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『筋疾患の骨格筋画像アトラス』より

久留聡,石山昭彦,中山貴博

2023.06.02

 神経筋疾患の診療においては,病歴聴取や神経診察と併せてCTやMRIなどの画像検査を行うことで,体内の神経や筋肉の状態を非侵襲的に観察し,診断や治療方針を確定させます.的確な診断のためには画像所見を正確に読む力が求められますが,脳神経内科領域では筋画像を多数掲載した成書はありませんでした.

 新刊『筋疾患の骨格筋画像アトラス』には,国立精神・神経医療研究センターのIBIC-NMDという筋画像データベースに登録されたものを中心に筋疾患症例のCT・MRI画像が多数掲載されています.また,筋画像の撮像法やCTとMRIの使い分けといった総論的な内容をはじめ,コモンな筋炎から稀少疾患まで診断や画像の見方,骨格筋量定量法に関する最新情報も解説しており,日本語で書かれた骨格筋画像のアトラスとしては唯一の書となっています.

 医学界新聞プラスでは本書の中から,診療に役立つ筋画像検査,皮膚筋炎,ジストロフィノパチー,肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の項目をピックアップし,その一部を4回に分けてご紹介します.


 

 LGMDは10〜20歳代以降の思春期〜成人期に男女のいずれにも発症する,DMD型や先天型などのほかの筋ジストロフィー以外の疾患で,肩甲帯,骨盤帯などの体幹・四肢近位優位の筋力低下を特徴とし,筋生検では壊死再生像を認める筋ジストロフィーの総称である.責任遺伝子が多数あり遺伝子異常に基づいた分類がされている.顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる病型はLGMD1,潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる病型がLGMD2であり,遺伝子座位が同定された順にアルファベットが付記される.

 近年では新たな分類も提唱されており[column 1☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』19頁],常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の遺伝形式をとるものはLGMDD,常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の遺伝形式をとるものはLGMDRと呼ばれる(表5-1).ここでは基本的にこれまでの分類を用いて記載する1)が,新分類も併記する.

表5-1 肢帯型筋ジストロフィー病型分類

LGMD2B(新分類LGMDR2):ジスフェルリノパチー(dysferlinopathy)

 成人発症の常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)型筋ジストロフィーである.原因はジスフェルリン遺伝子変異であるが,同遺伝子の変異で三好型ミオパチー(Miyoshi myopathy)や前脛骨筋ミオパチーをきたす.日本で最も多いLGMDである2)

臨床症状

 四肢近位優位の筋萎縮・筋力低下が進行する.顔面筋は保たれ,嚥下障害や心筋障害はあまりみられない.日本人コホートの研究では,発症年齢は平均26歳(14〜58歳)であり,下肢筋力低下が初発症状であることが多い2).車椅子依存となるのは平均38歳(25〜54歳)とされる3)

診断・検査

 血清CKは著明高値(正常値の10〜100倍)を示す.筋病理では,ジスフェルリン抗体の免疫染色で染色性の低下が認められる.ただし,ほかの筋ジストロフィーにおいてもジスフェルリン抗体の免疫染色で染色性が二次性に低下することが報告されているため注意が必要である4, 5)

臨床的マネジメント

 主にリハビリテーションと全身管理を行う.ジスフェルリン遺伝子(DYSF)がコードするジスフェルリン蛋白質(DYSF)は筋損傷時の修復に関与するとされており6),過剰な運動負荷は筋障害の進行を早めることが危惧されるが7),適正な負荷の程度についてのコンセンサスは得られていない.注意深く経過を観察しながら,日常生活指導やリハビリテーション指導を行っていくべきである.進行期には呼吸不全をきたすこともありNIVの適応となる.

遺伝カウンセリング

 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる.同一家系内においてもLGMD2Bと三好型ミオパチーの両方の病型がみられる場合がある.c.2997G>T(p.Typ999Cys)ではほかの病的バリアントの群に比べ高齢発症である2).ミスセンスバリアント例が短縮型バリアント例に比べて必ずしも軽症とは限らない.

確定診断

 DYSFの遺伝子解析により確定診断を行う.

鑑別診断

 ほかの病型のLGMD,BMD,筋炎との鑑別が必要である.成人発症であり,CKが著明に上昇,比較的速い進行,心筋障害がみられないことが鑑別点となる.

筋画像所見

 四肢近位筋優位の筋障害が左右対称性に認められる.大腿,下腿ともに後面筋優位の障害をきたす8-14).大腿では大内転筋が最も早く,次いで半膜様筋,半腱様筋が障害される.伸筋群では外側広筋の障害が比較的早く,大腿直筋は比較的保たれる.縫工筋,薄筋は最後まで保たれやすい.下腿では腓腹筋内側頭,ヒラメ筋が早期から障害され,後脛骨筋は最後まで保たれやすい.半膜様筋,腓腹筋内側頭,ヒラメ筋は障害の進行が速く完全に脂肪置換するまでの期間が短い8).傍脊柱筋は早期から障害される.腰帯筋群では大殿筋は保たれやすい.上肢筋群は下肢・腰帯・体幹より遅れて障害され,上腕は二頭筋が三頭筋よりも優位に,前腕では前面筋優位に障害される(図5-195-22). 

Fig5-19.JPG
図5-19 LGMD2B(新分類LGMDR2)のCT画像①
23歳,男性.発症3年.c.2997G>T/c.5668-7G>A.
大腿では前面筋に比して後面筋が萎縮傾向で,特に半膜様筋(SM)の脂肪化がみられる.下腿は腓腹筋内側頭(GM),腓腹筋外側頭(GL)の脂肪変性を左優位に認める.
Fig5-20.JPG
図5-20 LGMD2B(新分類LGMDR2)のCT画像②
49歳,女性,発症9年.c.2997G>T homo.
大腿の伸側では外側広筋(VL),内側広筋(VM),中間広筋(VI),屈側では半膜様筋(SM),大腿二頭筋長頭(BL)の変性が強く,残存筋の代償性肥大がみられる.下腿ではヒラメ筋(S)の脂肪化が目立つ.

