サイエンスイラストで「伝わる」科学
[第8回] “あざとい”戦略
連載 大内田美沙紀
2023.12.18 週刊医学界新聞(通常号):第3546号より
前回(本紙第3542号),前々回(本紙第3537号)はサイエンスイラストレーションの用途ゾーンにおいて「パッと見でわかるゾーン」についての需要や制作Tipsについて述べた(図1)。今回からは数回に分けて,おおまかでより強い印象を与えることに重きを置く「感性を刺激ゾーン」における戦略について紹介したい。

理性の前には必ず感性がある
人は何かを見たとき,どんなに理性的な人でも,まずは「かわいい」「きれい」「気持ち悪い」といった直感的な感性が働く。なんとなくわかる気がするが,この思考プロセスを意思決定論として提唱したのがノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンである1)。
カーネマンは直感的で自動的に働くシステムを「システム1(速い思考)」,その後に遅れてくる理性的で思索的かつエネルギーを要するシステムを「システム2(遅い思考)」として,これら2つのシステムの相互作用によって人間の日々の意思決定がなされるとした。例えば,ネコのイラストが前面に出た,ネコの解剖学について説明するポスターがあったとする(図2)。これを見た人は,まずはシステム1が瞬間的に働いて「あっ! かわいい!」と思い,その後遅れてシステム2が動いて「へぇ~,ネコの体ってそうなってるのね」と,ポスターの具体的な内容に注意が向くのだ。

ポイントは,システム2を動かすには,システム1への刺激が重要であるということである。もしネコのイラストがなく,特にデザイン性のないテキストのみのポスターだったとすると,ネコの解剖学に注意を向ける人はごくわずかとなるだろう。
カーネマンはシステム2のことを「ものぐさ」だと言った。システム2の作動にはエネルギーを要するため,システム1がうまく刺激されなければ,「理性を働かせて注意を向ける価値はない」と判断され,素通りされてしまう。見る人にとってもともと興味がなく,難しそうなテーマであれば,なおさらシステム2を働かせるのは難しい。そうした無関心層へのアプローチこそ,システム1を刺激する“しかけ”が必要なのだ。
“かわいい”の撒き餌
筆者が京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の広報室員だった頃,業務の......
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