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がん患者の生活を支える障害年金
医療者が知っておくべき制度と診断書作成のポイント
寄稿 太田敦
2026.07.14 医学界新聞:第3587号より
がん患者の経済的困難と障害年金の役割
がんに罹患すると,身体的な苦痛だけでなく,社会生活や経済面に多大な影響が及びます。治療のために長期間の休職が必要になったり,就業が制限されたり,場合によっては退職を余儀なくされたりすることもあります。収入が途絶える一方で手術費や抗がん薬による治療費などがかさむことから,経済的な不安を抱え,治療に専念できない患者さんも多くいます。
そのようながん患者さんを経済的にサポートし,療養生活を支える公的なセーフティネットが障害年金です。障害年金受給資格者にとって,正当な年金を受給し,経済的な安定を図ることが治療を継続する上でとても重要になります。しかし,医療現場において「がん患者が障害年金を受給できる」という事実は,いまだ十分に浸透していません。本稿では,全国の医療従事者に向けて,障害年金制度の基本から,がん患者の申請における課題,そして受給の鍵を握る診断書作成のポイントを解説します。
障害年金の基本制度
障害年金とは,病気やケガなどによって働くことや日常生活を送ることに支障がある場合に支給される年金制度です。①初診日に国民年金または厚生年金に加入しており,②一定の保険料納付要件を満たしていること,そして③障害の状態が国の定める基準(等級,表1)1)に達していることが,受給の要件となります。
医療現場で障害年金制度と混同されがちなものに障害者手帳がありますが,これらは全く異なる制度です。障害者手帳は自治体による公的な福祉サービス(医療費の助成や税金の控除など)を受けるための制度であり,認定基準も異なります。また,障害者手帳の申請に必要な診断書は,都道府県が指定する医師しか作成できません。
一方,障害年金は国の年金制度であり,診断書は(精神の障害用を除き)医師であれば誰でも作成することができます。障害者手帳を持っていなくても,要件を満たせば障害年金を受給することは可能です。ただし,障害年金は「申請主義」に基づいており,患者さん側から請求手続きを行わなければ受け取ることができません。
がん患者の申請が少ない3つの理由
障害年金の請求実態を見ると,精神疾患や知的障害による申請が全体の約7割を占めているのに対し,がん患者が含まれる「血液・造血器・その他の障害」による申請はわずか3%程度に留まっています2)。がんだけに限定すれば,さらに少ない1%前後になるだろうというのが現場の感覚です。本来であれば受給対象となるがん患者さんが多いにもかかわらず,申請が少ない理由として以下の3点が挙げられます。
制度の存在が知られていない:第一に,「がんでも要件を満たせば障害年金の対象になる」という事実が,患者さんにも,医療従事者にも広く知られていない点です。そのため,適切なタイミングで制度への橋渡しができていない現状があります。
予後が短く,認定日までに死亡するケースがある:障害年金は原則として,初診日から1年6か月が経過した日(障害認定日)の障害の状態で判定されます。しかし,がんの場合は進行が速く予後が短い場合もあり,初診日から1年半経過した認定日を迎える前に亡くなってしまい,請求の機会を逸してしまうケースが少なくありません。
診断書が自由記述形式で作成が難しい:がん患者の診断書は,主に「血液・造血器・その他の障害用」(様式第120号の7)3)を使用します。この診断書においてがんは,がん以外のさまざまな疾患も包括する「その他」に分類されるため,進行度を直接評価するような具体的な検査項目の記載が少なく,自由記述欄が多くなっています。そのため,多忙な医師にとって「何をどう記載すれば患者の生活実態が審査側に伝わるのか」がわかりにくく,適正な書き方を学ぶ機会もないことが,申請を阻む大きなハードルとなっています。
「1年半待たなくてよい」認定日の特例と副作用の評価
