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『筋疾患の骨格筋画像アトラス』より

中山貴博

2023.05.26

 神経筋疾患の診療においては,病歴聴取や神経診察と併せてCTやMRIなどの画像検査を行うことで,体内の神経や筋肉の状態を非侵襲的に観察し,診断や治療方針を確定させます.的確な診断のためには画像所見を正確に読む力が求められますが,脳神経内科領域では筋画像を多数掲載した成書はありませんでした.

 新刊『筋疾患の骨格筋画像アトラス』には,国立精神・神経医療研究センターのIBIC-NMDという筋画像データベースに登録されたものを中心に筋疾患症例のCT・MRI画像が多数掲載されています.また,筋画像の撮像法やCTとMRIの使い分けといった総論的な内容をはじめ,コモンな筋炎から稀少疾患まで診断や画像の見方,骨格筋量定量法に関する最新情報も解説しており,日本語で書かれた骨格筋画像のアトラスとしては唯一の書となっています.

 医学界新聞プラスでは本書の中から,診療に役立つ筋画像検査,皮膚筋炎,ジストロフィノパチー,肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の項目をピックアップし,その一部を4回に分けてご紹介します.

疾患の特徴

 ジストロフィノパチーは筋細胞の細胞膜の裏打ち蛋白質であるジストロフィンの異常による疾患であり,X染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の遺伝形式をとる.ジストロフィン遺伝子はXp21.2-p21.1にあり,79個のエクソンで14kbのcDNAをコードしている.遺伝子産物ジストロフィンはアミノ酸3,685個からなる427kDaの蛋白質で棒状の構造をしている.ジストロフィンは次の4つのドメインから構成されている.αアクチンのアクチン結合ドメインと相同性があるN端ドメイン,3重らせん構造を繰り返すロッドドメイン,β-ジストログリカン(β-DG)に結合する高システインドメイン,C端ドメインである.ジストロフィン,β-DG,α-ジストログリカン(α-DG),ラミニンおよびサルコグリカン(SG)は複合体を形成し,基底膜からアクチンフィラメントまでをつないで筋線維膜を安定・強化する役割を果たしている(図5-11)

図5-1 ジストロフィンと関連蛋白質の模式図


 

 男性では重症型のDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)と軽症型のBecker型筋ジストロフィー(BMD)に分けられる.女性保因者でも症状を呈することが少なくないことが明らかになっており,女性ジストロフィノパチーと呼ばれる.近位筋に筋症状が強く,心筋も障害されやすい.DMDはジストロフィノパチーの中でも頻度が高く,出生男児約3,500人につき1人の割合で発症する.

診断

 臨床症状と高クレアチンキナーゼ(CK)血症から遺伝子検査で診断される.ジストロフィノパチーを含む難治性神経・筋疾患患者登録レジストリーであるRemudy(http://www.remudy.jp/dystrophinopathy/)が2009年に開設されて以来,診断手順は大きく変化した.開設以前は,典型的神経症候と高CK血症から筋生検を行い,筋病理標本でジストロフィン欠損が疑われる場合は遺伝子検査を行っていた.開設以降,典型的神経症候と高CK血症を認める場合,保険適用のあるMLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法を用いたジストロフィン遺伝子検査を行う.MLPA法ではエクソン単位での欠失・重複のみを検出可能で,6〜7割程度の診断にとどまる.そのため,MLPA法でジストロフィン遺伝子異常を認めなかった場合,保険適用のジストロフィン遺伝子のシークエンス解析で微小バリアント検索を行う.それでも1%程度は診断がつかないため,筋生検を行い,病理学的にジストロフィンの有無を検索する.2020年に実施可能となったビルトラルセンを用いたエクソンスキッピング治療は,遺伝子検査の結果により適応が決まる.

