医学界新聞

  • 看護
「考えて動ける」看護師をどう育てるか

対談・座談会 大村正行,立野淳子

2026.10.27 医学界新聞:第3590号より

3590_0301.jpg

 刻々と状況が変化する救急現場では,指示を待つだけでなく自ら状況を判断し「考えて動ける」自律した看護師の存在が不可欠です。そのような人材を現場でどう育成し,個人の実践力を組織全体の力へと昇華させればよいのでしょうか。

 今回本紙では,救急現場の臨床経験などを経て現在は教育・研究の最前線で活躍する立野淳子氏と,看護部長/ER看護師長として臨床現場のマネジメントを牽引し,自身の経験知に基づいた新刊『救急外来で看護師は何を考え,どう動くのか——トリアージから高次搬送・地域連携まで』(医学書院)を上梓した大村正行氏の対談を実現。救急現場ならではの難しさに目を向けながら,これからの現場を担う看護師の育成と,現場における組織づくりの要諦を探ります。

大村 高齢化を背景に,救急現場の患者層は近年ますます多様化・複雑化しています。複数の疾患を抱えている患者もいれば,独居であったり,介護の問題を抱えていたりする方も多く,治療が終わっても帰宅がスムーズにいかないケースも珍しくありません。

立野 高齢者という言葉は長年にわたり医療現場のキーワードになっていますが,近年は超高齢者,つまり90歳以上やそれに近い年齢の方々が増加しています。70代と聞くとまだ若いと感じてしまうほどに80代や90代の患者が多く,高齢化という大きな流れの中でも患者層の確実な変化を感じています。

大村 70代の子どもが90代の親に付き添って救急車に同乗する時代ですからね。患者本人もご家族も高齢であることで,コミュニケーションの面で難しさを感じたり,聴取した情報がそれぞれどの程度正確なのか,判断に迷ったりすることもしばしばあります。

立野 超高齢者の増加が現場にもたらす影響を付け加えると,定型的な症状を示さない,あるいはその判断が難しい患者の増加があると考えています。通常であれば主訴から仮説を立てて何が起こっているのかを考えていきますが,基礎教育で学習するような一般的な高齢者の症状が超高齢患者では当てはまらないことも多いです。複数疾患を持った患者であればその傾向はさらに強まります。2040年までは高齢化率が上がり続けると予測されていることも踏まえると,これまで高齢者として一括りに考えられてきた病態・疾患への考え方を,もう1段階アップデートすべき局面に来ているのかもしれません。

 また,患者やその家族の高齢化がさらに進んでいくこれからの時代は,「救命」と「尊厳」の両立をどう図っていくかも救急現場の大きなテーマになってくると考えています。医療自体の発展に加えてAIや遠隔診療などのテクノロジーも普及していくことで,命を救う技術は今後も進歩していくでしょう。しかし80代や90代の方が毎日のように救急車で運ばれてくる現場では,命を救うだけでなくその人らしい生き方を尊重した医療をいかに提供できるか,との視点も求められてくるのではと思います。

大村 確かにそうですね。命が助かるということと,その人らしい人生を送れるということは,必ずしも同じではありません。尊厳やその人らしさには価値観や年齢,生活背景などさまざまな個別事情が深くかかわるため,一律の「正解」を置くことが難しいと感じます。だからこそ難しさも感じますし,救急の現場ではどうしても命を救うことに集中してしまいがちですが,そこで患者や家族の思いが本当に置き去りになっていないかとの視点は忘れないようにしたいです。

大村 こうした潮流の中で,時間的猶予が常にない救急の現場では,基本的な技術・知識に加え,限られた人的・物的リソースの中でどう対応していくかを考え,判断する力がより重要になっています。患者背景が複雑化していく中では,自分1人の力で全てを完結させることが困難なケースも増えていきます。私は救急看護において,「気づく,先を読む,つなぐ」という3つの力が重要だと考えています。患者に今何が起こっているのかに気づき,この先何が起こり得るのかを考え,その人に必要な人や場所,支援につなぐ。中でも「つなぐ力」は,患者背景が複雑になるほど重要になっていると感じます。