がん患者さんの障害年金請求において,ぜひ知っておいていただきたいのが障害認定日の特例です。必ずしも初診日から1年6か月待たなければならないわけではありません。例えば,人工肛門(ストーマ)や人工膀胱(新膀胱)を造設した日,尿路変更術の日から6か月経過した日,喉頭を全摘した日,在宅酸素療法を開始した日などは,特例としてその日が障害認定日となり,1年6か月を待たずに請求が可能となります。
また,がんの障害年金認定における大きな特徴は,「疾患そのものによる障害(全身の衰弱等)」に加え,抗がん薬や放射線治療などの「治療の結果として起こる全身の衰弱または機能の障害(副作用)」も評価の対象となる点です。がん自体の進行は抑えられていても,抗がん薬の副作用による激しい倦怠感や吐き気,末梢神経障害による手足の強いしびれなどで日常生活や就労に著しい制限が生じている場合は,障害年金の受給対象となり得るのです。
診断書作成の重要ポイント
診断書は,障害年金受給の可否を決める最も重要な書類です。作成にあたっては,以下の点に留意することが求められます。
◆腫瘍マーカーやがん進行の客観的事実を示すデータの記載:自由記載欄が多いフォームだからこそ,検査成績をしっかり記載することが重要です。一般的な血液検査の数値が正常範囲であっても,特異的な腫瘍マーカーの値や,CT・MRI等の画像検査,病理診断の結果など,がんの進行や転移の状況を示す客観的事実をデータとして記載します。これらは,全身状態の悪化を裏付ける補助的な資料となります。
◆日常生活動作の制限についての具体的な記載:障害年金の審査において最も重視されるのは,「その障害によって,日常生活や労働にどれほどの支障が生じているか」です。特に診断書内の一般状態区分表(ア〜オの5段階,表2)の評価は,表1で示した等級判定に直結します。しかし,患者さんは診察室に入ると気丈に振る舞い,「大丈夫です」と答えてしまうことがよくあります。短い診察時間の中で,医師が患者さんの家庭での生活状況や副作用による困難を100%把握することは非常に困難です。 この点において,看護師や医療ソーシャルワーカー,ケースワーカーとの連携が不可欠と言えます。彼らが日々の面談やケアを通じて聴き取った,「手足がしびれてボタンがかけられない」「倦怠感が強く,洗濯や買い物が一人でできない」「日中の半分以上は横になっている」といった実際の困りごとや,カルテの記載内容が非常に重要な情報源となります。多職種からの情報を集約し,「身の回りの動作にどれだけ介助を要するか」を診断書に具体的に記載することが,患者さんの実態を正確に伝えることにつながります。
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障害年金は,がん患者の療養生活を経済的にサポートするための強力な手段です。医療従事者が制度の仕組みや特例,診断書作成のポイントを理解し,適切なタイミングで患者さんに情報を届けることは,単なる事務手続きの支援を超え,患者さんの生活を守る重要な医療的介入と言えます。がんに罹患した患者さんが正当な年金を受給し,経済的な安定を図ることで,少しでも安心して治療に専念できる社会になるよう,本稿が全国の医療者の皆さまの一助となれば幸いです。
参考文献・URL
1)日本年金寄稿.国民年金・厚生年金保険 障害認定基準.2022.
2)日本年金機構.障害年金業務統計(令和6年度決定分).
3)厚労省・日本年金機構.診断書(血液・造血器・その他の障害用).

太田 敦(おおた・あつし)氏 おおた在宅クリニック 院長
一般企業で総務・経理関係の業務に12年間従事後,38歳で徳島大医学部に入学。愛媛県松山市のたんぽぽクリニックで在宅医療を学んだのち,2018年に徳島市でおおた在宅クリニックを開業する。22年に社会保険労務士の資格を取得し,23年あおい空社会保険労務士事務所を開設。診療活動の傍ら,在宅患者を主な対象として障害年金申請業務を行う。著書に『知ってほしい 障害年金請求に役立つ医学の基礎知識』(日本法令)。
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