• HOME
  • 医学界新聞
  • 記事一覧
  • 2024年
  • 医学界新聞プラス [第3回]疾患編:慢性虚血性心疾患――虚血と心筋バイアビリティの評価 虚血評価評価の意義,予後予測におけるCT

医学界新聞

医学界新聞プラス

『心臓疾患のCTとMRI 第2版』より

連載 北川覚也

2024.11.29

前版となる『心臓血管疾患のMDCTとMRI』が2005年に刊行されてから19年が経過した2024年,待望の第2版となる『心臓疾患のCTとMRI』がこのたび刊行されました。この間,心臓CTやMRIの有効性に関するエビデンスの蓄積が進んだことから,さまざまな心疾患のガイドラインにおいて心臓CTやMRIの存在感が高まっており,検査に必要な解剖と撮影断面,撮影法の基礎と実践,画像解析と表示法,画像診断の適応となる疾患の基礎と読影のポイントを紹介した本書は,日々の臨床に役立つこと間違いなしです。医学界新聞プラスでは,本書の中から4項目をピックアップし,ご紹介していきます。ぜひご覧ください。

●心筋パーフュージョンCTによる虚血評価

心筋パーフュージョンCT(CT perfusion;CTP)は,ヨード造影剤をボーラス静注し,造影剤の心筋ファーストパスの動態から心筋血流分布を描出する検査法である.冠動脈狭窄に伴う心筋血流低下を描出するためには,アデノシンやATP,ジピリダモールなどの冠血管拡張薬による負荷を行う.CTPにはスタティックとダイナミックの2つのアプローチがある(→『心臓疾患のCTとMRI 第2版』48頁).スタティックCTPは冠動脈CTを撮影できる装置であれば実施可能で,2010年代前半に多くの臨床研究が行われた.しかし,スタティックCTPには,左室心筋に造影剤が到達する至適タイミングで撮影することが必ずしも容易ではないという問題がある.さらに,正常心筋と虚血心筋のHU差があまり大きくないうえ,血流評価が定性的ないし半定量的なものに留まるため,左室心筋に生ずる種々のアーチファクトを鑑別して正確な読影を行うには高度の熟練を要する.一方,ダイナミックCTPでは造影剤静注後の心筋ファーストパスを連続的に観察するため,撮影タイミングを逸する可能性は低く,定量解析による客観性の高い心筋血流評価が可能である.このため2010年代後半以降のCTPの技術的進歩や臨床研究はダイナミックCTPが中心になっている.

CTPは心筋パーフュージョンMRIと基本原理を同じくし,表在冠動脈狭窄による心筋虚血は,当該動脈の灌流域における内膜下優位の造影不良の存在により診断される(図24).CTPはMRIと比べて空間分解能が高いうえ,三次元ボリュームデータという利点を有し,冠動脈と血流異常の関係を把握しやすい.一方で病変コントラストはMRIと比べると低いため,アーチファクト低減や定量評価による客観性向上がMRI以上に重要である.

図24.png
図24 スタティックCTPによる心筋虚血評価
負荷CTPにて前壁から側壁にかけて造影不良を認める(赤矢印).安静時CTPでは心筋に明らかな血流異常を認めない.冠動脈CTとの総合診断により左前下行枝と左回旋枝領域の虚血と診断された.側壁の特に造影不良な部分(黄矢印)は遅延造影MRIにて心筋梗塞であった.なお,負荷CTPで基部中隔に認める低吸収はモーションアーチファクトと考えられた.

CTPの虚血診断能は,侵襲的fractional flow reserve(FFR)の低下を伴う狭窄を基準とした報告が多い.FFRは表在冠動脈の機能的狭窄度を表す指標であるため,冠微小循環の影響を受ける心筋パーフュージョン画像の参照基準として理想的ではないが,再灌流治療の適応決定においてFFRが事実上のゴールドスタンダードであるという臨床的側面から参照基準として広く受け入れられている.最近のメタ解析によるとCTPのFFRの低下を伴う狭窄に対する感度,特異度は,それぞれ71~95%,68~87%である1, 2).心筋パーフュージョンMRIを参照基準としたCTPの虚血診断能に関する検討は少ないが,セグメントベースで感度78~81%,特異度75~94%と報告されている3, 4)

