医学界新聞

FAQ

寄稿 竹村 知容

2026.02.10 医学界新聞:第3582号より

 人工呼吸管理は機器の扱いや機能の理解が中心になりがちですが,実は看護の質が患者さんの生命予後に影響しやすい分野でもあります。今回は,人工呼吸管理にまつわる看護ケアのポイントや素朴な疑問について解説していきます。

 医師に報告すべきです。例えば,急変のリスクを評価するスコアリングシステムにNEWS(National Early Warning Score)1))というものがあり,その中には呼吸回数も含まれています。呼吸回数の上昇は急変の前兆になっているかもしれません。

3582_0801.jpg
表 早期警告スコアNEWS(文献1をもとに作成)
SpO2の項目は通常スケール①を用いるが,COPD患者など高炭酸ガス血症性呼吸不全のリスクがある場合はスケール②を用いる。

 呼吸回数が多い原因には何があるでしょうか。実は,肺以外にもさまざまな原因が考えられます。例えば何かに感染すれば,呼吸回数が上がる場合も多いです。代謝性アシドーシスでは,アシドーシスを改善するためにたくさん呼吸をします。他には,痛み,不安,精神的興奮なども呼吸回数が上がる原因になり得ます。このように,呼吸回数の上昇には背景に何かしらの原因が隠れており,場合によっては,後述するような苦痛を和らげるケアが必要になってきます。

 また,患者が息を吸うタイミングと人工呼吸器がガスを送るタイミングがずれてしまい,呼吸回数が上昇しているファイティングと呼ばれるケースもあります。これが起こると,挿管期間が延びることも報告されています2)。この場合は,人工呼吸器の設定を変えると改善するかもしれません。

呼吸回数の上昇は経過を悪化させる可能性があり,背景にさまざまな原因が隠れている可能性があります。迷ったらぜひ医師に相談してみてください。


 薬剤の使用有無で分けて紹介します。

 まず,薬物療法以外ではどのような方法があるでしょうか。究極的には,目の前の患者をよく観察して,創意工夫することが重要であると考えます。それを前提とした上で,筆者が普段看護師とよく相談しているのは以下です。

  • ●必要がなければ抑制は行わない
  • ●可能な範囲で離床を行う
  • ●ライン類は必要最低限にする
  • ●照明を調整して昼夜のリズムをつける
  • ●カレンダーや時計を置いて,現在の日時がわかるようにする
  • ●テレビを置いたり,音楽を流したり,面会を許可したりする
  • ●文字盤や筆談などで,コミュニケーションを工夫する
     

 これらのケアは,そのまません妄の予防にもつながります。せん妄はそれのみで生命予後が悪化するとの報告もあります3)。ただ,そうした理論的なことは置いておき,自分が患者の立場なら,より苦痛の少ないケアをしてもらいたいと思いますよね。積極的に苦痛を和らげるケアをぜひ行いましょう。 しかし,これらのケアを行っても苦痛が強く残る場合は多くあります。そこで,薬物療法に目を向けてみましょう。ここでは鎮静,鎮痛,せん妄への対応という観点でよく使用される薬剤を分けて紹介します。

鎮静:ミダゾラム,プロポフォール,デクスメデトミジン

鎮痛:フェンタニル,モルヒネ

せん妄への対応:ハロペリドール,リスペリドン,クエチアピン,ペロスピロン

 効果発現時間や半減期,呼吸や循環に与える影響など,それぞれの薬剤で特徴があるので状況に応じて使い分けます。処方はもちろん医師が行いますが,集中治療の専門医がいない施設では,医師がICUやHCUに常にいることはできません。主治医は1日の中で限られた時間しか患者を直接みることができないので,普段から病棟にいる看護師のアセスメントが薬剤治療において重要だと筆者は考えています。

目の前の患者をよく観察して創意工夫する非薬物療法的なケアがまずは重要です。どうしても苦痛が強く残る場合は薬物療法の実施を検討します。個々の薬剤の特徴を理解し,アセスメントや患者のケアに生かしましょう。


広告

 人工呼吸器による合併症にはさまざまなものがあり,必要なケアも多岐にわたります。合併症には,例えば以下のものがあります。

  • ●人工呼吸器関連肺炎(VAP)
  • ●人工呼吸器関連肺障害(VALI)
  • ●喉頭浮腫
  • ●褥瘡
  • ●深部静脈血栓症(DVT)
  • ●せん妄,不眠
  • ●ストレス潰瘍
  • ●集中治療後症候群(PICS)
     

