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  • めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する(11)意見の対立をどう乗り越えるか?③未告知を家族が希望した場合(石上雄一郎)

医学界新聞

めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する

連載 石上雄一郎

2024.03.25

70歳男性。肺がんに対して抗がん薬治療を行っていたが,食事が取れなくなってきていた。その後,治療を続けるも動けなくなってしまい,抗がん薬を中止して入院となった。検査の結果,多発脳転移があり,抗がん薬治療の効果がみられなかった。入院時は本人の状態が悪かったため,検査結果や治療状況を家族に伝えていた。その後,本人の意識が回復したため,主治医は本人への病状説明を考えていた。しかし,家族から担当看護師に「再発したことは言わないでほしい。本人が落ち込んでしまってかわいそうだ。希望を失ってしまう」と伝えられた。

 病気について患者自身に伝えることが不可欠となった1)一方で,日本医師会『医師の職業倫理指針』では,「過大な精神的打撃を与えるなど,その後の治療の妨げになる正当な理由があるときは,真実を告げないことも許される」と記載されている2)

 緩和ケアの現場では「がんの再発や転移のことは伝えないでほしい」「治らないことや残された時間については話さないでほしい」と言われることは多い。また「言霊ことだま」の文化があり,悪い知らせが現実化することへの恐怖や不必要な負担をかけたり動揺させたりすべきではないとの考えもあると言われている3)。今回は,未告知を家族が希望した時にどのような点に配慮したら良いかを考えていきたい()。

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 未告知を家族が希望した場合のポイント

 「(未告知とすることは)理不尽な要求だ」「患者が治療を行う上で再発を伝えないことはかわいそうだ」と医療者が不満を表出させると,家族との関係性がこじれていきやすい。医療者が感情を持つのは自然だが,話し合いを行う上では自身の感情をいったん脇に置くことが重要だ。本連載第10回でも解説したとおり,まずは医療者自身が怒り(陰性感情)を感じている可能性に気づいてほしい。

 また,長らく未告知で治療してきたものの,終末期になって本人中心の医療を提供するために急遽告知する方針に転換されると,家族が混乱するのは自然なことだろう。そのような場合では従来通り,未告知の選択が家族から出てくる可能性があることに留意したい。

 なお,以前は未告知の方針を採ることや,場合によっては異なる病名を患者本人に伝えることが当たり前で,家族にだけ病状を伝える慣習があったのは事実である。

 家族が未告知を希望するケースでは,これまでに病状がどうかをあまり知りたくないと患者本人が言ってきた場合もあるだろう。病名を聞いて落ち込んだ過去があるのかもしれない。家族は患者を守りたいと思っている場合がほとんどなので,まずはその気持ちを認めることが大事だ。

 また,実は伝える内容よりも伝え方の心配を家族がしていることが多い4)。冷たく希望がないように伝えられるのではないか,見放されるのではないかと家族が考えている場合がある。そのため未告知の真意を確認する際は,ミスコミュニケーションがないように家族をケアしたい。以下のような言葉を掛けるのが良いだろう。

・ご本人を守りたいという温かい気持ちはとてもよく伝わってきます。

・病気のことを伝えた後も十分な治療やケアは続けます。見放さずに心のケアも併せて行いますので安心してください。

・ご家族もよく頑張ってこられたと思います。ご本人の代わりに真実を受け止めるのも並大抵のことではありません。

1)既に知っていることを明確にする

 まずは患者本人が主治医から病状をどう聞いているか,病気のことをどのように考えているかを確認しよう。それらの把握は,告知する/しないにかかわらず重要だ。

 また,本人が病状を知りたいような知りたくないようなアンビバレントな気持ちを抱いている場合も多い。よって,直接本人に知りたいかどうかを尋ねることもできるだろう。知りたくない時は無理に伝える必要はなく,知りたくなったら教えるようにすれば良い。

・今回の入院やがん治療について主治医からどう聞いていますか?

・自分の病状について全て知りたい方もいれば知りたくない方もいます。知りたくないから家族に任せるという方もいますが,〇〇さんはいかがでしょうか?

2)告知するメリットを伝える

 未告知を希望するケースでは,告知するメリットを知らないことがほとんどである。告知を行うことで在宅医療を選択できたり,未完成の仕事や家族との旅行など本人が本当はしたいことができたりするかもしれない。そのため,告知により選択肢が増える場合もある点を伝えるのが望ましい。

・私たちもショックを与えたいわけではありません。「もし残された時間が短いとわかったら,本当はこんなことをしたかったのに」とのケースを経験します。

・「こんなはずじゃなかった。もっと早く教えてくれたら」と後悔する人もいます。

・時々,ご本人から「なぜ何も教えてくれないのか? うそをついているのか?」と聞かれることもあります。

3)未告知は完遂が難しいことを共有する

 患者本人は,食欲が落ちること,痩せてきていることなど体力の低下を徐々に感じていることが多いので,隠し通せない場合もある。よって,未告知は完遂が難しいことを家族に対して率直に伝えるのが良い。

・ショックを与えたくない気持ちもわかる一方で,治療をしているのはご本人ですから,ご本人から教えてくれと言われて隠し通すことは,医療者としてはモヤモヤします。

・病院にはさまざまな医療者が出入りするので,絶対に言わないでほしいとかん口令を敷くことは難しいです。どれだけ気をつけても何かの拍子に漏れることはあります。

・真実を言われていないと見捨てられた気持ちになる方もいます。そうしたことはできれば避けたいと考えています。

4)未告知となったとしても見捨てない

 交渉した上でそれでも未告知を希望された場合,医療者はその議論からはいったん離れて良い。最悪の医療者に当たったと家族に思われて,人間関係の対立に発展するのを避けたいからだ。また,患者の状態が変化した時に気持ちが変わる人もいる。未告知だとしてもできる治療を行い,家族のケアを行っていくことは変わらない。

 看護師が「『伝えないでほしい』というのは何かきっかけがありましたか? 以前にもそうしたことがあったのでしょうか?」と家族に尋ねたところ,「以前がんの告知を本人がされた時が大変だった。伝え方も機械のように非常に冷たく,見放されたと感じた。またそうなるかと心配だった」とのこと。看護師は家族の気持ちに共感し,病状を話すことのメリットを伝えた。すると「確かに残された時間でやりたいことが本人から出てくる場合があるなら,伝えたほうが良いのかもしれない。本人の意思は尊重したい。本人が知りたいのであればぜひ伝えてほしいし,一人で聞かせるのはかわいそうだから一緒に聞きたい」と方針が変わった。家族が心配していることを主治医に伝え,病状説明を本人と家族に行うことになった。

・医療者が不満を表出させると,家族との関係性がこじれていきやすい。話し合いを行う上では自身の感情をいったん脇に置いておく。

・家族が未告知を希望するケースでは患者を守りたいと思っている場合がほとんど! まずはその気持ちを認めて真意を聞こう。

・①既に知っていることを明確にする,②告知するメリットを伝える,③未告知は完遂が難しいことを共有する,④未告知となったとしても見捨てない,の4点に配慮する。


1)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団.がん緩和に関するマニュアル.
2)日本医師会.医師の職業倫理指針第3版.2016.
3)Am Fam Physician. 2005[PMID:15712625]
4)J Palliat Med. 2013[PMID:23343112]

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