排便トラブルの“なぜ!?”がわかる
[第7回] 薬剤にまつわる排便トラブル対応
連載 三原弘
2023.12.11 週刊医学界新聞(看護号):第3545号より
薬剤にまつわる排便トラブルは,連載第6回で図示したように,排便トラブル以外の目的で使用される薬剤や,排便トラブルを改善させようとして使用された薬剤そのものが原因の場合もあります。今回は,そうした薬剤に関連した問題についてまとめていきます。
〇×クイズ
本文を読む前の理解度チェック!
①アセチルコリンの作用が強まると便秘になる
②刺激性下剤を長期に連用すると,大腸が長く,太くなり,大腸のひだが無くなりやすくなる
③薬剤の有害事象による新たな病状を薬剤で対処し続ける悪循環をポリファーマシーと呼ぶ
排便に影響を与える薬剤を教えてください
連載第1回の排便の生理で概観したように,水分を含めた便ボリューム,腸からの刺激伝達,腸管平滑筋の運動,副交感神経,胆汁酸の大腸流入に影響を与える薬剤が便秘の原因になりやすいです(表1,○×クイズ①)。この他,便秘を引き起こす頻度の高い薬剤として,鉄剤は直接粘膜を刺激し,蠕動運動を抑制,また吸着薬やイオン交換樹脂製剤は,生成物質が排出遅延を起こすとされます。さらにパーキンソン病治療薬やドパミン補充薬,ドパミン受容体刺激薬は,アセチルコリン活性を低下させ,便秘を悪化させます。また,腸内細菌の変化,コリン作動薬,セロトニン作動薬,腸管水分の増加あるいは吸収の阻害を来す薬剤では下痢が生じやすいです(表2)。


刺激性下剤を長期に使用するとどうなるのですか?
刺激性下剤の長期連用により腸管の神経や平滑筋に障害を来すことが1960年代に報告され1),90年代にはビサコジルやセンノシドなどの刺激性下剤を週3回,1年間使用した便秘患者の結腸が34.5%で長くなり,44.8%で拡張し,27.6%で結腸ひだ(便を送り出す弁の機能を果たす)が消失することが報告2)されました(図1)(○×クイズ②)。流体力学に基づけば,筒の中を流動物が移動する場合,断面積×流速×流体密度=一定です。つまり,断面積が大きくなると流速が低下し,流速が低下すると水分吸収が増加,流体密度も上昇するためさらに流速が落ちます(=便秘になる)。一方で,長期連用による大腸の変化は,刺激性下剤を中止すると4か月で回復すると報告されています3)。便意が無い,刺激性下剤の内服数・日数が多い(週2~3回以上,センノシドでは2~3錠以上),刺激性下剤内服後も反応が乏しい,を指標に,耐性・依存性の可能性が高い便秘患者さんを拾い上げ,主治医,薬剤師と共有をお願いします。

刺激性下剤の内服をしていない便秘患者(a)と比較し,長期内服する便秘患者(b)では,大腸が長く,拡張し,ひだが少ないとされる2)。
なお,OTC医薬品として刺激性下剤が数多く販売されており,自己判断で長期連用する患者さんも多いのが実情です。さらに,「下剤は内服していません」「漢方は毎日飲んでいる」という患者さんにも要注意です。前者は,医療者が刺激性下剤の連用に気付けない,後者は,漢方薬に含まれる刺激性下剤の一種である大黄を連用していることに気付けないという危険性を孕みます。これらに気付いたら,連載第4~6回の記載を参考に情報提供の上,便秘に関心の高い医師に紹介するのが良いでしょう。
複数の薬剤を服用しているのですが,問題ありませんか?
服用した薬による有害事象が新たな病状と誤認され,さらに新たな処方が生まれる悪循環を処方カスケードと呼びます4)(○×クイズ③)。処方カスケードへの対策は,患者を取り巻く全体像を描き5),原因と疑われる薬剤を中止することが原則です。中止できない場合は,作用機序の異なる排便トラブルの少ない薬剤への変更,減量あるいは下剤や止痢薬を併用し対応します4, 6)。具......
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