- 看護
がん患者のせん妄を看護する エビデンスと臨床の間で
[第11回] 在宅でのせん妄,痛みがあるせん妄
連載 菅野雄介
2026.08.11 医学界新聞:第3588号より
痛みとせん妄の関係性
せん妄のある患者さんの痛みの訴えは一定せず,不穏の原因が「痛み」か「せん妄」かの判断は困難です。オピオイドの増量は眠気を強めて生活に影響を及ぼしますし,かといって控えすぎれば痛みがせん妄を悪化させるというジレンマがあります。こうした場面は終末期に限らず,がん医療のさまざまな場面で起こり得ます。がん患者さんの疼痛有病率は44.5%(中等度以上は30.6%)に上り1),痛みは不眠や不安を介してせん妄の発症・悪化にも関与します。また在宅では,「別人のようになった」といった患者さんの最初の変化にご家族が気づき,不安を抱えながら対応に当たるケースが多く見られます。
痛みとせん妄のマネジメントにおける共通の目標は,患者さんの苦痛を和らげつつ,その人にとって意味のある形で治療や生活,家族とのかかわりを支えることです。
痛みとオピオイドをどう見立てるか
痛みを伴うせん妄では,丁寧に観察することが重要です。せん妄があると,NRS(Numerical Rating Scale)などによる痛みの自己評価は不安定になります。痛みを「10」と訴えていても説明が一定しないことや,反対にはっきりと痛みを訴えていなくても,表情や体動に痛みが現れていることもあります。「痛みがあるかもしれない」という前提に立つことが大切です。
高齢の進行がん患者さんを対象とした研究では,医療者が「痛みあり」と判断した日は入院期間中の39~60%に及んだのに対し,良好な疼痛コントロールが得られていると判断された日は25%未満でした2)。これは,せん妄のある患者さんの痛みが「存在しない」のではなく,「評価しにくく,調整しにくい」ことを示しています。そのため,痛みの評価では自己評価だけに頼らず,行動変化と他者評価を組み合わせる必要があります。痛い部位をかばう,顔をしかめる,うめき声をあげる,体位変換や処置の前後で落ち着きが変わる,レスキュー薬の使用後に表情や動作が和らぐといった変化を観察します3)。また,患者さんをよく知る家族に「痛い時は普段どのような様子になりますか」「今の表情や動きはいつもと違いますか」と尋ねることも有用です(表1)。
痛みとせん妄が重なると,「オピオイドをどうするか」が焦点となります。オピオイドはせん妄の原因となり得ますが,単に減らせばよいというわけではありません。鎮痛が不十分であれば,痛みそのものが不眠や不穏を引き起こし,せん妄を悪化させる可能性があるためです。オピオイド誘発性せん妄に対するオピオイドスイッチングは有力な選択肢の一つですが,エビデンスレベルは非常に低いとされています4)。看護師は,薬剤調整前後の痛み,眠気,活動性,睡眠,食事,排便,家族とのかかわりやすさを観察し,チームへフィードバックする役割を担います。
認知症とせん妄をどう見分けるか
在宅でのせん妄マネジメントでは,「本人の様子がいつもと違う」という家族の気づきが重要です。せん妄は,突然の混乱や興奮として現れるだけでなく,不眠,昼夜逆転,落ち着かなさ,幻視,つじつまの合わない会話として現れることもあります。65歳以上の在宅・施設入居高齢者を対象としたスコーピングレビューでは,在宅でのせん妄有病率は0.1~44.0%と幅があり,対象者の脆弱性や評価方法によって推定値が大きく異なることが示されています5)。
在宅では,もともと認知症のある患者さんも少なくありません。そのため「認知症が進んだ」と感じた変化の中に,せん妄が重なっていることがあります。認知症は一般に月単位から年単位でゆっくり進行しますが,せん妄は数時間から数日の単位で急に出現し,日内変動を伴うという特徴があります。「昨日まではできていたことが急にできない」「夕方から夜にかけて落ち着かない」「見えないものを見ている」といった変化は,認知症の進行だけでは説明しにくいものです。
在宅でせん妄を見逃さないために,看護師は個人の経験に頼るだけでなく,チームで使える観察項目や相談ルートを整えておく必要があります。その上で家族の気づきを受け止め,変化を整理し,必要なタイミングで医師や多職種につなぐ役割が求められます(表2)。日中は光を入れる,夜間は薄暗い照明を保つ,時計やカレンダーを見やすく置く,眼鏡や補聴器を使う,危険物を近くに置かない,排便状況を確認するなどの工夫は家族も実施可能です。
また,冒頭で示したように「別人のようになった」と感じる家族も少なくありません。家族には,せん妄は本人の性格が変わったのではなく,病状や薬剤,脱水,感染,便秘,不眠,痛みなどをきっかけに起こる一時的な混乱状態であることを伝えましょう。否定や説得よりも安心できる声かけを行い,困った時は一人で抱え込まずに連絡するよう確認することが大切です。
事例でみる具体的な対策
ここまで解説してきた在宅におけるせん妄への対策について,事例を用いた看護の実践を紹介していきます。
事例 痛みと夜間不穏がみられた在宅療養中の一例
進行肺がんの骨転移痛がある70代男性Aさん。妻から「夜に痛いと言って起き上がる。誰かが部屋にいると言う。認知症になったのか」と訪問看護師に相談があった。NRSは10だったがAさんの説明は一定しない。
看護師による具体的なケアのアプローチ
妻からの「痛いと言いながら部屋の隅を見て話していた」という情報をもとに,訪問看護師はAさんの表情や排便状況,薬剤変更などを確認。痛み,便秘,不眠,薬剤の影響がせん妄を促進している可能性を医師と共有し,便秘対応,鎮痛薬の見直し,睡眠環境の調整を実施しました。また,妻には「せん妄は体調等の変化で起こり本人の性格が変わったわけではない」と説明したところ,安心した表情を浮かべていました。
痛みの悪化や便秘などの促進因子が正確にアセスメントされ,適切な対応がなされたことで,患者さんの夜間の不穏や苦痛は緩和しました。また,ご家族もせん妄のメカニズムを理解できたことで不安が軽減し,患者さんとご家族双方の苦痛を和らげることができました。
*
痛みの評価やオピオイド調整,在宅療養の判断に一つの正解はありません。患者さんの変化をとらえ,家族の気づきを臨床判断につなぎ,多職種で目標を調整することが看護師の役割です。苦痛の緩和と生活の継続のバランスを,患者さん・家族とともに探していくことが大切です。
今回のPOINT
・痛みを伴うせん妄では,痛み,オピオイド,せん妄の原因を切り分け繰り返し評価する。
・在宅では,「認知症が進んだ」と感じる急な変化に,せん妄が重なっていないかを考える。
・患者さん・家族とケアゴールを共有し,苦痛緩和,生活の継続,その人らしい過ごし方のバランスを探る。
謝辞:本原稿のご確認と貴重なご助言をいただきました,廣川直美様(訪問看護認定看護師,ナースステーション東京目黒支店事業部長兼所長)に心より感謝申し上げます。
参考文献
1)Cancers(Basel). 2023[PMID:36765547]
2)Am J Hosp Palliat Care. 2017[PMID:28273749]
3)J Pain Symptom Manage. 2019[PMID:31195076]
4)Int J Clin Oncol. 2025[PMID:40804545]
5)BMC Geriatr. 2026[PMID:41652345]
菅野雄介 東京科学大学大学院保健衛生学研究科在宅・緩和ケア看護学分野 准教授
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