症状

 DMDでは3〜4歳で転びやすい,走れないなどで発症することが多く,血液検査でAST/ALT高値から高CK血症が発見され診断されることもある.5歳頃から運動機能は徐々に低下し,腓腹筋肥大がみられる.腰部帯の筋力低下のため,手を膝にあて,自分の身体をよじ登るようにして起立するようになる.これをGowers徴候(登攀性起立)という.徐々に脊柱側弯・前弯などの脊柱変形や関節拘縮がみられ,尖足歩行となり,10歳頃に歩行が困難になる.その後,呼吸機能や心臓機能の低下が出現する.関節拘縮などに対するリハビリテーションおよび全身管理(呼吸障害に対する呼吸リハビリテーションや人工呼吸療法,心不全に対する薬物治療)が重要となってくる2).精神発達遅滞,発達障害,自閉症,てんかんなどの中枢神経症状を呈することもあり,診療に注意を要する.

 BMDは発症・進行ともDMDに比較して遅い.15〜16歳以上でも歩行可能で,臨床症状の差が大きい.四肢筋力低下に比較して早期から心筋障害が前景に出る場合もあり,心機能のチェックが必要である.BMDもジストロフィン遺伝子の病的バリアントで発症するが,DMDではout-of-frame欠失であるのに対し,BMDではin-frame欠失であるため,ジストロフィン蛋白質は産生されるが,量的,質的に正常とは異なる.BMDでも遺伝子検索が診断に非常に重要である.

 女性ジストロフィノパチーでは,まったく無症候から高CK血症,心筋障害のみ,運動機能障害がみられる例まで症状はさまざまである.片方のアレルにのみジストロフィン病的バリアントを有する.DMD患者の母や女性同胞についても,適切な診断・治療が必要である.遺伝歴が不明の場合もあり,家族歴からのみでの診断は困難である.高CK血症を呈する女性を診察した場合に,女性ジストロフィノパチーも鑑別に挙げるべきである.

 DMDでは,罹患部位が上肢・下肢ともに近位筋を主体としているだけでなく,特に典型的な筋障害パターンがみられ,川井ら3)は筋選択性(selective pattern)と名付けた.大腿では内側・外側・中間広筋,大内転筋,大腿二頭筋の障害が,大腿直筋,縫工筋,薄筋に比較して強くみられ,左右差は少ない(図5-25-4).この障害は経年的に進行し,進行期には大腿・下腿のほとんどの筋が脂肪置換する4).同様の所見が肢帯型筋ジストロフィー(limb-girdle muscular dystrophy:LGMD)2C〜Fでもみられ,生活動作で障害されやすい部位であることが推測される.BMDでは,DMDと同様の筋障害を認めるが,左右差がみられることがある(図5-55-7).女性ジストロフィノパチーでは左右差が多く,特徴の1つである(図5-8 ).

図5-8 女性ジストロフィノパチー(46歳)の筋CT画像

肩甲周囲筋,上腕筋群,腸腰筋(IL),腰部傍脊柱筋(PVM),大殿筋(GLM),中殿筋(GMM),中間広筋(VI),内側広筋(VM),大内転筋(AM),大腿二頭筋(BF),腓腹筋内側頭(GM),腓腹筋外側頭(GL),ヒラメ筋(S)が障害され,やや右優位である.

  • 文献
  • 1)埜中征哉,西野一三:筋ジストロフィー.In:埜中征哉,西野一三:臨床のための筋病理 第5版.日本医事新報社,2021, pp58-109
  • 2)日本神経学会,日本小児神経学会,国立精神・神経医療研究センター(監修):デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014.南江堂,2014
  • 3)川井 充,国本雅也,本吉慶史:Duchenne型筋ジストロフィー症の骨格筋CT所見とこれにもとづく病期分類.臨床神経25:578-590, 1985
  • 4)Godi C, Ambrosi A, Nicastro F, et al:Longitudinal MRI quantification of muscle degeneration in Duchenne muscular dystrophy. Ann Clin Transl Neurol 3:607-622, 2016


 

 

どう撮る、どう読む、どう生かす? 筋疾患のCT・MRI

<内容紹介>筋疾患を診ることに苦手意識をもつ医師は多い。そんな筋疾患診療の頼もしい味方となるのが骨格筋CT・MRI検査である。本書はその骨格筋CT・MRI画像を豊富に収載した、日常診療に役立つ待望の1冊。難病からコモンまで、主要な筋疾患の特徴的なCT、MRI画像を、各疾患の最新情報とともに解説する。どの筋肉がどこにあり、どのように画像に映るかを、健常像とイラストを用いてわかりやすく紹介し、初学者にもオススメ。

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