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『こどもの入院管理ゴールデンルール』より

連載 上村克徳

2024.03.08

 Hibワクチンなどの予防医学の発展によって重症の小児入院患者は減少しており,小児科では軽症例に潜む重篤な疾患をいかに見逃さないかが問われています。少子化もあり経験できる症例数が少なくなる中で,小児科医は重症例の見極めをどう体得していけばよいのでしょうか。
 新刊『こどもの入院管理ゴールデンルール』では,喘息といったcommon diseaseから心不全などの重篤な病態まで,さまざまな疾患の病態生理や患者評価,病棟管理時の留意点が簡潔にまとめられています。長年の臨床経験に裏打ちされた小児診療のエキスパートである編者らのゴールデンルールから,小児患者に対する病歴聴取や身体診察のコツと,小児病棟における入院管理の要点を学べます。
 「医学界新聞プラス」では,「第1章 小児科診療の基本」「第3章 入院治療・介入」「第4章 重症なこどもの入院管理」の中から内容を一部抜粋し,全4回でご紹介します。


 

呼吸器系
喘息
 全身ステロイド投与とSABA吸入が治療の基本.ただ,発作が軽快すれば終わり,ではない 

病態生理

末梢気道のびまん性の慢性炎症を背景とした可逆性の末梢気道狭窄である.
全身ステロイド投与と短時間作用型β2刺激薬(short-acting β2 agonist:SABA)吸入が薬物治療の基本となる.

患者評価

  • 判断基準となる入院適応(下記)を押さえよう
  • 外来治療(SABA吸入20分ごと3回+全身ステロイド投与後2〜3時間経過観察)にもかかわらず喘鳴が残存し,呼吸窮迫症状(多呼吸,呼吸補助筋使用)・酸素依存性(SpO2 < 92%)を認める.
  • 外来治療後もPEFR(peak expiratory flow rate)がpersonal bestの < 50〜60%しかない.
  • 24時間以内に発作が再燃し,救急外来を再受診した場合.
  • 考慮すべき基礎疾患(先天性心疾患,気管支肺異形成症などの慢性肺疾患,神経筋疾患など)がある.
  • 過去の重積発作による人工呼吸歴・PICU入室歴がある.
  • 家庭での経過観察・治療継続,発作時・再燃時の再受診などが難しく,保護者の治療アドヒアランス不良が疑われる.
     

呼気性喘鳴の有無だけで判断・診断しない
最重症例では呼気性喘鳴は減弱あるいは聴取不能になる.呼気性喘鳴を聴取しないことで喘息は否定できない.

  • 外観から酸素化不全・換気不全を即座に推定しよう
  • 興奮度合いが強い患者は低酸素(酸素化不全)状態,興奮を通り越してぐったりしている患者は二酸化炭素貯留(換気不全)状態である.重症度はモニター値・検査結果ではなく,バイタルサイン・呼吸窮迫状態の総合評価であると心得る.
     
  • 胸部X線検査の意味づけを常に考えよう
  • 入院患者に対するルーチンの胸部単純X線検査は不要であり,他の疾患(気道異物,気管狭窄,縦隔腫瘍,肺炎)や合併症(気胸,縦隔気腫)が疑われた場合にのみ施行する.
     
  • 静脈血液ガス分析のPCO2値への過度の依存は危険
  • 静脈血液ガス分析結果はあくまで参考値である.採血時の啼泣や末梢循環の状態でPCO2は容易に影響を受けるだけでなく,わかることは「採血した時点での換気状態」であるに過ぎない.呼吸状態は「点(血液検査)」ではなく「線(呼吸状態の経時的変化)」で評価する.
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  • 呼吸窮迫消失後の睡眠時の軽度低酸素血症への酸素投与は不要
  • 亜急性期(呼吸窮迫軽減時)になると空気吸入下で覚醒時SpO2が良好な値(≧ 92%)を維持できても,入眠するとSpO2 < 90%となり酸素投与が行われることが多い.この場合,入眠時に呼吸窮迫症状がなければSpO2 ≧ 88%を許容し,退院時期を検討してよい.
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病棟管理

  • 悪化時の次の一手を遅滞なく打とう!PICUコンサルト基準を押さえる!
  • 全身ステロイド投与+SABA(頻回間欠 or 持続)吸入で3〜6時間治療したにもかかわらず呼吸状態の改善がない(意識障害,呼吸窮迫症状が重度,多呼吸[> 60/分]の改善なし,呼吸音減弱の改善なし,十分な酸素療法にもかかわらずSpO2 < 92%が持続,PEFR < 40%が持続)場合は次の一手を打つ.
  • 非侵襲的陽圧換気療法(NPPV.マスクCPAPやHFNC)の導入は気管挿管と適切な人工呼吸管理が可能な病棟・施設で実施する.NPPV導入後に呼吸状態がさらに悪化した場合,搬送自体が困難になる可能性が高いためである.
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全身ステロイド投与+SABA吸入の定型的治療を押さえる  表1 

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表1  喘息の定型的治療(クリックで拡大)
  • 退院から退院後管理へシームレスに続ける.発作が軽快すれば終わりじゃない!
  • 全身状態が安定し,経口摂取が良好である.
  • 酸素需要が消失する.
  • 適切な治療継続プラン(例:経口ステロイド継続+SABA吸入 ≦ 2回/日程度)が確定している.
  • 適切なフォローアッププラン(コントローラー導入,専門医・かかりつけ医への紹介)が確定している
  • 頻回の救急外来受診歴,PICU入室歴,重症持続型喘息,過去1年間に喘息での入院歴がありコントローラー導入がなされていない場合は,特にフォローアッププランを綿密に行う(アレルギー専門医への紹介など)
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小児病棟における入院管理の基本とリアル。
こどもたちを全力でサポートするために

<内容紹介>小児病棟の入院管理に必要な知識を簡潔にまとめました。「see(見る)ではなくobserve(観る)。そして、正しさより優しさ」「診療セッティングで正常・異常の判断の閾値は変わる」「No assessment, no test」「下痢があっても虫垂炎! 膿尿があっても虫垂炎! 腹痛がなくても虫垂炎!」「外傷診療はスピードが命、中毒診療は知識が命」など、実践に裏打ちされたゴールデンルールが満載です。

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