めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第12回] 意見の対立をどう乗り越えるか?④医療者の意見が対立する場合
連載 石上雄一郎
2024.04.09 医学界新聞:第3560号より
CASE
75歳男性。大動脈弁閉鎖不全症に対して予定手術として弁置換術が行われた。術前のADLは自立していたものの,術後の合併症により意識障害が出現・継続して10日目を迎えた。そこで集中治療医と看護師から,「病状が良くなる兆しが見えないため,心臓外科主治医と共に今後の治療の方向性について考え直したい」と家族に伝えた。手術を担当した心臓外科医からは「主治医として治療をやめるわけにはいかない。現状は家族も治療を希望しているし,続けるしかない」と言われ,看護師はモヤモヤしていた。
「治療をどこまで行えば良いか?」は医療者同士が非常に対立しやすい話し合いの1つだ。ICUにおけるコンフリクトの発生度合いを調べた研究(調査対象:24か国7498人のICUスタッフ)では,集中治療医―看護師間の対立は調査対象の33%,看護師間の対立は調査対象の27%にみられたことがわかっている1)。原因は不信感やコミュニケーションのギャップ,心理的サポートがないこと,医療者間のカンファレンスや意思決定プロセスに問題があったことなどだ。別の研究(調査対象:米国2100人の血管外科医,神経外科医,胸部外科医)では外科医の43%にICUの医師や看護師との間で意見の対立があったとされる2)。
お互いの立場や価値観,めざすゴールが異なるからか,医療者同士で意見が対立することをよく経験する。今回は,医療者間で意見の対立が生じた時にどうするかを考えていきたい(図)。

主治医を責めない
冒頭のCASEでは,「どうして治る見込みがなさそうなのに治療を続けるのか?」「患者がかわいそうだ」「家族が治療を希望するのは主治医がきちんと話をしてくれないからだ」と考えるかもしれない。しかし,第9回(本紙第3550号)でも解説したとおり,わずかな意見の食い違いが感情的な人間関係の対立に発展して意思決定がしづらくなった結果,患者の不利益につながる可能性がある。医療者同士の意見が食い違う際の解決策として倫理カンファレンスを開くことが挙げられるものの,ただ開いて主治医を呼ぶだけだと,本人が「つるし上げられるのでは?」と感じる場合もあるだろう。主治医に「治療を継続するのか?」と聞き続けることは,患者に「治療するか?」と迫る構図に似ている。人間関係の対立により,ケアがしにくくなることは避けなければならない。
主治医のつらさを聞き共感する
では具体的にどうするか。まずは相手を知ることに尽きる。治療を続けるという選択の裏には,過去にトラブルや奇跡を経験したのかもしれない。よって,意見が食い違う際は相手に方針採択の理由を聞いて,背景に存在する感情に共感しよう。一般的に医療者は感情を表出することが少ない。信頼関係があれば,相手がその考えに至ったきっかけを聞けるかもしれない。
これは,「主治医はつらい,看護師はつらいのを我慢すべき」というメッセージではない。理不尽な医師やハラスメントを行う医師は残念ながら存在するだろうし,それにより看護師が普段からつらさを感じることもあるだろう。権威勾配を用いたハラスメントが発生している場合にはただ我慢するのでなく,ハラスメント委員会など第三者と話し合う必要がある。
配慮するポイント
1)医療者の価値観が意思決定に反映されやすいことを認識する
本来,医療者には患者やその家族を中心とした医療を......
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。