医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2023.10.23 週刊医学界新聞(看護号):第3538号より

 「お腹の調子が悪い」と訴える患者さんに,何か特別なものを食べていないか聞いてみると,「健康に良いと知人が言っていた××をよく食べている。でも食べるようになってからお腹の調子が悪い」と伺うことがしばしばあります。今回は,外来・病棟でふとした時に話題に上る食事と排便トラブルのポイントを整理しました。時間の空いた時に話題にしてみてください。

①快便には食事量が大事である
②排便誘発には朝食を食べることに価値がある
③リンゴを食べるとお腹の張りが取れやすい

 便量を意識した食事,朝食の摂取,十分な水分,腸管内で発酵する食べ物の適度な摂取,十分な水様性食物繊維と適度な不溶性食物繊維の摂取が,食事にまつわる基本的な指導のポイントです。それぞれのポイントについて解説していきます。

◆便量を意識した食事

 連載第1回でも確認しましたが,径の大きい大腸内を便塊が移動するには,ある程度のボリュームの便塊が存在しないといけません。ダイエットや高カロリー輸液中に便秘になるのはこのためです。つまり,どのような成分であれ,食事量が大事になります(○×クイズ①)。ダイエットに伴う腹部症状の改善を期待して,あるいは体重減少を期待して刺激性下剤を利用すると,見かけ上の体重は減るものの,依存,耐性,電解質異常を引き起こし,場合によっては難治性便秘となる恐れがあります(連載第7回詳述予定)。排便トラブルを生じさせず体重を減らすには,野菜や海藻類,きのこ類などを摂取してカロリーは抑えながらも,食事量と回数は維持し,有酸素運動を行って代謝を促進させるのが良いかと考えます。

◆朝食の摂取

 こちらも連載第1回の復習になりますが,胃に食べ物が入ると結腸が動く胃結腸反射が起こります。特に朝食時に反射が起こりやすい1)とされています(○×クイズ②)。この反射は,迷走神経優位の状態だと起こりやすいのですが,絶食時間が長く低血糖状態の場合は交感神経が優位になったり,高ストレス状態でストレスホルモンが分泌されたりすると,大腸蠕動,反射が抑制され,便塊の移動が遅れることで硬便にもなります。また,便塊の大腸滞在時間が長くなるため過発酵を起こし,腹痛,腹満が生じやすくなります。

 これらを防ぐには,慌ただしくとも朝食を食べ,低血糖・高ストレス状態を避ける,あるいはストレスが加わってもコントロールできることが求められます。こうした取り組みを通じて,迷走神経優位で生活していくことが生理的な排便には大事です。とにもかくにも,食後は便器に座る習慣をつけて,快便のタイミングを外さないようにしましょう。

◆十分な水分

 水分摂取量の多寡は便秘に影響しないとの報告2)もあることから大量に摂取する必要はありません。しかし水分は小腸と大腸で吸収されるため,快便には十分量の摂取が重要です。また,摂取する水の温度に関する報告もあります。ある論文では56.4℃のお湯400 mlの摂取は皮膚の血管拡張を起こし,10~30分をピークに皮膚温を上昇させることが報告されました3)。さらに,腹腔鏡下胆嚢摘出術後の最初の排ガスに白湯が与える影響を検討したランダム化比較試験では,37℃の白湯200 mlを飲んだところ,対照群約18時間に対し11時間と,有意な排ガスの時間の短縮が報告されています4)

◆腸管内で発酵する食べ物の適度な摂取

 小腸で分解・吸収されにくく,なおかつ大腸で腸内細菌にて発酵・分解され,水素ガスやメタンガスなどを発生する特徴を持つ短鎖炭水化物〔Fermentable(発酵性),Oligosaccharides(オリゴ糖),Disaccharides(二糖類),Monosaccharides(単糖類)and Polyols(糖アルコール)〕を多く含む食品が,それぞれの特徴を表す頭文字をとってFODMAP(表1)と呼ばれるようになりました。具体的には小麦,タマネギ,リンゴ,ヨーグルト,ナッツなどです(○×クイズ③)。適度な摂取であれば問題ありませんが,過剰摂取すると腹痛,腹部不快感がある方(特に過敏性腸症候群患者)では症状の増悪につながるとされています5)。患者さんにヒアリングし,FODMAPに該当する食品を過剰摂取しているようであれば,摂取量を減らすようお勧めすることも良いでしょう。

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表1 FODMAPの概要および該当する食品例

◆十分な水溶性食物繊維と適度な不溶性食物繊維の摂取

 水溶性食物繊維は,水に溶けてヌルヌルになるので,潤滑剤となって便塊の移動に役立ちます。一方の不溶性食物繊維は,水に溶けないことから便塊のボリュームの元となるため一定量以上の摂取が重要ですが,腸内細菌によって不溶性食物繊維が分解,発酵された際に生じる代謝産物やガスにより大腸が過剰に刺激されることから注意が必要です。表26)に示した通り,こんにゃくは水溶性食物繊維が多く含まれます。きくらげ,チアシード,大麦,ゴボウも比較的多いとされますが,不溶性食物繊維も多いため注意が必要です6)

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表2 水溶性・不溶性食物繊維量の一例(文献6をもとに筆者作成)

◆その他の食べ物

 乳酸菌を含む乳製品も便秘の改善に効果があるものの,オリゴ糖を含むためにFODMAPに該当します。脂肪や油は腸管内での便の通過の潤滑油となり,香辛料でも排便が促される人もいます。また,キウイ2個分で下剤と同等の効果があると近年報告されました7)

 「便秘だから食物繊維を食べよ」というのは乱暴な推奨になりつつあります。便秘型過敏性腸症候群と既に診断されているのであれば,FODMAPを避けるようにして水溶性食物繊維の摂取をお勧めし,不溶性食物繊維の適度な摂取を指導する必要があるでしょう。果物を勧める場合でも,りんご,なし,マンゴー,チェリー,すいか,もも,プラムはやや控えめにして,キウイはお勧めしてもよいかもしれません(利益相反はありません。キウイはお高いですね)。お勧めした後は定期的なフォローアップをよろしくお願いします。

 心不全患者さんにおいて飲水制限が推奨されているのは重症の方のみです。軽症の慢性心不全患者では推奨されておらず,大多数の心不全患者さんでは制限は不要と考えても良いようです8)。その他,低Na血症合併例,高度腎機能障害例においても飲水制限が設定されていますので,迷った場合は医師に相談をお願いします。


1)J Physiol. 1913[PMID:16993235]
2)日本消化管学会(編).便通異常症診療ガイドライン2023――慢性便秘症.南江堂;2023.
3)Psychopharmacology. 1997[PMID:9399380]
4)Gastroenterol Nurs. 2016[PMID:27684632]
5)Am J Gastroenterol.2018[PMID:30046155]
6)文科省.日本食品標準成分表2020年版(八訂).2020.
7)Nutrients. 2022[PMID:36235798]
8)日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).2023年9月閲覧

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