看護・介護する人の腰痛ゼロをめざして 腰痛予防と緩和のためのセルフケア
[第3回] 腰痛を防ぐ姿勢改善と,デバイスを活用した医療現場での予防教育
連載 伊丹琢,千田美紀子,関恵子
2024.09.10 医学界新聞(通常号):第3565号より
(関恵子)
看護・介護業務中の姿勢不良と腰痛メカニズム
看護・介護現場で日々行う生活行動援助は,腰痛発症の「動作要因」と言われる荷重・前傾姿勢・ひねり・長時間の静的作業姿勢といった不良姿勢を伴うことが多いです。看護職者の腰痛要因となる援助に関する文献においても,移乗に関連する車椅子移乗・体位変換といった腰部への荷重やひねりの多い援助だけでなく,排泄介助,清潔ケアといった長時間の前傾姿勢を要する援助において腰痛有訴率が高いことが報告されています1)。そのため援助中の荷重の制限や姿勢・環境改善が求められています2, 3)。
◇腰痛発生メカニズムに基づき,腰痛予防対策を考える
腰痛発生メカニズムから考えると,器質的疾患のない筋性腰痛は,前傾姿勢により腰部進展筋の内圧が高まることに起因します。腰部進展筋の内圧が高まると腰背部の筋血流が阻害され低酸素状態となり,発痛物質の生成および疲労物質の蓄積が促進されることで腰痛が発生します4)。さらに,患者の持ち上げや腰をひねるような動作が加わると,腰部の椎間関節や椎間板への負担から腰痛が発生しやすくなります。
立位において腰痛の起因となる腰背部の筋内圧は,直立姿勢(0°)から前屈60°の間で前屈角度の上昇に従い上昇します。しかし,前屈姿勢でも手を机やベッドに置くなど体幹の荷重を分散することで筋内圧を減少できます。また座位であれば前屈によって筋内圧が上昇するものの,立位に比べるとその上昇は抑えられます4)。これらの研究結果より,清潔・排泄ケアといった立位で長時間前傾姿勢となる可能性がある場合,①ベッドの高さを調整して前屈角度を浅くする,②体幹の荷重を分散できるよう身体の一部をベッドや柵に置く,③バイタルサイン測定や食事介助,採血といった長時間の前傾姿勢で実施する援助では可能であれば座位でのケアを推奨していくことが腰痛予防につながると言えます(図)。

患者さんの援助の際に看護師や介護士が座ってケアをしている医療現場は,まだまだ少ないのが現状です。寝たきり患者が急増している現代において,前述した3つのポイントを意識することでコストをかけず,今からでも姿勢改善に取り組めます。ぜひ,看護師にとって負担が少ないケア方法を職場として検討してもらえれば幸いです。
(執筆:関恵子)
腰痛リスクのある前傾姿勢×ひねる動作を把握し通知する
腰痛予防において,看護動作中の姿勢を意識して不良姿勢を改善しなければなりませんが,医療現場で常に自身の姿勢を意識するのは難しいものです。
筆者は腰痛発症リスクのある前傾姿勢や体幹のひねりを検知し,看護......
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