救急外来で看護師は何を考え、どう動くのか
トリアージから高次搬送・地域連携まで
救急患者に必要な医療を止めずにつなぐための判断の支えとなる一冊
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救急患者への対応は搬送される前から始まり、転帰判断までが含まれる。救急隊からの第一報を受けての準備、搬送直後の患者の第一印象による判断、重症患者を見落とさないためのトリアージ、医師やスタッフとの構造化された情報共有、医療的緊急度だけでなく生活背景までとらえた転帰判断など、著者らの経験知に基づいた救急看護を現場感覚で学べる。救命だけではない、患者のその後もとらえた救急看護がここにある。
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序文
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推薦の序/まえがき
推薦の序
救急外来は,医療のなかでもとりわけ不確実性の高い場所である。誰が,いつ,どのような状態で運ばれてくるかわからない。限られた人手と時間,そして情報のなかで,目の前の患者にとっての「最善」を選び取っていく。その現場で看護師が果たす役割の大きさを,私は救急医として日々痛感してきた。
医師が診断や治療方針にたどり着くまでの間,看護師は常に動き続けている。電話の向こうの声から患者像を描き,到着前に必要な準備を整え,第一印象で緊急度を見抜く。異常に気づけば真っ先に声を上げ,検査や搬送の動線が止まらないよう先回りする。その1つひとつの判断と行動が,救急医療の質を静かに,しかし決定的に左右している。私自身,何度助けられたかわからない。
本書の見事なところは,これまで言葉にされにくかった「看護師の思考と動き」を,患者が来院する前・到着時・到着後という時間軸に沿って,驚くほど具体的に描き出した点にある。しかもその視点は,多くの場合医療資源が潤沢な三次救急ではなく,二次救急の現場に置かれている。トリアージから検査・画像,時間外の薬剤対応,そして救急医の間でも重要視されるディスポジション(転帰)まで。高次搬送や地域連携,退院支援も,救急外来においては短時間での準備と決断が求められる。そんな中であっても,患者の生活の先までを見据えた視点が一貫して流れているのが素晴らしい。7つのCaseを時間の流れとともに追う構成は,まさに現場そのものであり,読み手はページをめくるほどに,自分がその場に立っているかのような臨場感を覚えるはずである。そしてそのすべてが,日々患者と向き合う現場の看護師の手によって書かれている。だからこそ,一行一行に実践の重みと説得力がある。
若手の看護師には確かな道しるべとして,経験を積んだ看護師には自らの動きを言語化し,後進へ伝えるための鏡として,そして私たち医師にとっては,ともに働く看護師が何を見て何を考えているのかを知るための貴重な一冊として。立場を超えて,救急に関わる多くの人に手に取ってほしい。
救急の最前線に立つすべての方に,本書を推薦する。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長,救急科専門医)
まえがき
夜間や休日,少人数の当直。救急車のサイレンが近づく音と同時に,受付対応,検査依頼,病床調整,家族対応──救急隊員からの第一報から始まったいくつもの「いま」が同時に動きます。救急車で搬送されるだけでなく,患者自ら,あるいは家族とともに救急外来を受診することもあります。それは,診療放射線技師や臨床検査技師,薬剤師が常時そろっていない時間帯でも同じです。
また,救急医療は1つの施設だけで完結するものではありません。患者は病態や生活の変化に応じて,より高度な医療機関へ,地域の病院へ,さらには在宅や施設へと,必要な医療・ケアの場を移しながら支えられていきます。
つまり救急医療とは,患者に必要な医療を「切れ目なくつないでいく」営みそのものなのです。その流れを止めずにつないでいくために,患者の最も近くで状況を把握し,多職種や地域を結びながら医療を前へ進める存在──それが看護師です。
