医学界新聞

対談・座談会 石丸 裕康,尾原 晴雄,谷崎 隆太郎,深田 絵美

2025.04.08 医学界新聞:第3572号より

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 診療参加型臨床実習(MEMO)によって,医学生の卒前・卒後の養成を一貫して行う必要性が高まっています。市中病院は頻度の高い症候・疾患を有する患者が多いなど大学病院と異なる教育環境・効果があるものの,プログラム構築,病院の受け入れ体制などの課題から十分に実践できている病院はそう多くありません。市中病院で診療参加型臨床実習をすることによる医学生・病院双方への影響を示すとともに,実習の充実に向けたカリキュラム作成と学生とのかかわりのヒントを探りました。

石丸 卒前・卒後をシームレスにすべく,診療参加型臨床実習が医学教育モデル・コア・カリキュラム1)に組み込まれ,市中病院もその実習先として重要な役割を担います。市中病院ならではの特徴や強みにはどのようなものがあるのでしょうか。実習を充実させるヒントを座談会を通じて探りたいと思います。

石丸 施設によって受け入れている大学数・学生数は異なります。自己紹介も兼ねて各病院の状況を教えていただけますか。

尾原 当院は臨床研修の歴史が長いこともあり,学生の教育にもかなり早い段階から力を入れています。地元の琉球大学との強いつながりもあって,琉球大学の全学生のほか,全国およそ10大学から選択実習という形で毎月20人前後の学生を受け入れています。私は臨床研修センター長として,研修医教育だけでなく学生実習の責任者としても教育に携わっています。

谷崎 私は前所属の名張市立病院のときから三重大学と教育面で連携しており,所属が変わった今も継続して同大学の学生を中心に,毎月2~3人を受け入れています。5年生を対象とした4週間の家庭医療学実習のほか,6年生を対象とした3~4か月間の長期間滞在型地域医療実習(Longitudinal Regional Community Curriculum:LRCC)のカリキュラムを整備してきました。

深田 私は卒後研修支援センターの事務員として,研修医や専攻医のお世話をしたり,相談に乗ったりしてきました。診療参加型臨床実習が盛んになってからは愛知県内の大学を中心に複数大学から学生を受け入れ,実習期間を学生が過ごしやすいよう研修センターの事務員皆で工夫しています。

石丸 ありがとうございます。皆さんは市中病院での診療参加型臨床実習について,学生にどのようなメリットがあるとお考えでしょうか。

尾原 教科書で学んだ頻度の高い疾患を幅広く経験できることだと思います。

谷崎 同感です。市中病院に来られる患者は相対的に重症度が低いため,学生が診療に参加できるチャンスが多いです。最先端の医療を提供する大病院になればなるほど学生が手を出せる領域が狭まってしまうので,「診療参加」するには市中病院はうってつけです。また市中病院は高齢患者が多く,標準医療を提供しようとしても,それが必ずしも本人の安楽や幸せにつながらないといった倫理的な問題に直面する機会も多々あり,医学以外の視点から人を診る方法も学べるはずです。

石丸 確かにそうですね。専門性の高い患者を診る大学病院も当然重要であるものの,医療の多様なニーズに触れられるのは市中病院で実習することの価値と言えます。

石丸 深田さんには指導医とは異なる視点からの気づきをお話しいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

深田 卒後に自分が成長できる病院を見極められるメリットもあると思います。病院見学とは違い,指導医の人柄や院内の雰囲気を肌で感じ取れます。病院側にとっても学生が研修医として戻ってきてくれるとうれしいです。

谷崎 当院も診療参加型臨床実習で来た学生が,研修医や専攻医として戻ってくるケースが増えつつあります。

尾原 複数大学から受け入れていると,学生同士でどの病院のどこがいいといった情報交換している姿をよく見かけます。

石丸 病院側のメリットは他にもありますか。

尾原 学生の診療参加が真に実現できていれば戦力としてカウントできる点が挙げられます。

谷崎 おっしゃる通りで,私は学生がチームにいることで主に①指導者自身の学習意欲の維持,年配スタッフへの精神的刺激,②初期対応,カルテ記載の負担軽減,③組織内で教育文化が根付くことによる研修医リクルートへの好影響,があると思います。