スタティックCTPに対するダイナミックCTPの最も重要な利点は,単位心筋あたりの心筋血流をmL/minで定量化できることで,ダイナミックCTPから得られた心筋血流は水PETと高い相関を示す.心筋血流の定量解析により,客観的な虚血診断の閾値を決定することが期待されるが,虚血心筋と遠隔心筋を区別するための最適なカットオフ心筋血流量(myocardial blood flow;MBF)値は研究デザイン,患者背景,冠動脈疾患の有病率,FFRの閾値の違いなどにより研究ごとのばらつきが大きい.さらに,遠隔心筋の負荷時MBFは,年齢,性別,人種,BMI,インスリン抵抗性,血管拡張薬に対する動脈の反応,側副血行路の存在など,他の要因によっても影響を受ける可能性がある.そのため実際の心筋虚血診断は,狭窄冠動脈との位置関係,病変部の心筋血流絶対値,リモート心筋に対する相対的な血流低下の程度などから総合的に判断する必要がある.

わが国のガイドラインでは,CTPは他の心筋血流イメージングと同様に冠動脈CTAで異常が認められるか,判定が困難な場合に行うことが推奨されている5).CTPの利点の1つである冠動脈CTAとの同時評価を臨床で活かすには,冠動脈CTAをまず撮影して,引き続きCTPを実施するかどうかを決定するのがよい.ただし,迅速かつ正確にCTPの必要性を判断し,そこからCTPの準備(負荷薬剤注入ルートの確保,連続的血圧計測など)を始め,実施する柔軟な運用が求められる.検査の対象を血流評価の必要性が高い患者(検査前確率の高い患者,冠動脈石灰化の強い患者,ステント留置後の患者など)とし,冠動脈CTAの結果にかかわらずCTPを実施するほうが運用は容易であろう.

CTPは冠動脈狭窄の機能的評価だけでなく,リスク層別化に有用である.中村ら6) は心筋梗塞や再灌流治療の既往歴がなく,冠動脈疾患疑いにて冠動脈CTとCTPが実施された患者332例を後方視的に検討し,血流異常の重症度は冠動脈狭窄の有無とは独立した予後予測因子であり,冠動脈CTで50%以上の狭窄があり,かつ血流異常を認めると心血管イベント発生率が12.2%/年であったのに対し,狭窄があっても血流異常がなければ1.5%/年だったと報告した.また,遅延造影をCTPに加えて評価することで,CTP単独より正確なリスク層別化が可能であるとしている7)

●遅延造影CTによる心筋梗塞・バイアビリティ評価

遅延造影CTは,ヨード造影剤の投与後数分以降の遅延相の撮影により心筋梗塞や線維化を描出する検査法である.ヨード造影剤はMRIで用いられるガドリニウム造影剤と同様に細胞外液に非特異的に分布するため,遅延造影CTでは原理的に遅延造影MRIと同一の情報を得ることができる.実際,再灌流治療後のAMIや陳旧性心筋梗塞(old myocardial infarction;OMI)において,CTとMRIによる梗塞の分布やサイズは良好な一致を示すことが報告されている8, 9).ただし,正常心筋と梗塞心筋のHU差が低く(≒30HU)コントラストはMRIと比べて低いため,造影剤の減量は困難であり,高い診断能を得るためには,低管電圧撮影やデュアルエナジー撮影などを用いて造影効果を高めたり,極力,ノイズやアーチファクトを低減する工夫を施したりすることが重要である(→『心臓疾患のCTとMRI 第2版』52頁).遅延造影CTによる心筋バイアビリティ評価はMRIと同様,遅延造影領域の壁内深達度や円周方向の広がりの視覚的評価により行われる(図25).CT値などを利用した客観的評価も可能であるが,現時点で確立された方法はない.

