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『こどもの入院管理ゴールデンルール』より

連載 黒澤寛史

2024.03.01

 Hibワクチンなどの予防医学の発展によって重症の小児入院患者は減少しており,小児科では軽症例に潜む重篤な疾患をいかに見逃さないかが問われています。少子化もあり経験できる症例数が少なくなる中で,小児科医は重症例の見極めをどう体得していけばよいのでしょうか。
 新刊『こどもの入院管理ゴールデンルール』では,喘息といったcommon diseaseから心不全などの重篤な病態まで,さまざまな疾患の病態生理や患者評価,病棟管理時の留意点が簡潔にまとめられています。長年の臨床経験に裏打ちされた小児診療のエキスパートである編者らのゴールデンルールから,小児患者に対する病歴聴取や身体診察のコツと,小児病棟における入院管理の要点を学べます。
 「医学界新聞プラス」では,「第1章 小児科診療の基本」「第3章 入院治療・介入」「第4章 重症なこどもの入院管理」の中から内容を一部抜粋し,全4回でご紹介します。


 

こどもの薬物療法の基本
 おまじないやお守りは不要 

臨床ルール

毎日すべての薬剤の必要性を再評価する
患者の負担を減らすために,薬剤は少ないに越したことはない.
看護師の仕事量を減らすためにも,薬剤は少ないに越したことはない.
「悪さをしてないから続ける」のは誤りである.
​​​​​​​「おまじない程度なんだけど……」「お守りがわりに……」ならば使わない.

使うからにはきちっと使う
中途半端な量を中途半端な期間,使うのはやめよう.
なんとなく使うのはやめよう.
内服薬や外用薬のコンプライアンスも把握する.

蘇生薬はいつでも指示を出せるように準備しておく
リスクが高い患者(ICU入室中など)に対しては,ベッドサイドで緊急薬剤投与量一覧(→後見返し)を参照できるようにしておくとよい.
すぐに調べられるようにしておく.
「記憶に頼らない」「暗算に頼らない」ことは医療安全管理上,とても重要である.

輸液療法
 輸液必要性の判断の難しさを知らずして,水分管理を語るなかれ 

評価

  • フェーズを意識して予測する
  • この疾病,この重症度で,この時期ならば,この程度の輸液が必要なはず,という予測が大切である.
  • 例えば敗血症の場合,次の4つのフェーズを意識する.
  •  ① 蘇生輸液が必要で,迅速に動かなければいけない(resuscitation)分単位で考えるフェーズ
     ② 輸液をいつまでどれだけ続けるか,言い換えれば,いつ輸液療法をやめるか考える(optimization)
    時間単位で考えるフェーズ
     
    ③ 循環が安定して,通常の水分損失分を補う(stabilization)日単位で考えるフェーズ
     
    ④ 炎症がおさまり,ついた水が返ってくる(体の浮腫が改善に向かう)(evacuation)利尿のフェーズ
  • 敗血症以外の重症な病態の時にも,術後を含めて,同様にフェーズを意識しておくとよい.
  • とはいえ,輸液の必要性,必要量の判断は,多くのモニタリングを厳密に行っているICUでさえ容易ではなく,多くの患者をベッドサイドでよくみて,経験を積んでいくことが大切である.
     
  • 予測が外れたら,何かが起こっていると考える
  • 上記のようにフェーズを意識してみていき,ある程度予測ができてくると,「そろそろ利尿のフェーズに入っていい頃なのに,まだ輸液負荷が必要」など,予測に合わない患者に出会う.そんな時には改めて患者の全体像を見直し,何か見落としていないか,新たに感染症を合併していないかなど,慎重に評価しなければならない.輸液のフェーズを意識していたおかげで,患者の異変に早期に気付けることは珍しくない.そしてそれは,あなたの臨床能力が一歩前進したことを意味する.
  • ただし,何かおかしいと思ったら,速やかに上級医へ報告,相談すること.
     

