医学界新聞


2026年10月27日公開分

書評

2026.10.27 医学界新聞:第3590号より

《評者》 伊勢赤十字病院 薬剤部長

 がん領域の専門・認定資格取得をめざす受験者にとって,膨大な知識をどう整理し,アウトプットにつなげるかは最大の課題です。本書は,岐阜薬科大の吉村知哲先生と福岡大の松尾宏一先生が編集を務め,最前線で活躍するエキスパートが執筆した,まさに「実戦」に臨むための必須の問題集です。

◆知識の「使い方」を学ぶ,アウトプットの最適解

 がん領域には知識を習得するための参考書は数多く存在しますが,習得した内容を評価し,アウトプットする場は限られていました。本来,学習者は参考書で「武器」を手に入れ,問題集でその「使い方」を練習して試験に臨むものです。本書は,自身の弱点や不得意分野を把握し,知識をより深く理解するための「アウトプット」に最適な一冊です。

◆圧倒的な試験範囲の網羅性と実践性

 本書の最大の特長は,各認定団体の試験範囲を広範にカバーしている点にあります。

・網羅的な構成:がんの基礎,抗がん薬各論,がん種別薬物療法,支持療法・副作用マネジメント,緩和ケアにおける薬物療法まで,出題範囲が網羅されています。

・症例問題の充実:総合演習としてがん種別の症例問題も掲載されており,より実践的な演習が可能で,専門・認定薬剤師に求められる臨床判断能力を,客観的に評価する上で最適な症例問題です。

・要点の整理:各項目の末尾には「押さえていきたいポイント」が簡潔に整理され,知識の定着に役立つ工夫がされています。

◆学習効率を最大化するWeb付録と成績管理

 学習の継続を支える利便性も本書の大きな魅力です。

・場所を問わない問題演習:Web付録によりスマートフォンやタブレットからも解答が可能で,隙間時間を有効に活用できます。

・苦手克服に直結する成績表:全問題あるいはカテゴリ別の問題を解き終えると成績表を確認できるため,不得意な領域や間違った問題を繰り返し復習し,着実に実力を底上げできます。

◆薬剤師のみならず,全てのがん医療従事者へ

 本書は薬剤師の資格試験対策を主眼に置いていますが,がん化学療法看護認定看護師など,薬剤師以外の職種でがん薬物療法の知識を深めたい方,あるいは認定試験に臨む方にとっても必須の問題集といえます。資格試験合格への最短ルートを切り拓く一冊として,がん領域の資格をめざす全ての方に強くお薦めします。


《評者》 「未来をつくるkaigoカフェ」 代表

 医療や介護の従事者として忙しく走り回る毎日――。私たちは困難な現場に直面したとき,「早く正解を出さなきゃ」と焦り,いつの間にか制度の枠組みに当てはめることで解決しようと自らを急かしてはいないでしょうか。そんな日々に息苦しさを感じている全ての人に,金城隆展さんの新著『ケアするあなたの倫理学』を手渡したくなりました。

 本書が説くのは,教科書に載っているような難しい理屈ではありません。「迷ってもいい」「ためらってもいい」という,現場で葛藤する私たちへの温かな肯定です。

 私が主宰する「未来をつくるkaigoカフェ」は,ケアにかかわる誰もが肩書きや役職を気にせず,お茶を飲みながら自由に思いを語る場をめざして運営を続けています。私自身,長く介護の現場で働く中で,利用者の「その人らしさ」を支える側こそが,まず「自分らしく生きる」ことを真剣に考える必要があるのではないか――そう考えたのが設立のきっかけでした。本書につづられた「問い」は,私自身がずっと抱えてきた悩みでした。

 特に印象的だったのは,ナラティヴ(物語)についての視点です。私たちは専門職として,つい相手の語りを「正しく」解釈して,良い方向へ導こうとしてしまいます。でも,本当のナラティヴとは,相手を変えるための道具ではありません。それは,相手の物語の中に自分も入り込み,それによって自らの見方や態度が変容することをも恐れない「覚悟」を指すのだといいます。