石丸 研修医が育つと診療面で戦力となり病院が活性化したという経験は誰しもあるはずです。学生にも同様に戦力となるまで実習で指導できると理想的ですが,数週間では難しいのも現状であり,指導側の工夫が必要となります。学生への指導で心がけていることはありますか。

谷崎 態度面の教育を最も重視しています。患者さんにため口で話しかけないといった基本的な診療での態度だけでなく,医療チームの一員としての態度も含まれます。次にメンタル面の指導も重視しています。学生は受験などで誰かと比べられて育ってきた背景があるので,他人と比較して落ち込むケースが多いです。「目標は高いほうがいいけれど,誰かと比較するのではなく,過去の自分と比較せよ」と繰り返し伝えています。

尾原 実習に来る学生はOSCE(客観的臨床能力試験)に合格しているので,診療のひな型はある程度できるという前提で接するようにしています。もちろん試験と現場の違いはあるので,その溝を埋められるようサポートしています。一方で,市中病院の指導医たちは現代の卒前教育でどこまでのレベルに達しているのかについて理解が十分でなく,学生の力を低く見積もっている可能性があるとみています。

深田 同じ課題を抱えています。学生を受け入れてくれる診療科には,OSCEを合格した学生であることを伝えていますが,医師の全員が学生の能力を正しく把握できているとは思いません。OSCEに合格した時点で担保されているレベルがどの程度であるかを知ってもらう必要性を感じます。

石丸 大学病院とは異なり,市中病院の医師は自ら情報を捕まえようとしない限り,卒前教育の情報は入ってきませんからね。指導医養成のワークショップでテーマに含めてもらえると関心も高まるのではと考えています。

石丸 学生への指導内容の困りごとに医行為の扱いがあります。医療安全への意識が厳しくなっている中で,手技的な経験を学生に積んでもらうのは難しいものです。

尾原 同感です。侵襲的な...

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関西医科大学総合診療医学講座 理事長特命教授 同大学香里病院総合診療科 部長

1992年阪大卒。天理よろづ相談所病院で研修した後,同院に勤務し救急診療部部長,総合診療教育部副部長を担う。その間,研修医教育のみならず,医学生の診療参加型臨床実習にも携わる。2021年より関西医大にて卒前教育にもかかわり,卒前・卒後の医師養成を一貫して行うべく活動する。

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沖縄県立中部病院内科 部長臨床研修センター長

2000年鳥取大卒。沖縄県立中部病院で研修後,沖縄県立八重山病院を経て,06年より米ボストン大総合内科クリニカルフェローとして留学。08年沖縄県立中部病院へ戻り,指導医として勤務する傍ら,21年に岐阜大大学院医学教育学博士課程を修了する。23年からは臨床研修センター長として臨床研修と医学生実習の責任者を務める。日本医学教育学会理事,同学会教育病院・診療所委員会委員長。

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市立伊勢総合病院 内科・総合診療科 副部長

2006年埼玉医大卒業後,坂総合病院で研修を始める。その後,岐阜大高次救命治療センター,国立国際医療研究センター病院感染症フェローを経て15年に名張市立病院にて勤務した後,19年より現職。約10年間,三重大の医学生を中心に診療参加型臨床実習を受け入れ,臨床と教育に日々取り組んでいる。

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大同病院卒後研修支援センター 副センター長

2002年より国立病院機構名古屋医療センターの卒後教育研修センターに勤務し,16年より現職。臨床研修担当の事務として多くの研修医や専攻医のサポートにかかわるだけでなく,診療参加型臨床実習の受け入れに当たって大学との調整や,医学生の実習期間中のホームとしての役割を担う。

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