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『フィジカルアセスメントに活かす 看護のためのはじめてのエコー』より

連載 酒井 一由 / 刑部 恵介

2024.03.29

 超音波(エコー:echo)検査は看護師にとって身近な存在となりつつあります。外から観察しただけでは分からない身体内の状況・状態を視覚的に確認してアセスメントするために,非常に有効なツールです。しかし,エコーに興味があっても,経験や手技に対する不安を感じている人も多いのではないでしょうか。書籍『フィジカルアセスメントに活かす 看護のためのはじめてのエコー』はこれから超音波検査を始めようとしている看護師の皆さんが必要とする情報を,ポイントを絞って分かりやすく解説した一冊です。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「第1章 まず,超音波検査を行う前に」,「第2章 基本のき」,「第4章 いよいよ,超音波機器を使ってみよう」,「第5章 事例とエコー画像から病態を考えてみよう」の中から内容を一部抜粋し,全5回でご紹介します。

どうして画像が見えるの?→反射した超音波を捉えて,画像化しています

 ヒトが聞こえる音(可聴音)の周波数は,通常20~20,000 Hz(ヘルツ)の範囲です。可聴音を超える高い振動数の弾性振動波(音波)のことを「超音波」と呼びます。
 超音波は指向性(音が広がらず,まっすぐ進む能力)が高いことが特徴です。つまり,音に方向性を持たせることができます。自然界では暗闇の中を飛ぶコウモリや海中のイルカが,障害物の検知や餌の探知に超音波を利用することがよく知られています。
 次に音の反射ですが,実際に体験する例としては,山びこが聞こえるのと同じです。山などに向かって大声で叫ぶと音波が山にぶつかって返ってきて,自分の声が聞こえます。
 医療用の超音波機器では,生体内に超音波を照射し,臓器・組織からの反射(エコー)を利用しています。超音波が臓器を伝わり,臓器の硬さの違いによりいろいろな強度で反射してきた超音波をプローブ内の受信機が受け取り,画像処理されてディスプレイに表示されます。画像上の点の明るさを反射強度に応じた濃淡の階調で表示させます。その結果,臓器・組織が画像として表示されます(図2-8)。

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図2-8 エコー画像の見え方

鮮明な画像を撮影するには?→周波数と透過性・分解能の関係を知っておきましょう

 周波数は1秒間の波の数であり,その数をヘルツ(Hz)で表します。波長とは波の1周期の長さで,山と山あるいは谷と谷の間隔です。図2-9Aでは周波数は少なく,波長が長いことを表します。図2-9Bでは周波数が多く,波長は短いことを表します。
 周波数の違いにより,画像の特徴が変わります。低周波の超音波は身体の内部まで届きますが,解像力は悪いです。一方,高周波の超音波は解像力はよいのですが,身体の深部まで届きません。観察する臓器の位置によって超音波の種類をうまく使い分けることで,鮮明な像を観察することができます。
 超音波機器で用いる周波数はおよそ2~20 MHz(メガヘルツ,106 Hz)程度です。
 超音波の特性を表す言葉に「透過性」と「分解能」があります。どれだけ通りやすいかを示すのが透過性,2点間を識別できる最小の距離が分解能です。
 超音波は透過性と分解能が周波数に対して相反する関係にあります。低周波数の超音波は透過性がよいため身体の深部まで届きますが,分解能が低く,細かい構造が分かりません。逆に,高周波数の超音波は透過性が低いため深部までは届きませんが,分解能はよくなるため,細かい構造まで観察できます。そのため,検査対象に合わせた適切な周波数の選定が重要となります。体表から近いところにある甲状腺,乳腺,頸動脈は高周波を,肝臓や腎臓など深部にある臓器は低周波を使用します(図2-10)。

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図2-9 周波数の特性
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図2-10 超音波の到達深度

アーチファクトと臓器を区別するには?→超音波の物理的特性を知っておこう

 超音波の特性である反射・透過・屈折・減衰などを以下にまとめておきます。やや難しくなってしまうかもしれませんが,超音波の生体内特性や音響特性を理解することは,正しい診断を行うためにとても大切なことです。これらの特性を理解することによって,アーチファクトと実際の像を見分けることができ,明るさやピントなど,機器の正しい調節ができるようになります。さらに正しいプローブ走査も身に付きます。
反射・透過
 超音波は音響インピーダンス(超音波の通りにくさ,抵抗のこと)の異なる媒体境界面で反射します。
 音響インピーダンスの差が大きいもの(硬いものと軟らかいものが接している場合)ほど,反射する超音波の割合が大きく,画像としては白くなります。逆に,水分を含む臓器同士が接しているときは,音響インピーダンスの差の大小に応じて反射・透過するので,透過性の違いにより臓器が薄い灰色から濃い灰色に描出され,画像ができます。音響インピーダンスに差がなければ,超音波は全て透過し,反射しません。反射がなければ画像はできず,黒くなります(無エコー)。
屈折
 超音波は,異なる媒体の境界に角度をもって入射すると屈折する性質を持っています。箸を水の入ったコップに入れると水と空気の間で箸が歪んで見える現象です。光が屈折するように,超音波も屈折します。屈折により,超音波画像が歪んだり,位置がずれたりすることがあります。
減衰
 体内を超音波が伝わっていく途中で,超音波の強度が低下することをいいます。身体の深部に行くほど,減衰して輝度が弱くなります。また,使用する周波数が高いほど減衰しやすくなり,低い周波数では減衰が少なくなります。空気中では著しく減衰します。

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実はそこまで難しくない! エコーへの苦手意識を克服できる本

<内容紹介>ポケットエコーの登場で、病棟や在宅で看護師の超音波機器(エコー)の活用場面が広がる兆しはあるが、まだ十分ではない。触れる機会の少なさや、技術への自信のなさなどが理由だ。しかし、意外と簡単に画像を描出し、根拠のあるケアが提供できる部位も多く、業務の効率化を図ることができる。そこで、初めて超音波機器に触れる看護師に向けて、分かりやすい表現を心掛けた。本書によって、超音波機器の活用場面と可能性が広がる。

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