医学界新聞

野木真将氏に聞く

ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩み

インタビュー 野木 真将,亀田 俊明

2025.04.08 医学界新聞:第3572号より

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 亀田総合病院が,卒後教育の国際的認証機関であるACGME International(ACGME-I)の施設認証を,国内で初めて取得した。この快挙は,同院の研修体制が国際的な水準に到達していることを示す証となる。認証取得を主導した野木真将氏へのインタビューを通じて,その舞台裏を聞いた。

――まずはACGME-I認証がどのようなものかについてお聞かせいただけますか。

野木 米国にはレジデンシーとフェローシップに提供される卒後教育を監査・評価する卒後医学教育認定評議会(ACGME)という第三者機関があり,同機関の認証によって全米の臨床研修の質の担保がなされています。当院が今回取得したのは,その国際版です。これまで12か国の施設が認可を受け,当院が13か国目となる日本初の施設になりました。

――受審のきっかけを教えてください。

野木 長年勤務をしていたハワイ大学での経験です。同大がACGMEの認可を維持しようと努力している姿を見て,第三者による監査・規制が研修内容を改善する実感を得ました。臨床研修病院のあるべき姿だと感じましたね。また,私が修士課程で日本の医学部の国際認証評価に関して研究をしていたこともあり,当院に着任する際に行われた病院側との話し合いの中で,日本にまだ前例のなかったACGME-Iによる卒後研修の国際認証の取得を目標に掲げることになりました。日米で卒後医学教育に従事する自分に適したプロジェクトだとワクワクしました。それが約1年半前の出来事です。

 受審に当たって事務局に連絡をしたところ,当院が日本で初めて認証へ挑戦するということもあり,申請前にACGME-Iのプレジデント自ら来日され,意見交換をする機会をいただきました。認証取得に向けた本気度を確認する意図も含まれていたと思います。その後,意見交換した内容を踏まえた本格的なプロジェクトチームを立ち上げ,院内の規約や体制を見直し,申請書を提出したのが2024年11月です。今年1月に開催されたACGME-Iの会議で検討され,施設認定を受けました。

――先ほど「監査・規制が研修内容を改善する」との発言がありましたが,ACGME-Iの申請書1)に目を通すと,非常に細かなルールまで設定することが求められていることがわかります。

野木 教育の質をどう保証するかを,いかに客観的に示せるかが認証取得の鍵になります。そこで行ったことの1つがガバナンスや院内規約の見直しです。当院には研修医を統括する卒後研修センターが以前から設けられていた一方で,90人近く在籍する専攻医は各診療科が監督しており,診療科を横断した組織がありませんでした。今回,卒後研修委員会(GMEC,)という研修体制全体を統括する委員会を立ち上げ,専攻医教育にかかわる全ての規約の改定と承認をしていきました。

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図 亀田総合病院におけるGMECの体制
指定機関教育責任者(designated institutional officer:DIO)として野木氏がGMECの運営・企画を担当。院長や各診療科の部長,卒後研修センター長をはじめ,研修医の代表者なども参画をする。1~3か月に1度開催され,研修に関連した課題についての意見交換を行う。

――GMECではどのような内容が検討されるのでしょうか。

野木 まず検討したのは採用過程です。採用予定医師の身元の確認方法,宿舎や当直室の整備状況,給与の話題まで幅広く議論しました。他にも,もしもハラスメントが起こった際の対応プロセスや,研修医・専攻医に低評価が下った際にどうサポートするのかなども検討事項の1つです。こうした院内規約を国際水準まで引き上げられるように見直していきました。

 並行して進めたのは研修医・専攻医の評価体制の改革です。評価体制がもともとなかったわけではありませんが,客観的な指標を用いることや,マイルストーン・コンピテンシーに基づく評価システムの導入など,根本からカリキュラムを考え直す機会になりました。また,連携施設で研修が実施されることもあるために,システムを当院のみが整えるだけでは不十分です。そのため連携施設と協定書を締結し,十分な研修体制を整備していることの証明としました。こうした院内・外への透明性確保は,ACGME-I認証の特徴と言えます。

――一方で全てを国際水準に揃えてしまうと,日本独自の研修システムと齟齬が出る部分もあるはずです。

野木 そこはACGME-Iと調整が必要だったことの1つです。専門医制度の概略など,丁寧に説明を行うことで日本の卒後教育のシステムを理解いただけたように感じています。他方,各国で義務化されている研修システム自体は尊重されることから,全てを国際水準にしなければならないわけではありません。この点は国際認証のユニークな点ですね。時間と根気のかかる作業でしたが,日本初の試みということでやりがいを皆で感じていました。

――今後のビジョンを教えてください。

野木 今回得られた認証は施設認定ですので,次は診療科レベルでのプログラム認証を受審できればと考えています。まずは私が部長を務める総合内科をはじめいくつかの診療科で検討していく予定です。施設認定の更新も2年後に行われます。年次評価も判定基準に加味されるため,今回認められたシステムが院内で機能しているのかを確認しつつ,アップデートしていきます。

 また認証の副次的効果に,当院の卒後教育の質の高さを世界に対して証明できたことが挙げられます。と言うのも,日本で展開される卒後教育の内情を示した英語論文は少なく,どのような体制で医師が研鑽をしているのか,海外からはわかりづらいのです。そうした中で今回の認証は,一定の水準の教育を受けたことを示す証となるために,研修修了者にも利点があるはずです。

――つまり,将来もしも海外に留学するとなった時のアドバンテージになり得ると。

野木 評価時の判断材料の1つにはなるでしょう2)。現在はACGME-I認証施設でプログラムを修了した医師が米国のフェローシップに応募する際にACGMEのプログラムを修了したレジデントと同等の扱いはされませんが,将来的には同等とみなされる可能性もあります。海外留学を希望する医師は後を絶ちません。そうした海外志向を持った方々に当院に目を向けてもらいつつ,最終的には同様の国際認証評価を受審する施設が国内に増えればと期待しています。厳しい基準をクリアする施設が増えれば,日本の卒後教育は,より安全で質の高い体制になっていくと信じています。このような前例は,航空安全,食品安全,建築基準,公害対策などの分野ですでに実現しています。そのためにもまずは当院での経験を通じて,認証評価という規制が卒後医学教育にどう影響を及ぼすのかを検証し,「亀田モデル」というケーススタディとして発信をできればと考えています。


1)ACGME International. General Requirements.
2)J Grad Med Educ. 2024[PMID:38993321]

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医療法人鉄蕉会亀田総合病院総合内科 部長 /米クイーンズメディカルセンター ホスピタリスト部門長・アソシエイトメディカルディレクター

2006年京府医大卒。研修修了後,11年に渡米しハワイ大内科レジデント。14年同プログラム内科チーフレジデント。その後レジデントへの教育アテンディングとして勤務しながら英キール大で医学教育修士課程を修了。現在は亀田総合病院総合内科部長を務める傍ら,米クイーンズメディカルセンターホスピタリスト部門長・アソシエイトメディカルディレクターとしても勤務する。著書に『チーフレジデント直伝!デキる指導医になる70の方法』(医学書院)。

3572_0403.JPG 当院はこれまで,初期研修および後期研修において質の高い教育環境の提供に力を注いでまいりました。その中で,私たちの研修プログラムが国際的にどう評価されるのかを客観的に確認する必要があると考え,ACGME-I認証の取得に向け取り組んでまいりました。このプロセスは,私たちが世界の医学教育の標準を学び,自院の教育内容が国際的な基準と照らし合わせて適切であるかを検証する貴重な機会でもありました。私たちの医学教育が世界の潮流から乖離していないかを確認し,自信を持つための重要なステップであったと考えます。

 医療法人鉄蕉会のルーツは江戸時代初期にさかのぼります。医業を営むとともに地域の子弟教育に尽くすなど,臨床と教育を両輪に,医学教育の重要性を深く認識し,これまで一貫して教育の質向上に取り組んでまいりました。その理念を共有し,情熱を持って指導に当たる医師が多く在籍することも当院の強みの1つです。

 今回のACGME-I認証の取得は,私たちの努力が国際的に認められたことの証であり,大変喜ばしく思います。同時に,総合内科の野木真将部長や国際関係部を筆頭に院内の多くのスタッフが一丸となってこの挑戦に取り組み,成果を上げられたことを誇りに思います。これを機に,さらに質の高い医師の卒後教育の実現に向けて今後も尽力してまいります。

 

亀田 俊明(かめだ・としあき)氏
医療法人鉄蕉会亀田総合病院 病院長

2008年川崎医大卒。臨床研修修了後,糖尿病・内分泌を中心にさまざまな施設で研鑽に励み,15年亀田総合病院糖尿病内分泌内科へ入職。20年より現職。

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