 今回はVAP,褥瘡,PICSの3つについて,予防のために重要となる看護ケアのポイントを紹介していきます。

VAP:そもそもVAPはどうして起こるのでしょうか。例えば,上気道の細菌や逆流した胃内容物の誤嚥,汚染された人工呼吸器回路や吸入薬の使用などで起こります。これらを防げばVAP自体を予防できます。予防法にはいくつか方法があり,日本集中治療医学会は重要なものとして下記の5つを示しています4)

  • ●手指衛生を確実に実施する
  • ●人工呼吸器回路を頻回に交換しない
  • ●適切な鎮静・鎮痛をはかる,特に過鎮静を避ける
  • ●離脱できるかを毎日評価する
  • ●人工呼吸中の患者を仰臥位で管理しない
     

 人工呼吸器の回路は交換する途中で細菌が入り込むので,交換は必要最低限にします。また,鎮静が深くなりすぎると,咳が抑えこまれます。すると痰や細菌を外に出しにくくなり,VAPが起こりやすくなります。そのため離脱の可否を毎日評価して,過鎮静を避けることもVAP予防につながります。そして,胃に入った食べ物が口腔内に上がってくるのを防ぐため,30~45度以上のギャッジアップをします。口腔ケア,カフ圧の管理も重要です。

褥瘡:人工呼吸器を装着した状態では,臥床の時間が長く,栄養状態も良好ではないため,褥瘡ができやすいです。ICUでの挿管患者のうち,16%程度に褥瘡が発生したとの報告もあります5)。対策として,まずは定期的な体位変換が有効です。施設ごとにルールがあると思いますが,2~3時間ごとの実施が望ましいでしょう6)。また,栄養状態を良くするよう努め,必要に応じて早期に経腸栄養を実施することが大事です。これはストレス潰瘍の予防にもつながります。

PICS:治療の甲斐もあり無事抜管したものの,治療過程でかなり衰弱してADLも低下してしまったという経験はないでしょうか。この状態がPICSです。身体的な衰弱がイメージしやすいですが,それ以外にも認知機能の低下や,うつ症状や不安などの精神症状につながることもあります。長期的に予後が悪いこともわかっています7)。PICSは病気や薬,環境などいろいろな要素がかかわるので,対応もかなり多角的に行います。それをまとめたものとしてABCDEFGHバンドル8)が有名です。

3582_0802.jpg

 項目が多いですが,ここまで紹介した内容との重複が多いです。さまざまな合併症の予防が,そのままPICSの予防につながると思っていいでしょう。

人工呼吸器の合併症はさまざまあり,必要なケアも多岐にわたります。適切な鎮静・鎮痛の実施や早期離床の試み,せん妄の評価など共通する予防策を実施しつつ,個々の合併症予防に応じたケアを行いましょう。

人工呼吸管理では,機器の理解だけでなく患者の呼吸回数や苦痛の観察,合併症予防のケアが生命予後を左右します。適切な鎮静管理,早期離床,せん妄予防など多角的なアプローチを通じて,より良いケアをめざしましょう。


1)Royal College of Physicians. National Early Warning Score (NEWS)2: Standardising the assessment of acute-illness severity in the NHS. Updated report of a working party. RCP, 2017.
2)Crit Care Med. 2025[PMID:40793855]
3)JAMA. 2004[PMID:15082703]
4)人工呼吸関連肺炎予防バンドル2010改訂版.日本集中治療医学会 ICU機能評価委員会.2010.
5)J Crit Care. 2010[PMID:19879730]
6)J Wound Care. 2020[PMID:32924821]
7)J Clin Med. 2022[PMID:36142904]
8)Crit Care Med. 2016[PMID:26771784]

京都民医連中央病院 総合内科 / 呼吸器内科 科長

2009年兵庫県立尼崎病院にて初期研修後,同院呼吸器内科後期研修。11年から人工呼吸器を学ぶため院内の呼吸ケアサポートチームに参加し,現在も継続中。19年より現職。「呼吸器ドクターひつじ」名義でInstagram(@pulmosheep),YouTube(@PulmoSheep),ブログなどで呼吸器内科に関する知識を発信する。

ブログ 「コキュトレ」

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook