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  • 看護・介護する人の腰痛ゼロをめざして 腰痛予防と緩和のためのセルフケア(5)あん摩手技を用いた下肢マッサージによる腰痛緩和ケア(関恵子)

医学界新聞

看護・介護する人の腰痛ゼロをめざして 腰痛予防と緩和のためのセルフケア

連載 関恵子

2024.11.12 医学界新聞(通常号):第3567号より

3564_0704.pngこれまでは,現場ですぐに実践できる腰痛予防対策をご紹介してきました。今回からはすでに腰痛を発症し,鎮痛剤やコルセットを着用して働く看護師・介護士に役立つ腰痛緩和ケアをご紹介します。腰痛を抱えながらも患者さんに質の高いケアを提供することを第一に頑張って働かれている方々のお役に立てますと幸いです。

(関恵子)

 第3回(本紙第3565号)で解説した通り,腰痛の発生メカニズムは,前傾姿勢によって腰部進展筋の内圧が高まり,腰背部の筋血流が阻害され低酸素状態となることによる発痛物質の生成および疲労物質の蓄積に起因します1)。看護・介護ケアにおいては,長時間の静的動作動等が要因になります。筆者らは,腰痛の原因となる腰部筋疲労の蓄積に対して,マッサージによる緩和ケアを検討しました。

 あん摩・マッサージ・指圧師という国家資格はご存じでしょうか? 国内では,この資格を有する者と医師のみがあん摩・マッサージ・指圧を業として行うことができます。中国発祥のあん摩は,筋肉を対象に中枢から末梢へなでる・押す・揉む・叩くなどの手技を薄い衣服の上から用い,生体の持つ恒常性維持機能を反応させて健康を増進させる手技療法です。ヨーロッパ発祥の手技療法であるマッサージは,あん摩とは逆に末梢から中枢に向かって主に循環系を対象に,オイル等の滑剤を用いて直接皮膚に軽擦法を施すものです。広義ではあん摩も「マッサージ」と言われていますが,手技や施術する方向,対象部位が異なるため,使い分けることが大切です。

 筆者らは腰痛発生メカニズムに即して,あん摩手技を用いた下肢マッサージによる腰痛緩和をめざしました。腰部脊柱起立筋の血行を促進し,筋疲労物質の蓄積や発痛物質の産生を防ぐことが狙いです()。あん摩手技を用いた下肢マッサージでは,臀部から足先に向かい,軽擦(皮膚をなで・さする),圧迫(皮膚表面から深部の筋肉に向かい圧迫する),揉捏じゅうねつ(筋肉を押し,こね,つまみ,搾るように揉む)の手技を用います。下肢を施術対象としたのは,腰背部の施術に比べ身体損傷リスクが低く,腰部脊柱起立筋への血行循環に必要な筋ポンプ作用が期待されるからです。

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 下肢筋肉を対象としたあん摩手技による腰痛緩和メカニズム

 滋賀県内の施設にご協力をいただき,リラックスして施術を受けられるよう個室をお借りして,夜勤終了後の看護従事者21人を対象にあん摩手技を用いた下肢マッサージによる腰痛緩和効果を検証しました(写真)。この介入効果検証では,あん摩手技を組み入れた下肢マッサージを20分間行い,腰部脊柱起立筋群の筋組織の循環動態()と,勤務前後の腰痛・腰部負担度合いを評価しました。

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写真 あん摩手技を用いた下肢マッサージの様子
臀部から足先に向けて軽擦(1分),圧迫と揉捏(8分),軽擦(1分)の順に左右片足ずつ計20分間行う。自分自身の腰痛も予防するため,前傾時は自身の身体を対象に近づけ,荷重を分散することを意識してマッサージしている。

 施術前後の腰部脊柱起立筋群の組織循環動態において,酸素化血液量は変化が見られなかったものの,施術直後からの脱酸素化血液量の有意な低下と,筋組織酸素飽和度の上昇が認められ,下肢マッサージによる筋組織の循環促進効果が示唆されました。また,腰痛・腰部倦怠感の度合いは,腰痛・腰部倦怠感が勤務前はほとんどない状態から勤務直後には上昇していましたが,下肢マッサージにより有意に軽減しました2)

 その後,1人の看護従事者に長期介入効果検証のプレテストへご協力をいただき,週1回のペースで夜勤終了後にマッサージによる介入を1か月間継続しました。介入の度にヒアリングを行ったところ,1週目は「初回のマッサージ直後は効果がわからなかったが,家に帰って仮眠をとる際に足腰がぽかぽかして心地よかった」と,2週目以降は「身体が温かくなるのかどんどん早くなり,マッサージ中に効果を感じるようになった」「勤務終了後は疲れ果ててあまり動けないが,マッサージを受けるようになってからは夜勤後も動きやすく外出するようになりました」「夜勤はしんどいし億劫に感じることが多かったけれど,夜勤が終わったらマッサージをしてもらえると思うと仕事を頑張れました!」との感想をいただきました。介入件数はまだまだ少ないですが,腰痛予防・緩和のためのメンテナンスルームが全国の病院に設置されることで看護・介護する人の腰痛ゼロにつながる一助になると筆者は期待しています。

 病院での介入検証時では,寝たりきりや高齢患者さんに対する夜間の少人数での援助は,長時間の腰部負担を生じさせ,腰部疲労が蓄積しやすい状況にあることも確認されました。前後比較検証とはなりましたが,あん摩手技を用いた下肢マッサージの施術はマッサージによるリラックス効果だけでなく,腰背部の筋血流を促進させる効果があることもわかりました2)

 また,腰痛要因には動作以外に心理的要因も含まれています。看護・介護従事者は,患者さんを24時間継続的に医療ケアや日常生活援助をしており,安全・安楽・自立・自律性を常に考えたケアの提供は,身体だけでなく心への負担も大きいです。この心理的負担部分の軽減にもマッサージによる効果が期待できることが示唆されました2)

 これからも臨床現場で働く方々の声を聞きながら,腰痛を少しでも緩和できるケアについて考えていきたいと思います。次回は,筆者らが効果検証中の看護従事者が自分でできる下肢のセルフマッサージについてご紹介します。


:循環が促進された状態とは,筋組織内の酸素化血液量の上昇,筋組織内の脱酸素化血液量の減少,筋組織酸素飽和度の上昇を指す。

1)紺野愼一.筋肉の生理・病態.菊地臣一(編).腰痛 第2版.医学書院;2014.90-101.
2)関恵子,他.夜間勤務の看護師の腰痛に対する下肢マッサージの効果の検討――腰部脊柱起立筋のHb動態の変化から.日看技会学講抄.2021;46.

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