち著作権(財産権)を保有している人(または法人)を指します。著作物を創作した時点では「著作者=著作権者」です。しかし著作権(財産権)は譲渡可能なため,以下の場合に著作者と著作権者が異なる状況が生まれます。

①著作権の譲渡(Transfer)
著作者が,契約によって著作権(財産権)の全部または一部を出版社,制作会社などに譲渡した場合,譲渡を受けた者が著作権者となります。著作者は人格権を引き続き保持するものの,譲渡された範囲の財産権に関する許諾権限は新しい著作権者に移ります。

②著作権の利用許諾(License)
著作者が著作権(財産権)を保持したまま,特定の利用方法(例:書籍化,翻訳,映像化)について,期間限定や地域限定などで他者に利用を許可する場合です。この場合,依然として著作者が「著作権者」ですが,著作権者(ライセンサー)は許諾を受ける者(ライセンシー)に対して,任意の許諾範囲内で著作物を利用する権利を与えることができます。許諾の範囲外の利用については,著作権者(=著作者)の許諾が必要です。

③職務著作(Work Made For Hire)
法人等(会社など)の従業員が,その法人の企画に基づき,職務として著作物を創作した場合,契約や勤務規則に特段の定めがなければ,原則としてその法人等が「著作者」となり,自動的に著作権(財産権)も取得します(著作権法第15条)。この場合,実際に創作活動を行った従業員個人ではなく,法人等が著作者人格権および著作権(財産権)を持つことになります。

④著作権の相続(Inheritance)
著作者が亡くなった場合,著作権(財産権)は相続の対象となり,遺産として相続人に引き継がれます。この場合,相続人が「著作権者」となります。

誰に許諾を得るべきか?

著作物を利用したい場合,原則として「その時点での著作権者」から許諾を得る必要があります。著作者が著作権(財産権)を譲渡していれば譲渡先へ,......

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