輸液を熟知する
輸液は「ただの水」ではない.
輸液は最も頻繁に処方される,最も医師の裁量の幅が広い薬剤である.

管理

維持輸液量は,過量投与に注意して設定する
いわゆる4-2-1ルールで計算した輸液投与量では,重症であればあるほど,輸液量が過量となる.

resuscitationフェーズでは十分に細胞外液を投与する
この時は過少投与を絶対に避けなければならない.
過量投与は取り戻せるが,過少投与は生命の危機に直結する.

0.9%食塩水(生理食塩水)とバランス輸液(リンゲル液など)の違いを意識する
何でもかんでも0.9%食塩水では,患者に優しくない.
0.9%食塩水は生体にとって「酸」であることに注意する.

低血糖と電解質異常(特にナトリウム)は過剰なほど心配せよ
低血糖をアマくみている医師が多い.低血糖が遷延すれば中枢神経に不可逆的損傷が生じ,生命に関わることもある.

  • 輸液投与量(mL/時)の計算式:0〜10kgの体重に対して4mL/kg/時,10〜20kgの体重に対して2mL/kg/時を10kgを超えた1kgごとに,> 20kgの体重に対して1mL/kg/時を20kgを超えた1kgごとに.
  • [例] 体重5kgならば5×4=20mL/時,体重25kgならば4×10+2×(20−10)+1×(25−20)=65mL/時.

     
中心静脈カテーテル
 超音波ガイド下穿刺でもランドマークを意識する 

臨床ルール

  • 適応を明確に!
  • 何のために中心静脈カテーテルを入れるのかはっきりとさせる.このことが不要なカテーテル挿入や,不必要に長期間のカテーテル留置を防ぐ.

中心静脈ラインの適応
信頼性,耐久性のある静脈路が必要である.
末梢静脈路が確保できない,あるいは不適切である.
血管作動薬,静脈栄養,中心静脈路が必要な薬剤の投与である.
採血が頻繁に必要である.
中心静脈圧や中心静脈血酸素飽和度のモニタリングに用いる.
持続腎代替療法などの体外循環療法へのアクセスが必要である.

禁忌
絶対的な禁忌はない.
出血傾向がある時には止血困難な箇所(鎖骨下静脈など)の穿刺を極力避ける.​​​​​​​
腹部外傷では大腿静脈を避けたほうがよいことがある.​​​​​​​​​​​​​​
感染を起こしている皮膚からの挿入は避ける.

​​​​​​​

適切な鎮痛・鎮静下に穿刺する
ほとんどの場合,中心静脈カテーテルの穿刺には鎮痛・鎮静・筋弛緩が必要である.
年長児へのPICC(peripherally inserted central venous catheter)挿入は,鎮静・筋弛緩ともに不要なことが多い.局所麻酔を忘れずに.

超音波によるプレスキャンは常識
穿刺時の体位をとって,動脈と静脈の位置関係や穿刺しようとする静脈の径を確認する.
動脈と静脈の位置関係は,体位で変化するので注意する.
静脈径の半分以下の径のカテーテルを選択する.

  • 超音波ガイドとランドマーク法を同時に使う
  • 原則としてリアルタイムの超音波ガイド下に穿刺する.
  • 超音波ガイド下に穿刺する時でも,動脈を触診しそこから穿刺部位(静脈)の目安をつけること.古典的なランドマークに従って穿刺部位や穿刺方向の目安をつけることを怠らない.

     
 

小児病棟における入院管理の基本とリアル。
こどもたちを全力でサポートするために

<内容紹介>小児病棟の入院管理に必要な知識を簡潔にまとめました。「see(見る)ではなくobserve(観る)。そして、正しさより優しさ」「診療セッティングで正常・異常の判断の閾値は変わる」「No assessment, no test」「下痢があっても虫垂炎! 膿尿があっても虫垂炎! 腹痛がなくても虫垂炎!」「外傷診療はスピードが命、中毒診療は知識が命」など、実践に裏打ちされたゴールデンルールが満載です。

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