医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2023.11.27 週刊医学界新聞(看護号):第3543号より

 効果のある薬剤が存在することは大変ありがたいですが,費用がかかる上,有害事象のない薬剤は存在しません。薬剤以外で排便トラブルが解消されるとよいですね。前回は,食事にまつわる排便トラブル対応をまとめました。今回は,いきみ(怒責),運動や体の冷え,心理的異常・性格の排便トラブルとの関連性について患者指導のポイントを整理しました。時間の空いた時に話題にしてみてください。

①身体が温まると排便は良好となる
②交感神経優位になると排便が良好となる
③不安のコントロールが便秘症状の改善に役立つ

 まずは基本的な排便姿勢に関する指導です。連載第1回で紹介しましたが,「考える人」のような前傾姿勢や洋式トイレ用足台によるスクワット様姿勢が重要です。その上で必要なのが怒責の回避です。怒責は血圧や頭蓋内圧の上昇を生じさせ,心疾患や脳血管疾患などがある場合は悪化させる恐れがあります。便秘により排便が困難になると,怒責を行う機会が増えます。また,硬便は痔核や裂肛の原因となるため,なるべく怒責をかけないよう,患者さんに指導してください。怒責が必要な場合は下剤の調整を医師に依頼しましょう。

 第3回で紹介したように,普段は便秘でない健常人でも長期臥床すると60%で便秘になることから,運動量と便秘は密接な関係にあると言えます1)。そしてここで重要なのが体の冷えの問題です。動物実験の結果であり,詳細な機構は明らかではないものの,腸管が冷えると,蠕動運動が低下するとともに異常な強い収縮が増えるとされています2)。すなわち,生理的な蠕動運動を維持するにはお腹を冷やさないことが大事なのです(○×クイズ①)。また,厚生労働省が公開しているNDBオープンデータ(都道府県別のレセプト情報と特定健診情報)に基づいて,私たちが疫学的な検討を行ったところ,汗をかく程度の30分以上の運動を行う頻度の高い集団は,刺激性下剤の使用率の低下と相関関係にありました(図13)

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図1 都道府県別の汗をかく程度の30分以上の運動率(%)と,刺激性下剤の年間処方数(/千人)の散布図(文献3をもとに作成)
都道府県別のレセプト情報と特定健診情報(NDBオープンデータ)に基づいて解析を行うと,汗をかく程度の30分以上の運動を行う頻度の高い集団は,刺激性下剤の使用率の低下と相関関係(r=-0.44)にあった。

 一方で,体力に衰えの見え始めた高齢者に運動してもらうのは容易ではありません。そもそも高齢者は緩下剤の内服率が高いとされ,地域在住高齢者の10.2%が日常的に緩下剤を内服しているとする報告や,老人ホーム居住者に限れば内服率が50%まで高まることが報告されています4, 5)。そこで,30分以上の汗をかくような運動ができない患者さんに対する運動レベルに応じた患者指導法を,以下に紹介します。

◆汗をかく運動なんてできない

 患者の好みに応じてストレッチ,ヨガ,バランスボールなどの簡単な体操を30分程度するように伝えてみましょう。私のお勧めはバランスボールです。純粋な便秘患者を対象としたランダム化比較試験ではありませんが,生活指導のみの群と生活指導にバランスボールを用いた骨盤底筋群訓練を追加した治療群に振り分け排尿機能不全児への効果を比較したところ,後者では尿失禁,残尿だけでなく便秘の重症度の改善につながることが示されています6)。私は,自宅にいるときはほぼバランスボールに座っていて,絶えず骨盤底筋群が筋肉痛気味です。その他にも,ヨガは排便困難や青年過敏性腸症候群の症状改善7, 8)に効果があったと報告されています。

◆全く運動できない

 軽い運動もできない場合は,第3回でも話題提供したような温罨法を取り入れることも一手です。また,腹部に「の」の字を書くように行うマッサージや腸のタッピング,ツボとして天枢(てんすう)や大巨(だいこ),便秘点,大腸兪(だいちょうゆ)を押してみてもよいでしょう。近年アロママッサージでの便秘改善効果も報告されています9)。一度検討をしてみてください。

 慢性便秘症患者の多くは,うつや不安などの心理的異常を示すスコアが健常者に比して高いとされています10)。慢性便秘によるQOLの低下は身体的項目よりも心理的項目に顕著に認められ,特に虐待の既往がある患者では,便秘の重症度および便秘によるQOL低下が著しいとされます。逆に言うと,心理面での対応が便秘のつらさの過半数を改善させる可能性もあり得るのです。

 特定の性格が便秘発症やその重症度と関連があるとは示されていませんが,心配性,神経質の方は便秘に対して不安な感情が起こり,便秘症状が重篤化しやすかったり,まじめ,努力家の方はある特定の事象に集中しすぎてしまい,自分が空腹であること,朝食を食べること,その後に発生する胃結腸反射や直腸反射に気付けなかったりするかもしれません。具体的に言えば,朝食を抜くことによって起こる低血糖を放置すると交感神経が活性化し,蠕動運動や生理的な反射が抑制されます(○×クイズ②)。また,出来事をストレスとして認識しストレスホルモンが分泌されてしまうと,蠕動異常を発生させてしまい,この場合も腹痛につながります(○×クイズ③)。さらに,これらの不安によるつらさを軽減しようとして使用される鎮痛薬,抗うつ薬(三環系),抗不安薬,睡眠薬は,薬剤性便秘を誘発します(第7回詳述予定)。必要時は仕方ないとしても,悪循環に陥らないように注意したいところです。

 解決策の1つは,ある内容だけに集中しすぎず,ネガティブな思考や感情が発生したら深呼吸をするなどして一旦立ち止まり,自分自身の思考,感覚,感情を客観的に意識し続けることです。「便は毎日出ないといけない」「便秘だと大腸癌になる」「大腸癌は常に遺伝する」「刺激性下剤は飲み続けないと出なくなる」などの便秘に対する誤解(自動思考)を解くことも必要でしょう。その上で,快便につながる行動,つまり,意図的に空腹を避けること,朝食を食べること,朝食を食べたら便器でスクワット姿勢を取ることを,患者さんにはアドバイスをしてあげてください(図211)

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図2 便秘症における脳腸相関の模式図(文献11と認知療法のモデルをもとに筆者作成)

1)PLoS One. 2013[PMID:23977327]
2)Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2014[PMID:24833706]
3)BMC Gastroenterol. 2020[PMID:32831027]
4)Am J Geriatr Pharmacother. 2003[PMID:15555462]
5)J Am Geriatr Soc. 1994[PMID:8064102]
6)Eur J Pediatr. 2014[PMID:24844352]
7)Int J Colorectal Dis. 1991[PMID:1744484]
8)J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014[PMID:25025601]
9)Exp Gerontol. 2023[PMID:36372282]
10)日本消化管学会(編).便通異常症診療ガイドライン2023――慢性便秘症.南江堂;2023.p39.
11)岡田宏基.MUS,FSS,身体表現性障害,そして心身症――概念の理解と整理についての私案および一般医へのトレーニングプログラム.心身医.2014;54(11):991-1000.

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