医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2023.08.28 週刊医学界新聞(看護号):第3530号より

 入院すると,運動量や食事量が減ったり,生活習慣が変化したりするため若い方でも便秘になります。また,抗菌薬,抗がん薬といった薬剤を原因とする下痢もよく起こります。今回は,病棟での排便トラブルに関するポイントを整理しました。日々の病棟業務の中で必要な排便トラブル対策を身につけてください。

①病棟で排便トラブルが発生した時は,常に病棟主治医に電話する
②屯用で開始された刺激性下剤が定期内服になることは適切である
③腎機能障害患者に対する下剤は,マグネシウム製剤が良い適応である

 普段は便秘でない健常人でも,長期臥床だけで60%が便秘になるとの報告1)もあるように,入院を契機に便秘を訴えることはよく経験します。そのため入院患者から便秘の訴えがあった際に下記のような異常時指示が準備されていることは,患者さんだけでなく,病棟主治医,病棟看護師にとっても望ましいでしょう(○×クイズ①)。

パターン1:センノシド 1錠 眠前
パターン2:ピコスルファートナトリウム 10滴 眠前
パターン3:新レシカルボン®坐剤 1個 挿肛
パターン4:グリセリン浣腸 60 mL 1個 挿肛

 しかし,異常時指示から始まった刺激性下剤が屯用処方となり,その後,定期処方に“出世”することをしばしば経験しませんか。当初は1錠だったものが2錠となり,3錠内服しても排便が誘発されないケースに出くわした方もいるはずです。

 刺激性下剤は腸管神経の障害作用や耐性化のため,「屯用または短期間の使用」が推奨されています(○×クイズ②)。下剤の定期内服が必要な場合は,薬剤師とも協働していただき,病棟主治医への声掛けをお願いしたいです。腸管神経が障害されていなければ,運動量や食事・生活習慣が元に戻ることで,入院中には必要であった下剤が退院後には不要になる場合もあります。

 では,そもそも各種便秘薬を医師はどのように使い分けているのでしょうか。1つの例としての選択アルゴリズム(2)を見ながら解説します()。

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 従来の便秘治療薬で効果が不十分な場合の使い分け例(文献2より一部改変して転載)

1)ナルデメジントシル酸塩(スインプロイク®:モルヒネをはじめとするオピオイドを開始する患者さんの約半数で便秘が発生するため,マグネシウム製剤などの浸透圧性下剤の予防投与で効果不十分な場合,モルヒネによる便秘作用を阻害するナルデメジントシル酸塩を併用します。非がん性慢性疼痛に対して使用される麻薬製剤にも利用可能です。

2)リナクロチド(リンゼス®:腹痛(や腹部不快感)のある便秘症(便秘型過敏性腸症候群)は,浸透圧性下剤や刺激性下剤は効果が乏しく,内臓痛を改善させるリナクロチドが選択されることがあります。内服後は約10%に下痢が生じるため,医師から2錠(0.5 mg)の内服指示があった場合は,下痢が出現しないか確認をお願いします。もしも発生した場合は,速やかに1錠(0.25 mg)に減量か,数日に1回1錠(0.25 mg)の内服にする場合が多いです。

3)ルビプロストン(アミティーザ®:小腸上皮に直接作用し水分・粘液分泌を促進します。BMI 25以上,高齢,男性で良い適応です。妊婦は禁忌で,肝機能障害,腎機能障害例は慎重投与となっています。12 μg製剤から少しずつ増やす方法が勧められています。麻薬製剤による便秘にも利用可能です。

4)漢方薬:虚弱体質の方に使用されやすいです。若い方は桂枝加芍薬湯,「冷え」のある高齢者は大建中湯が選択されることがあります。大黄甘草湯,潤腸湯,麻子仁丸もしばしば便秘薬として使用されますが,大黄を含んでおり,後述する刺激性下剤の一種と考える必要があります。

5)マクロゴール(ポリエチレングリコール,モビコール®:腹痛の無い便秘症ではマグネシウム製剤が第一選択となりますが,高齢,腎・心機能障害,高マグネシウム血症,透析中の患者では本剤が用いられやすいです(○×クイズ③)。ただし,約60 mLの水で溶解する必要性,また特徴的な塩味があります。準備する手間や味の面で患者さんが飲みにくそうにされていたら,普段飲まれているジュースなどで割っても問題ないようです3)。相対的に高価です。

