看護のアジェンダ
[第225回] なぜ「させていただく」のか
連載 井部俊子
2023.09.25 週刊医学界新聞(看護号):第3534号より
看護管理者研修で伝える2つの禁句
私は,管理とはどのような言葉をどのように使うかが決め手であると考えている。
看護管理者の研修では,始めに「禁句」を2つ伝える。1つ目は「させていただく」であり,2つ目は「(うちの)子」である。「私は教育師長をさせていただいています」とか「研修に参加させていただきました」とか,「今年の4月から看護部長を拝命させていただいています」とか,耳をこらすと結構な頻度である。さらに,「今日,受講している子たちはよくやっている」とか,「私のところの子はおとなしい」とか,使う。すると私の琴線が反応する。「させていただく」は弱いリーダーをイメージし,「子」は同僚たちを庇護の対象としてみている,と私は解釈するのでイエローカードを出すのである。
看護管理者の研修のたびに「させていただく」が浮上し,モンモンとしていたところ,私の意図を察してくれたような,私を諭してくれるような書籍が刊行された(正確にいえば2022年12月23日に刊行されていた)。題して『「させていただく」大研究』(椎名美智・滝浦真人編,くろしお出版)である。表紙をめくるとこんな文字が飛び込んで来る。「なぜ皆,こんなにも『させていただいて』いるのか?」と。
授受動詞には「やる・あげる・さしあげる」「もらう・いただく」「くれる・くださる」という3系列7動詞があり,本動詞としてだけではなく,他の動詞の後ろにつく補助動詞として使われている。この補助動詞として使われている授受動詞「させていただく」に焦点を当てて,さまざまな分野の言語学者が各自の専門の視点から分析した論考を集めた論文集である。
この「させていただく」論文集は,コロナ禍をきっかけに生まれたものであると,あとがきに紹介される。それまで「ベネファクティブ(註)とポライトネス研究集会」を開いていたが,コロナ禍で研究集会が開催できなくなり,この論文集の発刊をもって発展的解散の形となったという。
批判されるべき日本語はなぜ生き残ったのか
では,「させていただく」に関連して,私の興味を引いた論考をみていきたい。
多くの日本語話者は,成人して社会生活を行うなかで,尊敬・謙譲・丁寧から成る敬語体系を身につける。ところが,現実の日本語の敬語体系は人々が思っているほど整ったものではなく,敬語で表現したいのに言葉が用意されていないという局面がしばしば出てく...
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