めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する
[第7回] 家族面談時の看護師の役割② 患者の価値観と家族の思いを聞く
連載 石上雄一郎
2023.11.27 週刊医学界新聞(看護号):第3543号より
CASE
80歳男性。COPDで在宅酸素療法(2L/分)導入中であり,ADLが低下し日常的に車椅子を使用していた。COPDの急性増悪による入院を繰り返し,今回は直近一年で3回目の入院であった。以前の入院時は重症の呼吸不全でICUに入室し人工呼吸器を装着していたが,今回は一般病床で治療を開始していた。入院3日目になっても状態は改善せず,急変の可能性がある中で週末を迎えた。担当看護師は病棟師長から「この患者は急変リスクがあるから,DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)か主治医に確認してもらえる?」と言われた。
「この患者はDNARですか?」と医師に質問することがあるのではないだろうか。病状が悪くなった時に対応に困るので患者や家族に治療方針を早く決めてほしかったり,転院先の病院から患者の意向を確認してほしいと言われたりするケースをたびたび経験する。こうした状況だと,患者や家族の意思決定を必要以上に急がせてしまうかもしれない。
本連載第4回では家族面談時の3ステージを紹介し,治療方針を決める際には患者の価値観を把握した上で最も良いと考えられるプランを提案することを解説した。では,“患者の価値観を把握する”とは単に本人の希望を聞けば済む話なのか。今回は,治療方針決定の際にDNARかどうかといった本人の希望を聞き出すための関係性の構築法や,本音を引き出す質問の仕方を紹介する。
DNARは“何もしないこと”ではない
DNAR指示はあくまで心停止時に心肺蘇生をしない指示であり,通常の医療・看護・ケアに影響を与えるものではない1)。しかし,実際はDNAR指示があることで他の医療行為まで差し控えられる傾向にある2)。
また,臨床現場では「心臓マッサージは希望しないが電気ショックは希望する」といった部分的なDNAR指示もしばしば散見されるが,本来の定義とは異なることから行われるべきではない。これはレストランのメニューをウエイターが聞くように,医療行為を行うかどうかを医療者が患者側に確認しているからこそ生じる弊害かもしれない。理想的には,患者や家族が病気の予後を把握した上で彼らの価値観が十分に共有され,価値観に合った治療方針を医療者がソムリエのように提供し,その結果として急変時の対応が決まるのが良いだろう(第4回参照)。治療方針をどうするかを確認するだけではうまくいかないことが多いので,注意が必要だ。
他方,入院中に亡くなっても不思議ではない患者の場合では,急変時の対応について家族と話し合っておいたほうが良いと筆者は考える。特に終末期に近づいている患者の治療は,医学的なことだけでなく患者や家族の価値観が治療方針に大きくかかわるからである。
患者の価値観をどう聞くのか?
それでは患者や家族の価値観をどのように把握していけばよいか。当たり前だが,患者の人となりをイメージできるまで対話を重ねることが重要である。例えば,本人の楽しみや生きがい,気がかり,心配な点を尋ねることだ。本人が話せない状況であれば,「病気になる前はどんな方だったのですか?」と家族に聞くこともできる。患者を知ることで,家族と信頼関係が構築されて複雑な状況が理解されやすくなる。「そんな〇〇さんなら,この治療が良いのではないでしょうか?」とベターな治療法は自然と決まる。価値観をより詳しく確認するためには,チェックリストのように聞いてはいけない。
また,価値観をさらに探る上で重要な3つの質問を活用してほしい(図)。患者の言葉の真意を探ることが最も重要だからだ。例えば「延命治療を希望しない」との意思表示がされていたとしても,その真意がわからないと実際の治療にはつながらないケースがある。人によって延命治療のイメージが異なることがあるので,注意したい3)。
家族の思いと本人の価値観を分けて聞く
家族が患者の気持ちを全てわかっているかというと決してそうではなく,無意識のうちに患者ではなく家族の価値観や希望に合わせて治療方針が決定されていることもある。代理人による意思決定の根拠を調べた研究では,3分の1の家族が患者の思いと異なる選択をすると言われている4)。治療方針を決める際は「ご家族はどう思いますか?」と尋ねた上で,「一方でご本人(患者)ならどう思うでしょうか?」と分けて聞くことで,家族の希望を聞きつつ患者の価値観を尊重できるかもしれない。残された時間が短い時は,「ご家族が本人にしてあげたいことはありますか?」と尋ねることも重要だ。
患者の価値観や家族の思いに耳を傾けることに医学的な専門性は必要ない。単にDNARかを主治医に確認するのではなく,患者の価値観や家族の思いを聞き,主治医と共有することをぜひ行ってほしい。
CASEのその後
家族に本人がどのような人だったかを尋ねると,病気になる前は畑仕事が日課で,自分が作った野菜を近所の人に配るのを楽しみにしていたが,ここ最近は在宅酸素療法が必要となり畑仕事ができなくなった結果,気持ちが沈んで寝ている時間が増えているとのことだった。以前,ICUにいた時の経験を患者に聞くと,「人工呼吸器を着けることだけは勘弁してほしい」と言っていた。退院後,患者は「家で死なせてほしい」と家族に言うことがあり,家族はなんと声をかけたら良いかわからなかった。家族は「もちろん頑張ってほしいものの,本人にとってつらくないようにしてほしい」と看護師に話した。
担当看護師は家族の思いや希望をカルテに記載し,主治医と共有した。主治医から現在の状態について再度患者と家族へ話をして,苦しくない範囲の治療を行う方針となった。その結果,心停止時はDNARで,呼吸不全でも気管挿管まではしないこととなった。
看護のPOINT
・DNAR指示はあくまで心停止時に心肺蘇生をしない指示であり,何もしないことではない。
・患者の人となりをイメージできるようになるために,患者や家族との対話を重ねよう。
・家族の思いと患者の価値観は分けて聞き,3つの質問をうまく使おう。
参考文献
1)丸藤哲,他.DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方.日集中医誌.2017;24(2):210-5.
2)丸藤哲,他.日本集中治療医学会評議員施設および会員医師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査.日集中医誌.2017;24(2):227-43.
3)BMJ Support Palliat Care. 2023[PMID:37076260]
4)J Am Geriatr Soc. 2006[PMID:17087695]
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