 筋浮腫が脂肪置換に先行しSTIR画像で高信号を呈する(図5-23には脂肪抑制T2強調画像を示す).時に炎症性筋疾患との鑑別が問題となり15),筋病理によるDYSF欠損や遺伝子解析による確定診断が必須である.

 LGMD2L(LGMDR12)が類似の障害パターンを呈するが,2Bよりも左右差があり,小殿筋,中殿筋が障害されやすいとされる(図5-24).BMDでは中殿筋,大殿筋が早期から障害され,長内転筋は末期まで保たれやすい.LGMD2AではLGMD2Bよりも殿筋群が強く障害され,大腿の広筋群は後面筋群より障害が軽い傾向がある.

図5-23 LGMD2B(新分類LGMDR2)の筋浮腫所見(MRI)

20歳,男性.この時点では高CK血症のみ.後に筋力低下が進行した.T1強調画像では異常所見はみられないが,脂肪抑制T2強調画像では広範な高信号がみられ筋浮腫を反映していると考えられた.

図5-24 LGMD2L(新分類LGMDR12)のMRI

47歳,女性.傍脊柱筋(最長筋,腰肋筋)および大腿後面筋〔大内転筋(AM),半膜様筋(SM),半腱様筋(ST),大腿二頭筋長頭(BL)〕が優位に障害されている.大殿筋(GLM)の萎縮は軽度,下腿では左優位にヒラメ筋(S)の脂肪化が認められる.

  • 文献
  • 1)Straub V, Murphy A, Udd B:229th ENMC international workshop:Limb girdle muscular dystrophies - Nomenclature and reformed classification Naarden, the Netherlands, 17-19 March 2017. Neuromuscul Disord 28:702-710, 2018
  • 2)Takahashi T, Aoki M, Suzuki N, et al:Clinical features and a mutation with late onset of limb girdle muscular dystrophy 2B. J Neurol Neurosurg Psychiatry 84:433-440, 2013
  • 3)Fanin M, Angelini C:Progress and challenges in diagnosis of dysferlinopathy. Muscle Nerve 54:821-835, 2016
  • 4)Tagawa K, Ogawa M, Kawabe K, et al:Protein and gene analyses of dysferlinopathy in a large group of Japanese muscular dystrophy patients. J Neurol Sci 211:23-28, 2003
  • 5)Piccolo F, Moore SA, Ford GC, et al:Intracellular accumulation and reduced sarcolemmal expression of dysferlin in limb--girdle muscular dystrophies. Ann Neurol 48:902-912, 2000
  • 6)Bansal D, Miyake K, Vogel SS, et al:Defective membrane repair in dysferlin-deficient muscular dystrophy. Nature 423:168-172, 2003
  • 7)Angelini C, Peterle E, Gaiani A, et al:Dysferlinopathy course and sportive activity:clues for possible treatment. Acta Myol 30:127-132, 2011
  • 8)Diaz-Manera J, Fernandez-Torron R, Llauger J, et al:Muscle MRI in patients with dysferlinopathy:pattern recognition and implications for clinical trials. J Neurol Neurosurg Psychiatry 89:1071-1081, 2018
  • 9)Díaz J, Woudt L, Suazo L, et al:Broadening the imaging phenotype of dysferlinopathy at different disease stages. Muscle Nerve 54:203-210, 2016
  • 10)Paradas C, Llauger J, Diaz-Manera J, et al:Redefining dysferlinopathy phenotypes based on clinical findings and muscle imaging studies. Neurology 75:316-323, 2010
  • 11)Kesper K, Kornblum C, Reimann J, et al:Pattern of skeletal muscle involvement in primary dysferlinopathies:a whole-body 3.0-T magnetic resonance imaging study. Acta Neurol Scand 120:111-118, 2009
  • 12)Straub V, Carlier PG, Mercuri E:TREAT-NMD workshop:pattern recognition in genetic muscle diseases using muscle MRI:25-26 February 2011, Rome, Italy. Neuromuscul Disord 22(Suppl 2):S42-S53, 2012
  • 13)Gómez-Andrés D, Díaz J, Munell F, et al:Disease duration and disability in dysferlinopathy can be described by muscle imaging using heatmaps and random forests. Muscle Nerve 59:436-444, 2019
  • 14)Wattjes MP, Kley RA, Fischer D:Neuromuscular imaging in inherited muscle diseases. Eur Radiol 20:2447-2460, 2010
  • 15)Nguyen K, Bassez G, Krahn M, et al:Phenotypic study in 40 patients with dysferlin gene mutations:high frequency of atypical phenotypes. Arch Neurol 64:1176-1182, 2007
     

※書籍では以降に下記のLGMDも詳説しています。

LGMD2A(新分類LGMDR1):カルパイノパチー
LGMD2C~2F(新分類LGMDR3~6):サルコグリカノパチー
LGMD1C:カベオリノパチー
LGMD1B:ラミノパチー
LGMD1D(新分類:LGMDD1)
LGMD2L(新分類LGMDR12):アノクタミノパチー
LGMD1A
LGMD2I(新分類LGMDR9)
LGMD2M(新分類LGMDR13)
Bethlemミオパチー(新分類LGMDR22)


 

 

どう撮る、どう読む、どう生かす? 筋疾患のCT・MRI

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