私はこれまで救命救急センターで重症患者の診療に携わり,その後,地域の二次救急病院へ活動の場を移しました。環境は大きく変わりました。救命救急センターでは,多くの専門職がそろい,高度医療を提供できます。一方,二次救急では,夜間や休日には人的・物的資源が限られ,その場にある資源を最大限に活用しながら診療を進めなければなりません。その両方の現場を経験して強く感じたことがあります。それは,施設の規模や機能が違っても,看護師が考えるべき本質は変わらないということです。
経験豊富な看護師は考えるべき本質をとらえて自然に思考を重ねながら行動しています。しかし,その「頭の中」は経験則として語られることが多く,体系的に学ぶ機会は決して多くありません。本書でお伝えしたいのは,まさにその「思考プロセス」です。個人の中にとどまりがちだった「経験値」をできる限り言語化し,誰もが現場で実践できる形へとまとめることを目指しました。そのため,単に知識や手技だけを並べるのではなく,「なぜその判断をしたのか」「なぜその行動を選んだのか」を大切にしました。第1部の各Chapterでは現場で押さえるべき考え方を整理し,その後の第2部のCaseでは実際の症例を通して,「どのように考え,どう動くのか」を時系列で追体験できる構成にしています。
また,本書は二次救急を主な舞台としていますが,その内容は決して二次救急だけのものではありません。トリアージ,高次搬送,病床調整,地域連携,電話相談,薬剤不足への対応,多職種との情報共有──これらは施設ごとに多少形は異なりますが,「患者に必要な医療を止めずにつなぐ」という本質は共通しています。そして,すべてが思い通りに進むことのない救急現場では,何ができるのかを考え,限られた資源を最大限に活かして最善の一手を導き出すこと,これこそが救急看護の専門性であり,現場の力となります。こうした考え方は,救命救急センターで高度急性期医療に携わる看護師にとっても,地域の二次救急病院で勤務する看護師にとっても,一次救急や救急患者を受け入れる病棟・外来で働く看護師にとっても,さらには地域医療や在宅へ患者をつないでいく場面においても活用できるものだと考えています。
施設の規模や役割は違っても,患者に必要な医療を止めずにつなぎたいという思いは,救急に携わるすべての看護師に共通しています。本書が,救命救急センターから地域の救急病院,病棟・外来,そして地域・在宅へと続く救急医療の流れの中で,皆さんの実践を支え,「つなぐ力」を育む一冊となれば幸いです。そして,この本を閉じたあと,皆さんの現場が昨日より少し動きやすくなり,1人でも多くの患者と家族に「この病院でよかった」と感じていただけることを,心より願っています。
2026年9月
大村正行
目次
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推薦の序
まえがき
第1部 概論編──看護が主導する初動と連携
Chapter 1 救急対応の全体像(看護の視点)
Chapter 1のねらい──救急対応を「再現可能な動線」としてとらえる
二次救急と三次救急の違い──看護に求められる「機能の違い」を理解する
標準動線──受け入れから方針決定までを「一本の線」でつなぐ
夜間・休日の横断業務──限られた資源の中で医療を成立させる
地域特性と高次搬送の判断──「どこで診るか」を早期に見極める
救急隊との連携──動線の外側をつなぐ
看護師に求められる力
Chapter 2 制度・運用の基礎
Chapter 2のねらい──制度を知り,生活を見据えた転帰を考える
救急外来における「お金と手続き」初動対応
どこまで診て,どこへ送るのか
地域連携と再搬送予防
タイムラインごとの介入──事例を通して
Chapter 3 受け入れ前対応とトリアージ
Chapter 3のねらい──見えない患者を予測し,到着前から治療を始める
電話トリアージ──電話の向こうにある見えない情報を可視化する
リソース管理の3要素──manpower/space/resource
到着直後──MIST/ABCDEアプローチの使いどころ
異常を見つけたら,まずコール──ISBARCにつなげる初動対応
家族看護の具体的なアクション
Chapter 4 検査・画像
Chapter 4のねらい──限られた人員で「止めない検査」を成立させる
採血・血液ガス──「検体の質」が診療の質を決める
画像(X線・CT)──「運ぶこと」が最大のリスクになる場面
12誘導心電図・ベッドサイドエコー──「先回り」で診断を加速させる