立野 つなぐ力は本当に大切だと思います。救急医療の現場には医師や看護師だけでなく,施設によっては薬剤師や臨床工学技士,患者や家族の意見を聞いてくれるメディエーターといった専門職がいることもあります。そうした専門職に適切につなぐことも看護師の重要な役割です。搬送されてきた患者をファーストタッチで問診し,フィジカルアセスメントを行い,医師の指示で薬を準備してルートを確保し,投与する。さらに患者や家族がどういう治療を望んでいるのか話を聞く。こうした一連の流れ全てを看護師だけで担うことには限界があります。一方では,先に挙げたような多職種の配置が救急の現場にはなかなか行き届いていない印象もありますがいかがでしょうか。

大村 現実的な問題として,人的資源の不足は多くの施設に共通する課題だと思います。大規模な救命救急センターであっても,そうした多職種が救急現場に常時配置されている施設ばかりではありません。院内にいたとしても,救急の現場に入ってくることは少ないのが現状です。地方の二次救急病院となるとさらに厳しい状況です。

 当院でも夜間は薬剤師が不在のため,院内のルールに基づき,医師とダブルチェックしながら必要な薬剤の準備に対応しなければならない場面があります。つなごうにもつなげない状況はありますが,だからこそ,多職種の方がもしいれば積極的に委ねたいとも思えます。各専門職がある程度そろっている環境であれば,それぞれの専門性をしっかり理解し,医師とのコミュニケーションを取りながらしかるべきところにつなぐハブの役割は,患者に継続してかかわる看護師だからこそ担える重要な役割だと思います。

立野 一般病棟では,各専門職が一人の患者さんに対して個別にかかわることが一般的になりつつあります。救急はその点で出遅れている部分もあり,看護師に負担が集中している現場も多いはずです。多職種の配置と連携の推進に関しては,まだまだこれからといったところですね。

立野 患者層や現場で求められる力が変化していく中では,看護師を育てる側,管理する側の在り方も問い直されていると言えます。現場の若手やスタッフを育てていく上で管理者が絶対にやってはいけないことの1つに,目的や動機付けのない部署異動・人員配置があると考えています。新人看護師を配置したり,規定のローテーションで異動させたりする中で,本人が学びたいことと組織がその人に求めていることが一致しないことは多々あります。しかし,そこをすり合わせようとする努力をしなければ,本人の学ぶ意欲は初めからゼロになってしまうかもしれません。目的や動機付けが欠如していると,せっかく育つはずの人材を潰してしまうことになります。

大村 人員配置や異動に関しては,救急外来には病棟のような診療報酬上の一律の看護配置基準がないという事情も大きく絡んできます。病棟は基準を満たさないと診療報酬にかかわり経営に直結するため,病院全体で人員配置を調整する際には病棟の配置基準を優先せざるを得ず,救急部門から応援を出す判断が生じやすいです。そうした場合も異動を組織の都合として淡々と伝えるだけではなく,本人が異動後も前向きな気持ちで働けるように動機づけしながら伝えることが管理者の責任でもあると思います。

 私自身,看護部長として異動を伝える際は必ずその理由を本人に提示するようにしています。病院側の目的やその人が異動先で発揮できる役割を伝えることを通して,できるだけモチベーションを引き出したいとの気持ちが常にあるからです。

立野 管理者が異動者に対して前向きになれる一言を添えられるかどうかによって,本人や周囲のスタッフの受け止め方も全く違ってくるはずです。これは一見当たり前のことだと思われがちですが,実際にはできていない組織も多いと感じています。書面一枚だけで本人に通達するケースや,直属の師長すらもその人の異動を直前に知らされるケースも見聞きします。

 例えば医師の場合は,小児科で働く人が明日から心臓血管外科に行ってくれと急に言われることはありません。ですが看護師は救急科から産婦人科へ,といった全く別領域への異動が突然決まることも珍しくありません。もちろん経営側の論理もあるのでこうした異動自体は仕方ないにせよ,そこに教育という視点を挟み,本人に大切な人材であることを伝えるプロセスがあることで,納得感とその後の成長が全く異なってくるはずです。