6)酸化マグネシウム:若年,安価な薬剤希望,妊娠中の場合に良い適応となります。効果発現まで1~2日かかり,耐性化しません。しかし,腎機能正常者でも高マグネシウム血症を認めることがあり,マグネシウム製剤が投与されている患者の用量上限(腎機能正常者で1~2 g)や,血中マグネシウム値が評価されているかを注意深く観察してください。なお,内服薬が多い場合や飲み合わせに問題があれば,眠前1回投与も可能です。

7)胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバット(グーフィス®:高齢者は,大腸に流入する“自然の下剤”である胆汁酸の産生量が減少します。本剤は,胆汁酸の再吸収を阻害することで水分分泌,消化管運動促進,直腸の感受性を改善させることを目的に使用されます。内服初期に患者さんから腹部症状の相談があったら,「便秘が治る過程で腹痛が発生することもありますが,良い傾向ですのでつらくない限りは経過を見ていきましょう」とお伝えしてください。

8)糖類下剤結晶ラクツロースゼリー製剤(ラグノス®NF経口ゼリーLD/HD):大部分が消化・吸収されずに浸透圧性下剤として,内服から1~2日後に下剤効果が発揮されます。アンモニア値を下げる作用もあり,肝硬変患者における便秘症が良い適応となっています。結晶化製剤で,膨満感,腹痛,腹鳴の出現は珍しく,甘みが以前よりは抑えられています。成人には基本的にLD1回2包(24 g)を1日2回から投与し,1日最高LD6包(72 g)まで増量可能です。

9)刺激性下剤:センノシド(プルゼニド®)とピコスルファートナトリウム(ラキソベロン®)が有名です。連載第2回で扱ったピサコジル(テレミンソフト®坐薬),炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム配合剤(新レシカルボン®坐剤)も刺激性下剤です。繰り返しになりますが,漢方薬に含まれる大黄もセンノシドを多く含有しています。内服から効果発現まで6~8時間で,眠前に内服することが多いです。腹部不快感の改善には役立ちません4)。なお,市販の便秘薬の7割が刺激性下剤ですので注意しましょう5)

 患者さんからの要望に応えるに当たって押さえておくべき要点は,刺激性下剤の連用および第一選択であるマグネシウム製剤には注意が必要な点があることと,新規便秘薬や漢方薬にも得意不得意があり,処方する医師にとっても選択が難しいということです。日常業務中に病棟患者の便秘について主治医に電話しても適切な回答は得にくいため,臥床気味やモルヒネなど便秘を起こす薬剤を内服し始めた患者さんが入院している場合は,主治医,薬剤師と薬剤選択について事前に協議する場が持てると良いでしょう。その上で患者さんに対しては,「お通じの調整はとても大事で,患者さん一人ひとりの状態に合わせた最も適した下剤を医師,薬剤師と相談しますので,しばらくお時間くださいね」と答えてみてください。

 皆さんの施設では,メンタ湿布は使用されていますでしょうか。私の近場では最近見ていませんが,効果がないわけではないようです。市販の温熱シート(40℃)で排便回数と,身体的・心理的QOLが改善することが報告されており6, 7),低温やけどに注意しながら,お勧めしてもよいものと考えます。


:各種便秘薬の作用点を確認したい場合は,文献2で図示していますので,ぜひご参照ください。

1)PLoS One. 2013[PMID:23977327]
2)三原弘.よく使う日常治療薬の正しい使い方――便秘薬を研修医時代に正しく使えるようになろう!.レジデントノート.2022;24(7):1209-13.
3)持田製薬株式会社.モビコール®配合内用剤LD・モビコール®配合内用剤HDを服用される方へ.2022.
4)Am J Gastroenterol.2021[PMID:32969946]
5)三原弘.うんこのつまらない話.中外医学社;2020.
6)Jpn J Nurs Sci. 2016[PMID:26176649]
7)日本看護技術学会技術研究成果検討委員会温罨法班.便秘症状の緩和のための温罨法 Q&A Ver.4.0.2021.

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