Chapter 5 時間外の薬剤対応
Chapter 5のねらい──制約のなかで治療を止めないための実践
状況認識(0~5分)──「薬がない」で止まらないための最初の一手
在庫確認(5~10分)──「何が使えるか」を可視化する
目的の再定義(10~15分)──「薬がない」を乗り越える思考の中核
代替フロー起動(15~25分)──「考える」から「動かす」へ
投与と観察(25~60分)──「投与して終わり」にしないための看護
記録と引き継ぎ(60分~)──「次に迷わせない」ための情報整理
Chapter 6 搬送・転院・退院支援
Chapter 6のねらい──入院リスクを加味して治療場所や方法を点検する
入院によるリスク
転帰を考えるための視点
地域とつなぐための準備
再受診を防ぐ視点
退院支援の実際
下り搬送
搬送・転院・退院支援は一連のプロセス
Chapter 7 安全管理とチーム連携
Chapter 7のねらい──限られた環境で「安全を落とさない」ための仕組み
最少人数でも安全を担保する基本原則
物品・機器管理──「ない・動かない」を起こさない
交代時ハンドオフ──判断をつなぐ
第2部 事例編──7つのCaseから学ぶ救急対応
Case 1 独居高齢者+転倒/帰宅可否の調整
Case 1で学べること
初期評価(0~20分)──医学的緊急度と生活背景を同時にとらえる
検査・処置(30~60分)──骨折の有無とADL低下を確認する
生活背景と在宅サービスの確認(60~90分)──帰宅後の安全を具体的に考える
帰宅可否の判断(90~110分)──支援を組み合わせて安全に帰す
Case 2 出血性ショック/輸血準備と高次搬送
Case 2で学べること
到着前(-10~0分)──情報整理と初期準備
到着~3分──第一印象と初動介入
3~10分──検査動線と高次搬送判断
10~30分──輸血準備と高次搬送依頼
30~60分──輸血の開始と高次搬送
転帰
Case 3 胸痛(急性心筋梗塞疑い)/心電図起点の初期対応と搬送判断
Case 3で学べること
到着前(-10~0分)──ECGを起点に「時間を動かす準備」をする
到着~3分──第一印象で「緊急度」を見抜く
3~10分──ECGで診断の起点を作り,見た瞬間に共有する
10~30分──治療と搬送を同時に進める
30分以降──搬送準備とPCI実施施設への橋渡し
Case 4 施設入所者の誤嚥性肺炎/酸素・吸引・病床確保
Case 4で学べること
到着前(-10~0分)──呼吸状態の悪化を予測し,継続ケアを見据えて準備する
到着0~5分──人手を要すケアでも救急外来が機能するために
5~10分──情報(MIST)が患者と合致するかを確認
10~15分──検査画像と症状から見据える思考の中核
15~30分──病床確保と継続ケアへの移行
30~60分──施設・家族との情報共有と意思決定支援
Case 5 低血糖による意識障害/是正と帰宅判断
Case 5で学べること
到着前(-10~0分)──「まず血糖測定」を成立させる準備
到着~3分──「迷わず血糖測定」にたどり着けるか
3~10分──「測る」から「是正する」へ
10~30分──「治す」から「再発させない」へ
Case 6 発熱+意識変容(敗血症疑い)/検査動線と抗菌薬準備
Case 6で学べること
到着前(-10~0分)──抗菌薬投与までの準備を走らせる
到着直後(0~3分)──ABCDEアプローチと同時並行の初期対応
検査動線(3~10分)──「流れを止めない動線」を作る看護師の役割
抗菌薬投与(10~30分)──「遅らせない」ための最終フェーズ
初期評価(30~60分)──治療効果と安全性を同時に判断する
転帰判断と申し送り──夜間の判断を次につなげる
Case 7 発熱+倦怠感/代替薬での安全確保
Case 7で学べること
状況認識(0~5分)──「薬がない」状況を正しく把握する
在庫確認(5~10分)──正確な情報がすべてを決める
目的の再定義(10~15分)──抗菌薬投与の目的をとらえなおす
代替フロー起動(15~25分)──単なる薬剤変更ではなく,治療を継続できる仕組みを作る
投与と観察(25~60分)──代替治療を安全に成立させる
記録と引き継ぎ(60分~)──判断の背景を次につなぐ
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