広告
広告

大村 教育という視点では,前述のような言葉による動機づけとは別に,相手に考えてもらい,それを引き出すようなコミュニケーションの仕方も管理者として大切にすべきことだと考えています。例えば管理者が一つひとつの業務に対して細かく指示することが当たり前の環境では,指示がないと自分から動けないスタッフばかり育ってしまいます。そのため私は,患者安全に必要な情報や指示は確実に共有した上で,すぐに答えを示すのではなく,「次はどうする?」と問いかけ,相手自身に考えてもらうことを意識しています。

 また,業務をうまく回せているスタッフに対しては,その理由を聞いてみます。すると偶然うまくいっているだけのこともあれば,本人の意図と結果が明確に結びついていることもあります。結果だけでなく,その人がどのように考えて行動したのかという思考過程を言語化してもらい,そこにフィードバックすることを意識しています。こうした業務の中での対話そのものが,スタッフの成長につながると感じています。

立野 素晴らしいことだと思います。加えて,そうした管理者とスタッフの間の対話の前提には,わからないことをわからないと言える,何に気づいたのか,何を考えたのかを安心して発言できる,すなわち心理的安全性のある関係が不可欠ですよね。特に救急では時間や資源が限られた状況で次々に判断をしなければならない場面が多く,前の診療科ではうまくやれていた人でも,救急の現場ではなかなかうまく対応できないことが少なくありません。心理的安全性が担保されていない環境でのディスカッションや振り返りは,スタッフが自分の至らなさをただ痛感したり,一方的に責められているように感じたりしてしまい,自己効力感の低下につながりかねません。

大村 実際,その場で一緒に振り返りもしながら業務を遂行していくことは,救急の現場では状況的に難しいことも多いです。しかしリアルタイムのディスカッションだからこそスタッフの本音や考えを引き出せる面もあり,個人的にはそこに面白さを感じてもいます。心理的安全性という大前提を守りながら,今後もスタッフとの対話を継続していきたいと思います。

立野 最近の新人看護師や学生の皆さんを見ていると,若い世代にも学ぶ意欲が高い人はとても多いと感じます。ただ心理的安全性が担保されていない環境ではその意欲が十分に発揮できないこともしばしばです。育てる側は相手の自主性だけに任せず,大村先生が実践されているような心理的安全性を前提とした日々の対話を積み重ねることで,若い世代が「学べる状態」になることを支えていかなければなりませんね。

大村 若手が学べる状態を保てるような環境づくりで言うと,管理者個人の力では限界があるとも感じています。現場のリーダーやベテランの方々をいかに巻き込んでいくかが,組織として人を育てる文化の醸成にとって重要ではないかと。

立野 そうですね。こうした新人教育や人材育成といったテーマを考える際,管理者はどうしても教えられる側にいる若手にばかり目が向きがちです。けれども実は教える側である上の世代のスタッフたちの育成こそがポイントと言えます。この点,大村先生はどのようなアプローチをされていますか。

大村 まずは若手とベテランの間に対話を生み出すよう心がけています。若手に「あの人の看護実践はすごいから,どういう風に考えているのかちょっと聞いてみて」と促すこともあれば,逆にベテランに対して「あなたのやっていることを,他の人ができるように伝えてくれないか」とお願いすることもあります。

立野 看護師としての知識と技術が豊富な方でも,言語化や若手への働きかけに関しては得意・不得意がありますから,そこを見極めてアプローチを変えているのですね。昔のように「背中を見て学べ」の時代ではないからこそ,そうして対話のきっかけを作ることはとても大切です。それを繰り返していくことで若手に効果的なフィードバックができるベテランを増やしていけば,管理者もぐっと楽になっていくはずです。

