緊急度を見抜く!
バイタルサインからの臨床推論
急変! その予兆はバイタルサインに現れる。
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急変のサインは、呼吸数や呼吸のリズム、脈拍や血圧の変化に現れます。その変化を捉え、緊急度を見極める力は看護師に不可欠です。器械に頼らず、見て、触れて、聴いて、患者さんの状態を知る。数値の意味を考える。次にすべきことを判断する。しなくていいことを捨てる。──この一連の思考過程こそが臨床推論。臨床推論とフィジカルアセスメントの目的が、この1冊でつながります。
著 | 山内 豊明 |
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発行 | 2023年06月判型:B5頁:160 |
ISBN | 978-4-260-05032-6 |
定価 | 2,530円 (本体2,300円+税) |
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はじめに──「臨床推論」とは何か
本書のテーマである「臨床推論」とは,今患者さんに何が起こっているのかを整理し,自分たちがすべきことの方針を立てるための思考過程です。
医師の場合は,薬を処方したり手術をしたりするために,どのように情報を整理するかという視点から,主に根治療法につながる医療処置に向けた思考過程をたどります。
一方看護師は,まずは患者さんの症状や徴候から緊急性に気づき,患者さんの今の苦痛を減らすための対症療法に結び付けるための思考過程が,日々頭の中で行われる臨床推論になるでしょう。
■「対症療法」よりも「根治療法」は上?
対症療法というと,根治療法がかなわない際のセカンドチョイスという印象があるかもしれません。薬や手術による根治療法が「あるべき手段」であり,対症療法は「致し方ない場合の代替手段」のようなイメージがないでしょうか。
でも医療は根治療法だけをすればよい,というわけではありません。極端な話,がんを取ればいいからと臓器を片端から切除してお腹の中が空になってしまったら,意味がありません。時には対症療法のほうが,患者さんにとってメリットがあることもあります。とりあえず目の前の患者さんの,痛みや苦しい状態をなんとかしてほしいという思いに応えることは医療の大きな役割です。苦しい状態を理解してまず対処すること,痛むところに手を当ててそばに寄りそうことが,患者さんにとっては大切になる場合もあるのです。
16世紀のフランスを代表する外科医であるアンブロワーズ・パレは「私(医師)は治しているのではなく,自分で治ろうとしているものに対して邪魔するものを取り除いているだけ」と述べています。これはナイチンゲールのいう「患者の生命力の消耗を最小にするように環境を整える」と通じる考え方であり,要は,医療ケアの本質は自然治癒力を最大限に活かすように状況を整える,ということです。
医療の根本にあるのは,今のつらさや問題を緩和し,患者さんの治す力を引き出すこと。そう考えると,医師だから,看護師だからという発想はなくなります。本書では,広く「患者さんをアセスメントするための思考過程」として,臨床推論を捉えていきたいと考えています。
■「臨床推論」をバイタルサインという観点から整理する
臨床推論には,思考や判断のための様々な方法論,考え方のモデルが提案されています。網羅的判断の手順や仮説演繹法などの考え方については,本や授業を通して聞いたことがあるでしょう。本書では,それらについては最後のChapterで触れるだけにとどめ,的確で確実な臨床推論が最も求められる場面,つまり患者さんの急変や緊急度を見きわめ,必要な対応に結びつけるためのフィジカルアセスメントを中心に解説を進めていきます。
患者さんの急変や緊急度を見きわめるためには,解剖生理や疾患についての知識も欠かせません。その中でもまずは,人間が生きている仕組みについての理解です。それを本書では,生命維持に欠かせないバイタルサインという観点で整理しています。
読み進めていくうちに,「患者さんを観察して,自分の知識や経験に照らし合わせて,判断して対処に結びつける」という一連の過程こそが臨床推論であること,そして「臨床推論」は突然新しく生まれた考え方ではなく,私たちがこれまで行ってきた「アセスメント」とほぼ同じものである,ということが理解できると思います。
本書では,これまで各個人に限らず医療者みんなで築き上げ伝承してきた経験知をできるだけ形式知として可視化(見える化)することを目指しました。そうすることで各自の経験知を手堅く共有・シェアすることが可能となり,一個人で築き上げることができる経験知をはるかに凌ぐ量と質の知識を,読者のみなさん一人ひとりが我が物にできることでしょう。
本書が読者のみなさんへのお手伝いを通して,患者さんへのケアに貢献できることになりましたら,この上もなく嬉しく思います。
2023年4月
山内豊明
目次
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はじめに──臨床推論とは何か
Chapter1 基本は生命を維持すること──何はなくともまずはバイタル!