図25.png
図25 ダイナミックCTPによる虚血評価
左前下行枝へのステント留置後.冠動脈CTでは,左前下行枝近位部に中等度の狭窄(緑矢印)と,閉塞した対角枝(黄矢印)が認められた(a).ダイナミックCTP元画像では血流異常の指摘は困難だったが(b),定量解析による血流マップでは閉塞した対角枝領域の血流低下が明らかだった(c).遅延造影CTにより,血流低下領域に梗塞心筋が確認された.

遅延造影CTを慢性虚血性心疾患患者の診療にどのように活用するかは今後の検討課題である.心筋梗塞や再灌流治療の既往歴のある患者においては,冠動脈CTの際に遅延造影CTを追加して心筋梗塞の広がりや心筋バイアビリティを評価することは有用と考えられる.一方,冠動脈疾患疑い患者を対象とした冠動脈CTの際に遅延造影CTを追加する意義は明確ではない.Gotoら10) は心筋梗塞や再灌流治療の既往歴がなく,冠動脈疾患疑いにて冠動脈CTと遅延造影CTが実施された患者389例を後方視的に検討し,遅延造影CTによって,それまで知られていなかった心筋梗塞が72例(19%)に発見されたとしている.また,そのような心筋梗塞の有無は冠動脈狭窄の有無とは独立した予後予測因子であり,冠動脈CTで50%以上の狭窄があり,かつ遅延造影を認めると心血管イベント発生率が13.7%/年だったのに対し,狭窄があっても遅延造影がなければ1.8%/年だったと報告した.

このように遅延造影CTは冠動脈疾患疑い患者のなかでも,より強力な内科的治療や血行再建治療が必要な高リスク患者の同定に役立つ可能性がある.


文献
1)Hamon M, et al:Additional diagnostic value of new CT imaging techniques for the functional assessment of coronary artery disease:a meta-analysis. Eur Radiol 29:3044-3061, 2019
2)Celeng C, et al:Anatomical and Functional Computed Tomography for Diagnosing Hemodynamically Significant Coronary Artery Disease:A Meta-Analysis. JACC Cardiovasc Imaging 12:1316-1325, 2019
3)Kim SM, et al:Detection of ischaemic myocardial lesions with coronary CT angiography and adenosine- stress dynamic perfusion imaging using a 128-slice dual-source CT:diagnostic performance in comparison with cardiac MRI. Br J Radiol 86:20130481, 2013
4)Bamberg F, et al:Dynamic myocardial CT perfusion imaging for evaluation of myocardial ischemia as determined by MR imaging. JACC Cardiovasc Imaging 7:267-277, 2014
5)Yamagishi M, et al:JCS 2018 Guideline on Diagnosis of Chronic Coronary Heart Diseases. Circ J 85:402-572, 2021
6)Nakamura S, et al:Incremental Prognostic Value of Myocardial Blood Flow Quantified With Stress Dynamic Computed Tomography Perfusion Imaging. JACC Cardiovasc Imaging 12:1379-1387, 2019
7)Nakamura S, et al:Prognostic Value of Stress Dynamic Computed Tomography Perfusion With Computed Tomography Delayed Enhancement. JACC Cardiovasc Imaging 13:1721-1734, 2020
8)Gerber BL, et al:Characterization of acute and chronic myocardial infarcts by multidetector computed tomography:comparison with contrast-enhanced magnetic resonance. Circulation 113:823-833, 2006
9)Mahnken AH, et al:Assessment of myocardial viability in reperfused acute myocardial infarction using 16-slice computed tomography in comparison to magnetic resonance imaging. J Am Coll Cardiol 45:2042-2047, 2005
10)Goto Y, et al:Prognostic Value of Cardiac CT Delayed Enhancement Imaging in Patients With Suspected Coronary Artery Disease. JACC Cardiovasc Imaging 14:1674-1675, 2021

 

心臓疾患の画像診断の決定版となるテキスト

<内容紹介>画像解剖から、CT・MRIの撮影法、各疾患への適応とプロトコール、診断までを網羅した心臓の画像診断の決定版となるテキストの改訂版。この間のモダリティの進化を踏まえて、掲載画像と記載内容を全面的に刷新した。心臓疾患の臨床に携わるすべての循環器科医、放射線科医、診療放射線技師にとって必読の1冊。

目次はこちらから

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook