医学界新聞

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伝わる! 同意書説明の4ステップ

連載 前田徳也,三谷雄己

2026.05.12 医学界新聞:第3585号より

上級医 さっき近くのグラウンドから18歳の男子高校生が搬送されてきたね。状態はどう?

研修医 サッカーの試合中,他の選手と衝突して地面に頭を打ち付けて受傷したとのことです。受傷時の記憶はないようですが,それ以前のスコアやチームメイトと交わした会話は覚えています。来院時は意識清明で神経学的異常は無く,頭部CT検査では出血も骨折も見られませんでした。

上級医 ありがとう,入院は不要そうだね。説明して帰宅してもらおう。僕は次の患者さんを診ているから,患者さんとご家族に説明をしてもらって良いかな?

~説明場面への転換~

研修医 ……というわけで入院の必要はないので,今日はこのまま帰宅して家で様子を見ていてください。

家族 様子を見るって具体的にどうすればいいんですか? いつまで様子を見ればいいんですか? 何かあったら救急車を呼んで良いのでしょうか。

 研修医の皆さんはこれまで救急外来で頭部外傷の患者さんを診るなかで,さまざまなことを学んできたと思います。それら全てを紙面で説明するのは難しいので,今回は「帰宅後の経過観察」について取り上げます。

頭部外傷を受傷した患者さんが意識清明で普段通り会話や歩行ができ,画像所見にも異常がなかったとしても問題ないとは言いきれません。急性硬膜外血腫の前段階の「意識清明期」の可能性があるためです。血腫が緩徐に増大していった場合,一定以上の血腫が貯留して脳実質を圧排することで初めて症状が現れることがあります。そのため,しっかり説明した上で,症状が現れた場合はすぐに救急要請してもらうことが必要になります。症状の例としては,「意識がもうろうとする」「歩けなくなる」「強い吐き気・嘔吐」「けいれん」などがあり1~3),多くの場合は6~8時間,遅くとも24時間以内に発症します。一度救急車を呼んだにもかかわらず帰宅となった場合,次に救急要請する心理的ハードルは高くなります。どのような症状が現れた時に救急車を呼んでほしいか,患者さんおよびご家族に具体的に伝えることが重要です。併せて,施設によっては頭部外傷後の注意点をまとめた文書が用意されているので活用すると良いでしょう。

 次に脳振盪と競技復帰についてです。脳振盪は「機械的外力により生じた一過性の神経機能障害に由来する臨床症候群」と定義され1~3),症状として意識消失,見当識障害,めまい,ふらつき,頭痛などが含まれます。機能障害なので出血などの器質的異常がないことが前提です。日本スポーツ振興センター作成の「脳振盪ハンドブック」()はイラスト付きで脳振盪による症状をわかりやすく解説しており,医師も一度目を通しておくと良いと思います。患者さんにガイドブックとして閲覧をお薦めしても良いでしょう。

 競技者ならびに競技チームのメディカルスタッフ向けには「SCAT5」という日本語版ガイドラインがあり,JリーグやFIFAなどのトップチームでも運用されています4)。競技中に受傷して脳振盪と思われる症状がある場合は,頭を直接打っていない場合でもその選手をプレーに復帰させてはならず,必ず症状の消失を確認し,ウォーキングやジョギングなどの負荷の軽い運動から段階的に復帰させます。ラグビーはプレー中に受傷した選手の競技復帰の段階が明確に規定されており,他の競技でも参考になります5)

 怪我をしたアスリートが痛みを我慢して試合に出場する話が美談として報道されることがあります。選手が試合に早く復帰したい気持ちは理解できますが,無理をさせると一生続く後遺症が残ったり,最悪の場合,命を落としたりする可能性があること,そしてそれは決して珍しいことではないとよく説明しなければなりません。本人には共感しつつ,ご両親や指導者には厳しい説明をするという立ち回りが求められます。場合によっては「先生がここまで言うなら仕方ない」と医師が悪役を買って出ることも患者さんの心情的なケアのためには必要だと思います。

ステップ1. 相手の立場に立つ

突然ご家族が頭の怪我をしたとお聞きになり,とても心配しておられることと思います。

ステップ2. 専門用語をかみ砕く

脳振盪→ 頭やその近くに強い衝撃を受けて,めまいやふらつきなどの症状はあるが,画像検査に異常がない状態。

ステップ3. 視覚情報で補う

頭を打った患者さんへお渡ししている注意書きがこちらです。重要な箇所にペンで線を引きながら,一緒に内容を確認していきましょう。

ステップ4. よくある質問に備える

経過観察について患者さんから問われることが多いです()。

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表 よくある質問

 母親に頭部外傷後の注意書きを手渡して重要な箇所に線を引きながら説明を行い,同時に参考になるパンフレットも紹介し閲覧するようお薦めしました。当初は不安そうでしたが,最終的には病状や今後の対応について理解して帰宅されました。受診翌日,電話でご家族に患者さんの状態を確認したところ,大事を取って学校を休んだものの,自宅で問題なく日常生活を営めており,次の日から学校に行けそうだとの返事をもらうことができました。

 

 救急外来で小児の軽症頭部外傷を診る際,PECARN criteria6)を参照してCT検査の要否を判断する方は多いと思います。しかし,不安な親御さんに「こういう決まりだから不要です」と伝えるだけで,納得してもらえるでしょうか?

 PECARN criteriaは2009年にLancetで発表されたのが初出ですが6),そのアウトカムは「臨床的に重要な頭部外傷」の発見です。具体的には死亡,もしくは脳外科手術,気管挿管,2泊以上の入院を要する場合を言います。したがって,外科手術を要さない程度の微小な出血や骨折を否定できるものではありません。「出血や骨折がない」ではなく,「緊急での治療が必要ない」というニュアンスであると理解しましょう。

 筆者(前田)はCTを撮らないと判断した場合,以下のように説明しています。

お子さんはとても元気で頭痛や吐き気もなく,いますぐ対応が必要な頭の骨折や出血がある可能性は低いです。もしCT検査を行うことで微細な異常が見つかっても,様子を見るという方針は変わりません。それならば,被曝のリスクを避けるほうがお子さんの利益になります。その代わり,頭痛,嘔吐,けいれんなどの症状が現れた場合は出血が悪化している可能性があるので,すぐに救急車を呼んでくださいね

 とはいえ,納得感を得るには,論理的な医学知識以上に感情への配慮が不可欠です。説明を尽くしても患者さんおよびご家族の不安が強い場合はCTを撮影するのも個人的には選択肢の一つだと思います。また筆者はよく帰宅された後やその翌日に電話で体調を確認しています。こうした患者満足度を高める工夫が,見逃しなどのトラブルから医師自身を守ることにもつながると思います。尊敬する指導医には「医学的に正しい選択が患者にとって最善とは限らない覚悟を持て」と教わりました。

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<連載を終えて>

 同意書の説明は,患者さんと信頼関係を作る最初のステップとなることも多いでしょう。私(三谷)自身,研修医の頃は同意書を読み上げることに精一杯でした。しかし,毎回の説明を丁寧に重ねるうちに,ただ「伝える」ではなく「伝わる」瞬間が少しずつ増えていきました。本連載で紹介した4つのステップは,あくまで型にすぎません。大切なのは,その型の向こう側にいる患者さんの表情や声に,意識を向け続けることだと思っています。この連載が皆さんの日々の業務の不安を少しでも解消していればうれしい限りです。


:ハンドブックの内容はこちらよりご覧ください。

1)日本脳神経外科学会,日本脳神経外傷学会(監).頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版.医学書院;2019.
2)永廣信治,他.スポーツ頭部外傷における脳神経外科医の対応――ガイドライン作成に向けた中間提言.神経外傷.2013;36(2):119-28.
3)荻野雅宏,他.スポーツにおける脳振盪に関する共同声明――第5回国際スポーツ脳振盪会議(ベルリン, 2016)――解説と翻訳.神経外傷.2019;42(1):1-34.
4)日本サッカー協会.サッカーにおける脳振盪などの事象に対する指針.2023.
5)日本ラグビーフットボール協会.脳振盪からの「段階的競技復帰(GRTP)」改訂について.2022.
6)Lancet.2009[PMID:19758692]

広島市立北部医療センター安佐市民病院救急科 / 集中治療部

広島大学救急集中治療医学