1 急変対応のカギは,酸素供給を守ること
2 「酸素の供給ができているか」をどうみるか
3 どこからが「急変」? 判断のポイントはやはり呼吸・循環
4 急激な乏尿が「急変」のサインである理由
5 酸素化の総合的指標,チアノーゼの有無とSpO2の値が示すもの
6 SpO2の値だけみても二酸化炭素の様子はわからない
7 酸素流量を上げたら,患者さんをしばらくは1人にしない!
8 バイタルサインはそもそも五感で把握できる
Chapter2 呼吸から緊急度を見抜く──回数とリズムから素早く緊急度を判断する
1 呼吸数の異常はどこからが「急変」のサインか
2 呼吸数が増えるとなぜ危ない?
3 呼吸パターンの変化は緊急性が高い
4 呼吸パターンの変化によって障害部位が推定できる
5 呼吸音は換気の状態をダイレクトに反映する
6 呼吸音の変化で急変のサインを見抜く
Chapter3 脈拍から緊急度を見抜く──心電図がなくても危険な不整脈は見抜ける
1 気にしなくていい不整脈もある
2 徐脈性不整脈は脈をとるだけで整理ができる①
3 徐脈性不整脈は脈をとるだけで整理ができる②
4 徐脈性不整脈は脈をとるだけで整理ができる③
5 徐脈性不整脈は脈をとるだけで整理ができる④
6 心室性の頻脈性不整脈は要注意
7 どこから心電図と付き合うか
8 「脈がしっかりしている」は安心?
Chapter4 血圧から緊急度を見抜く──緊急時は大ざっぱに数値を把握する
1 緊急時に血圧計はいらない
2 見た目だけでショックは判断できない
3 脈圧が増大していれば,意識や脈拍も注意深く確認を!
4 血圧の左右差,上下肢の差が重要なサインのことがある
Chapter5 体温から緊急度を見抜く──「普段」との違いと経時的な変化が判断のカギ
1 体温は「普段」との違いと変化をみる
2 体温の上昇とともに呼吸数も増えたら,敗血症を考える
Chapter6 意識レベルから緊急度を見抜く──急変に関わる第5のバイタルサイン
1 意識レベルを測るスケールはあれこれ使わなくていい
2 GCSは意識障害の程度をクリアに点数化する
3 JCSは意識障害の状態像を感覚的に伝える
4 意識障害は何より「緊急度」を優先する
5 病巣が脳幹に及んでいないかをみる
6 対光反射をみることで脳幹の機能を素早く確認できる
7 瞳孔不同は脳ヘルニアのサイン
Chapter7 バイタルサインを組み合わせて判断する──「バイタルサイン・ツインズ」という考え方
1 2つのバイタルサインを組み合わせて評価・判断する
Chapter8 急変時にバイタルサインを活用する──情報を整理・活用し,“段取りよく”動く
1 急変時のアセスメントの段取りを考える
2 迅速判断──パッと見て,触れて判断する
3 1次評価──欠けたら困るもの,待てないものを押さえる
4 2次評価──原因に関係するような情報を集める
5 バイタルサインの変化から急変を予測する
6 情報を正しく伝達する
Chapter9 臨床推論の進め方──臨床推論の道筋と目的を整理する
1 直感的か,網羅的か?「迷路」で考える臨床推論の道筋
2 緊急時は直感的判断で駆け抜ける
3 網羅的判断は「理詰め」で考える
4 網羅的判断に欠かせない理論的根拠
5 効率的に原因を絞り込む
6 経験に基づく「証拠」から判断する
7 臨床推論の目的に立ち返る
Appendix 「急な症状」からの臨床推論
1 生命の危機に結び付く頭痛を見分ける
2 生命の危機に結び付く胸痛を見分ける
3 生命の危機に結び付く腹痛を見分ける
4 生命の危機に結び付く呼吸困難を見分ける
索引