大村 今のお話は,成長し続ける組織づくりという観点からも大切に感じました。私は師長や管理者など,特定の誰かがいなければ成立しない現場は組織として弱いと考えており,誰が担当しても一定水準以上の看護を提供できる組織づくりを日ごろからめざしています。標準化やマニュアル,教育によって個人の優れた実践を組織全体に広げ,属人性を低減していくことも重要です。優れた人を見つけてその人の視点や思考を言語化してもらえば,それが周囲に波及していきます。その中でさらに標準化・マニュアル化できるところがあれば,組織全体の看護実践の質が向上します。このサイクルを積み重ねていくことが,組織としての成長にもつながると考えています。

立野 救急の現場において,対話をしながら実践するための時間的・精神的な余力を作ることは至難の業です。だからこそ,思考やオリジナリティの余地がない業務に関しては徹底的なマニュアル化・標準化が必要だと感じています。決められたマニュアルに則ることは医療安全の面でも理にかなっていますが,教育という視点で見れば,標準化は教育のための時間と余力を作るために行う作業ととらえることもできます。

大村 全く同感です。個別の臨床判断をほとんど必要としない定型業務については,私も標準化を推進しています。そこで生まれた余力を,患者ごとに異なる状況に対する思考や判断など,標準化しきれない部分の教育に振り向けられるかが組織の成長にとっても重要だと思っています。

立野 現場のスタッフが業務で用いる物品1つをとってもそうです。救急現場の物品って,いつの間にかどんどん増えませんか?

大村 増えますね(笑)。何種類も置いて選択肢を増やしても,かえってスタッフは悩んでしまいます。豊富にあればいいというものではないですし,全く使わない物品もあるので,そうした細かい部分のスリム化・標準化も含めて無駄な時間をなるべく生じさせない工夫が必要だと感じます。教育の余力を作るための標準化は,これからも定期的にルールを見直しながら進めていきたいところです。

大村 今の若手が受けてきた教育はわれわれ世代とは異なる部分も多いです。その違いが臨床現場では世代間のコミュニケーションに影響している部分もあるかと思いますが,臨床を経て基礎教育に携わっている立野先生の視点からはどう見えていますか。

立野 現在の基礎教育で用いられているコア・カリキュラムでは,自分の気持ちや考えを言語化する力や,自発的に考え,周囲と意見を述べ合う経験が重視され,今の中堅・ベテラン層が受けてきた基礎教育と異なっています。そのため現場に出た時にベテラン層が若手の考えをうまく引き出せなかったり,若手側も委縮して自分の考えを伝えられなかったりといったことが多く見られ,今後の課題だと感じています。

大村 なるほど……。基礎教育でそうした教育を受けてきているからこそ,現場もその力を伸ばせるような土壌を作らないといけませんね。私自身,そうしたギャップを埋めたいと考えており,教育の新しい潮流を現場に浸透させていくために,大学からの臨地実習を来年から受け入れるべく準備を進めています。考えて動ける看護師がますます救急現場で求められている時代だからこそ,現場での教育と,人が成長し続けられる組織づくりにこれからも力を注いでいきたいです。

(了)


3590_0303.jpg

薬師寺慈恵病院 看護部長 / ER看護師長

2006年岡山赤十字病院に看護師として入職。救命救急センターで経験を積み,14年救急看護認定看護師に。培った知識やスキルを自らの地元に還元するため,23年に薬師寺慈恵病院へ入職し,ER看護師長を務める。25年より看護部長を兼任。20年岡山県立大大学院保健福祉学研究科修了。看護学修士。21年看護師特定行為研修修了。26年10月,救急看護師の思考と実践を現場の視点から解説した『救急外来で看護師は何を考え,どう動くのか——トリアージから高次搬送・地域連携まで』(医学書院)を上梓した。

3590_0302.jpg

産業医科大学産業保健学部 准教授

1998年より聖路加国際病院,小倉記念病院で看護師として勤務した後,2005年に佐賀大大学院医学系研究科修士課程を修了。同年山口大大学院医学系研究科助手,07年より同大講師。11年に同大大学院博士後期課程を修了。博士(保健学)。26年より現職。『救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド』(医学書院)ほか編著書多数。