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医学界新聞

看護・介護する人の腰痛ゼロをめざして 腰痛予防と緩和のためのセルフケア

連載 小泉 洋一,関 恵子

2025.02.11 医学界新聞:第3570号より

3564_0704.png今回から2回にわたりお灸と刺さない鍼による養生法をご紹介します。近年は若い世代やスポーツ選手にも人気があり,「未病治」という東洋医学的考えのもと,肩こりや頭痛,腰痛,月経痛,冷え症などの心身の不調に対して自己治癒力を高め整えたいと考え使用する人が増えています。お灸は腰痛予防・緩和に重要な腰背部の循環促進や緊張をほぐす効果があるだけでなく,気軽に実施できるのでセルフケア方法として有効です。本稿では,筆者の出身地滋賀県発祥のせんねん灸の販売元であるセネファ株式会社でお灸を用いたセルフケア支援を行う小泉先生から,お灸の使い方,ツボの探し方,明日から実践できるお灸を用いた養生法を,関からは本学で行っているお灸による養生法の演習での看護学生の声をご紹介します。

(関 恵子)

 お灸とは一般的にヨモギの葉から作られる「モグサ」を燃やし,その熱でツボを温める伝統的な治療法です。内臓やさまざまな臓器の活動による身体的状態と心理的状態が皮膚に反映されるポイントをツボ(経穴けいけつ)と言い,皮膚の触察から探し治療点として利用します。WHOでは骨や筋肉といった特徴を頼りに361か所のツボの位置を標準化しており(),押すと少し痛みを感じる圧痛点は比較的わかりやすい指標です。

 それでは腰痛に効く主なツボの位置をご紹介します。ツボは血行不良を起こしている箇所でもあるため,図1で示した位置を目安に軽く撫で,皮膚が弛緩して凹んでいるように感じられるところがツボとなります。その他にも,腰下肢の軟部組織損傷を来しやすい部位や神経走行部位にも腰痛に効くツボがあります。これらのツボは押すと健常者より高率に軽い痛み(圧痛)が出現します1)。指で軽く押すと気持ちよさや圧痛を感じるところを探しましょう。

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図1 腰痛に効く主なツボとその探し方
それぞれのツボの探し方と温灸の実践については右記のリンクを参照ください。 築賓 腎兪 足三里

 ツボに対しては指圧やマッサージ,鍼を刺すことによる東洋医学的治療法があります。その中でも筆者は,ツボを温めると皮膚が温度を感受して生理反応が起こり,内臓機能の自律的な調節反応を活性化したり,血管拡張によって痛みを緩和したりするなど,温熱刺激特有の効果を引き出せることから,お灸を据えて温める「温灸おんきゅう」に着目しています。

 温灸はモグサを直接皮膚に据える直接灸とは異なり,皮膚からモグサを離して温める間接的なお灸です。スライスしたショウガなどの上にモグサを置きお灸を据える隔物灸,紙を重ねて厚くした台座にモグサを付ける台座灸,紙管にモグサを詰めた円筒灸,モグサを棒状にした棒温灸など複数のタイプがあります(図2)。温灸による腰痛軽減効果は研究によって示されており2, 3),女性に多いと言われる冷え症に対しても温灸がレッグウォーマー着用と比較して有意に改善効果があることが示されています4)。家庭用医療機器として「疲労回復,血行をよくする,筋肉の疲れをとる,筋肉のこりをほぐす,神経痛・筋肉痛の痛みの緩解,胃腸の働きを活発にする」が効能効果として承認され市販されているものもあり,入手しやすく簡単に使用できます。

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図2 さまざまなお灸(写真提供:セネファ株式会社)

 一般的な温灸は火を使いますが,火を使わない温灸も市販されています(図2)。火を使わない温灸は約40~50℃の温熱が持続し,皮膚面のシールをはがし皮膚へ貼るだけなので,ツボへ貼付したままでの看護業務も可能です5)

 腰痛やさまざまな不定愁訴のセルフケア,養生(予防)のために「ツボを温める」ツールとして温灸を利用いただけますと幸いです。

(執筆:小泉洋一)

 滋賀県立大学では3,4年生の選択科目にホリスティックケア論があります。この科目の中で,看護職者自身の心身の不調を整えるための技術として,お灸の授業をセネファ株式会社様の協力のもと実施しています(写真)。「お灸独特の香りがする」「熱そうで怖い」「若者向けでない」といった負の反応が実習の序盤では学生から返ってきますが,演習後には「身体が暖かくなった」「腰痛や肩こりが軽減された」「家でも継続して使いたい」などポジティブな意見に変化しています。

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写真 お灸を用いたホリスティックケア論の授業の様子

 看護学生の心身の不調には,腰痛に限らず月経痛,肩こり,肩こりからくる頭痛,腰痛,実習ストレス,不眠などがあり,特に痛みを伴う症状は実習中であればその遂行能力を低下させるためセルフケア技術の習得は大切です。学生の頃からお灸の良さを知識だけでなく体感的に学習してもらい,これから始まる長い看護師人生の中で,仕事中に心身の不調を感じた時に「耐えたり我慢したりする」のでなく,自己治癒力を高めるセルフメンテナンス力で生き生きと働ける身体づくりができるよう,人材育成に貢献していきたいと考えています。

(執筆:関 恵子)


:2006年にWHOが主催した「経穴部位国際標準化公式会議」で経穴の位置や名称の統一基準が策定された。

1)池内隆治,他.腰痛の鍼灸治療に関する研究(第1報)――腰痛患者における圧痛の出現について.全日鍼灸会誌.1991;41(2):206-11.
2)矢澤宏樹,他.運動前の温灸刺激によるカーフレイズ後の筋疲労軽減効果――自覚指標とエネルギー代謝による検討.日東洋医物理療会誌.2018;43(2):85-90.
3)BMC Res Notes. 2023[PMID:36717870]
4)辻内敬子,他.成熟期女性の冷え症に対する温灸によるセルフケアの効果――レッグウォーマーを対照とした多施設共同ランダム化比較試験.日東洋医誌.2021;72(4):341-8.
5)セネファ株式会社.せんねん灸 太陽.

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