 利用者の複雑な人生に触れたとき,理屈で割り切れない思いに一緒に揺さぶられる。それは専門家として未熟なのではなく,一人の人間として誠実に向き合っている証拠なのだと本書は教えてくれます。「導く人」から「共に揺れる人」になろう。そうしたメッセージだと私は受けとめました。

 特に管理職やケアマネジャーの立場だと,多職種間の調整役としてつい専門家の鎧を着込んでしまいがちです。でも,その鎧が相手との間に距離を作ってしまうこともあります。

 本書で紹介される「心の白衣を脱ぐ」という言葉が,胸に響きました。それは単に優しく接することではありません。相手のことが「わからない」という不安の中に,逃げずにとどまり続けること。私たちがカフェ活動で大切にしている対話も,まさにこの「わからなさ」や「正解のなさ」を誰かと分かち合うための場なのだと再確認しました。「わからなさ」の中に居続ける勇気を持つこと。本書は答えをくれるのではなく,あなたのその試行錯誤こそがケアの本質なのだと,励ましてくれます。

 倫理とは,難しいルールのことではありません。誰かの物語を「わかったつもり」にならず,大切に寄り添おうとするその姿勢そのものだと,著者は語りかけてくれます。

 もし今,あなたが目の前の仕事に行き詰まりを感じているなら,ぜひ本書のページをめくってみてください。読み終えた後,患者さんや利用者さんの元に向かう足取りが,ほんの少しだけ軽くなる。そんな一冊です。


《評者》 国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室 医長

 「自分のポスター,悪くはないと思うけれど,何かが物足りない」。

 学会発表のポスターを前に,そんなふうに感じたことはないでしょうか。あるいは,後輩のポスターを直そうとして,「ここをこうしたほうがいい」とは思うのに,その理由をうまく言葉にできなかった経験はないでしょうか。

 本書『医療者のポスターデザイン』は,そうしたもどかしさに応えてくれる一冊です。ポスター作りに限らず,医療者・研究者が情報をわかりやすく伝えるための基本が,ここには詰まっています。

 本書の一番の価値は,デザインの良し悪しを「言語化」してくれるところにあります。見た目が良いポスター,そうでないポスターは確かに存在しますが,「なぜ良いのか」「どこが惜しいのか」を説明するのは,思いの外難しいものです。本書は,このうまく言葉にしづらい部分,すなわち見やすさや読みやすさ,納得感がどこから生まれるのかを,丁寧に解きほぐしてくれます。しかも本書はテクニックの紹介にとどまりません。「なぜデザインを頑張るのか」という心構えから説き起こし,デザインが飾りではなく,情報を正しく伝えるための技術であることを伝えてくれます。

 扱う範囲も実に幅広いものです。タイトルやアイキャッチ,情報の強弱,視線の流れといったデザインの基本要素から,色の使い方やコンセプトカラーの考え方,フォントや行間の整え方まで解説されており,読みやすさが細部の積み重ねで決まることがよくわかります。私は特に「アイキャッチ」を意識したことがなく,大変参考になりました。また,紙の材質やフォーマット,ポスターの幅といった,誰も教えてくれないけれど結構大事な知識まで押さえられているのもありがたいところです。近年話題の生成AIの具体的な活用法についても触れられています。

 本書の後半は実例集とテンプレートが大きな比重を占めています。学会会場でよく見るありふれたポスターを,視認性が良く,抜け感のあるものへと変換するポイントが解説されており,「実際にどう作ればよいか」が具体的にイメージできます。さらに発表時のお作法や,資料を入れたクリアファイルのような「手土産」を用意するといった実践的なふるまいまで扱われており,ポスターは作って終わりではなく,良いプレゼンテーションやその後の対話まで含めて設計するものなのだ,と考えさせられます。

 「なんとなく見やすい」「なんとなく良い」を再現可能な知識として体系的に学べる一冊として,本書を医療者・研究者に強くお薦めします。後輩にも,ぜひ手渡したいと思える本でした。