看護のアジェンダ
[第226回] 管理者研修での出会い
連載 井部俊子
2023.10.23 週刊医学界新聞(看護号):第3538号より
今年の夏(2023年),看護管理者の研修で私はキャリア論を担当した。講義とグループワークが一段落して,「発言がなければこれで」と授業を終えようとした時,意を決したように手を上げた人がいた。そして,「私は,ジャングルジムの記事をみて仕事を続けようと思いました」と言った。私はどきっとした。
上がるか下りるしかないキャリア「ラダー」
本連載第122回に,「キャリアははしご(ラダー)ではなくジャングルジム?!」と題して書いたのは2015年2月であった。シェリル・サンドバーグの『LEAN IN』(村井章子訳,日本経済新聞出版社,2013年)を引用して,私はこう締めくくった。
多彩な人材が多様なキャリアを歩む時代となっている。そうなると,「一本のはしご(ラダー)」(キャリア・ラダー)は適さないということになる。つまり,はしごには「広がりがない。上るか下りるか,とどまるか出て行くかどちらかしかない」のである。しかし「ジャングルジムにはもっと自由な回り道の余地がある」という。「これなら,就職,転職は言うまでもなく,外的な要因で行く手を阻まれたときも,しばらく仕事を離れてから復帰するときも,さまざまな道を探すことができる。ときに下がったり,迂回したり,行き詰まったりしながら自分なりの道を進んでいけるなら,最終目的地に到達する確率は高まるにちがいない」のである。しかも,「ジャングルジムなら,てっぺんにいる人だけでなく,大勢がすてきな眺望を手に入れられる。はしごだと,ほとんどの人は上の人のお尻しか見られないだろう」という(最後のフレーズは私のお気に入りである)。
さらに続けて私は,「昨今,看護界における転職ナースの働きにくさは,キャリア・ラダー神話に固執しているいる既得権者たちの価値観にあるのかもしれない」と考察している。
ジャングルジムを選んだ2人,それぞれの眺望
自分の考えを述べた短い記事が,読み手に影響を及ぼし,8年後にそのことを知るというストーリーに感激した私は,授業のあと研修参加者の2人に“取材”を申し込み快諾を得た。
*
研修の最後に質問したアンザワさんが,“ジャングルジム”の記事をみたのは仕事を辞めていた時であった。スーパーの広告をみていた。もう看護には戻れない,どうしたらよいかと悩んでいた。それまで三次救急の病棟で充実した日々を送っていた。それなのに仲間から離れ,結婚して子どもをつくりたいと思っていた時であった。そして,不妊治療をするために仕事を辞める決断をした。
退職は,一緒にはしごを上がってきた同年代の仲間から外れて,はしごから落ちてしまう感覚であっ...
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