めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第8回] 家族面談時の看護師の役割③
急性期病院での看護師の意思決定支援
連載 石上雄一郎
2023.12.11 週刊医学界新聞(看護号):第3545号より
CASE
80歳男性。元々,心不全の治療でかかりつけ医のいる医療機関に通院中。ADLは伝い歩きで認知症はなかったものの,1週間前に突然脳梗塞で倒れた。救急外来に運ばれ重症かつ広範囲の脳梗塞と診断され,血管内治療が行われた。患者には重度の失語と片麻痺が残っていた。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)はされたことがなく,胃管栄養を今後も行うかで家族面談を行う方針となった。看護師から見ると家族は病気のことをあまり理解している様子はなかったが,主治医は「受け入れに時間が必要だ」と言っていた。
予後の推定やオススメの治療方針の提案は主に医師が行う一方,家族への寄り添いなどはむしろ看護師が得意とする範囲だろう。コミュニケーショントレーニングを受けた看護師がICUの家族サポートに入ると6か月後の家族の抑うつが減ったり,不安が減ったりすることがわかっている1)。結果として入院期間やICU滞在期間,医療コストが減ることも示唆されている2)。
家族面談時において看護師が意識すべき対話として,面談前後における家族との対話・医師との対話がある(表)。確かに主治医が言うように,受け止めるには時間が必要なのだが,受け止めやすいような医療者のサポートも同じように必要だ。
今回は家族面談を通して看護師がどのように意思決定支援を行うかについて述べる。もちろん,家族が患者の荷物を持ってくるタイミングや普段の患者の様子を電話で話す機会などがあれば,その時に行っても良いものもあるのでぜひ参考にしてほしい。
家族面談の前後で看護師ができること
1)家族面談前の準備:面談前の準備として,家族の病状理解・ニーズ・家族の状態を事前に確認しておくことが重要である。病状説明の約30分前に来てもらい,家族から話を聞き情報を集めることを推奨する。
また,面談前に実際に患者に会ってもらうと良い。病状説明を受けた後に患者に会うと「意外と大丈夫に感じた」など,こちらの認識とずれが生じることがある。会った後に家族に「実際にお会いしてみてどう感じましたか?」と聞くほうが,病状の認識はずれにくい。家族には以下のような声掛けをしてみてほしい。
● 面談の時は緊張して,主治医に聞きたいことが聞けなかったケースもあります。今日これだけは聞いておきたいということはありますか?
● 主治医からは病気のことをどのように聞いていますか?
● 主治医から「どれくらい頑張れそうか?」といった話を聞かれたことはありますか?
● ご家族の体調はいかがですか? 眠れていますか?
● ご家族の中で何かご相談されましたか?
● 今回いらっしゃっていないご家族や遠方のご家族ともお話はされていますか?
他方,可能であれば面談前に主治医と事前に打ち合わせをすることが望ましい。事前に収集した情報を主治医と共有し,家族のニーズを先に伝えておけるからだ。
● 今日はどんな話になりそうですか?
● 予後はどれくらいになりそうですか?
● 意識が戻るかどうか,また今後の医療費をご家族は心配されていました。
2)家族面談中の配慮:面談中は家族の感情面へ配慮することが求められる。第6回(第3538号)で述べたNURSEなどを用いて適宜声掛けを行おう。家族が涙を流していたらティッシュを渡すことも重要な配慮である。主治医の説明中に看護師が話すことは難しいかもしれない。もし話すとしたら以下の言葉も良いだろう。
● ご家族が全てを決めなくてはいけないわけではありません。一緒に考えましょう。
● 今日結論を出す必要はありません。良くなってほしいとわれわれも願う一方で,病状が一段階悪くなっているので医療者としては万が一のことも考えておかないといけないということです。
3)家族面談後:主治医の説明が家族に伝わったか,認識のギャップがないか,面談中に聞けなかった話はないかを確認する。特に厳しい話がなされた後は,「見捨てられた」と感じられないようなサポートが必要である。また,第7回(第3543号)で紹介したように,家族に患者本人がどのような人だったかを聞くことも意思決定ではとても重要なので,聞いておきたい。そして,価値観を聞く時は3つの質問を利用して深堀りを忘れないでほしい。
● 先生の話はいかがでしたか? びっくりしましたよね。
● 先生に確認できなかったことはありませんでしたか?
● ご本人は入院前はどのような方でしたか? 私たちも今の状態のご本人しか知らないものですからお聞きしたくて。
● ご本人はどのような性格ですか? どんなことが好きで,どんなことが嫌いなのかを教えてもらえれば,ご本人にとって一番良い治療やケアを考えやすいです。
● ご家族で決めてほしいと言われても大変ですよね。一緒に考えることができたらと思います。ご家族が頑張ってほしいと願うのは当然のことだと思います。一方でご本人が今の話を聞いたとしたら,何とおっしゃると思いますか?
● 正確で医学的なことはお答えできませんが,入院中の暮らしぶりについては看護師からもお話しできます。
● ご家族も眠れなかったり体調を崩したりすることがあります。できる限りサポートしますので,何でも相談してくださいね。
CASEのその後
面談前に看護師が家族と会い,病気について主治医からどのように聞いているかを確認した上で,患者の予後に関する家族の理解や気がかりを確認した。予後に対する認識のギャップが大きいことがわかったため,主治医にそうした状況を伝えた。家族面談では,治る見込みがほぼないことや治療の中止も検討する状況であることが伝えられた。面談後に家族は涙を流しており,治療継続すべきかを思い悩んでいた。
看護師は感情に対応しながら家族の病気への理解度を確認すると,うまく伝わっていたようだった。患者本人がどのような人となりだったかを聞くと,以前から「チューブにつながれたまま生きることだけは嫌だ」と言っていたことがわかった。「家族としては生きてほしいが,本人は胃管栄養の継続を望まないだろう」との苦悩を家族は語った。
看護のPOINT
・家族の意思決定を支援するために,面談前後における家族との対話・医師との対話を意識しよう。
・面談時は家族に早めに来てもらい,現状の認識やニーズなどを確認して主治医と共有するのがオススメ。
・家族面談後には感情のサポートを行い,患者・家族の価値観を聞こう。
参考文献
1)Am J Respir Crit Care Med. 2016[PMID:26378963]
2)N Engl J Med. 2018[PMID:29791247]
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