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外科研修のトリセツ

連載 須田光太郎,畑中勇治

2025.06.30

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ハル先生お疲れさま! 最近,調子はどうですか?
お疲れさまです! 先生方のおかげで日々楽しく研修できています。いつもご指導いただきありがとうございます! 画像4.png
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それはよかったです! そろそろ外科研修も終わりですが,何か聞いておきたいことはないですか?
先日縫合がうまくできなかったので(何ならちょっと悔しかったですし……),練習してみようとは思うものの,いざしようと思っても,忙しかったり疲れたりでなかなか進まなくて。 画像4.png
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その向上心があるだけでも素晴らしいですね。私が力になりましょう!

外科での研修を通じて,このような悩みを抱えた先生方は多いことでしょう。手技の向上のために練習をしたいものの,何を準備したらいいか,何を練習したらいいかがわからないとの声をよく聞きます。また手技の練習を行う環境や,そもそもトレーニングを励行する習慣がない施設も少なくなく,技術を向上させたいと思ったときに手を差し伸べてくれる上級医が近くにいるとも限りません。何より慣れない環境や,日々の忙しさや疲れもあり,結局は練習をせずにただ時が過ぎてしまうことが非常に多いと思います。

しかし,「練習してみたい」「うまくなりたい」と思ったその時,その瞬間が大きなチャンスです。時には「悔しい」「見返したい」「今に見ていろ」といった,まるで暗黒面に落ちたような強い負の感情を抱くこともあるでしょう。その感情はもっと大きな力となり得ます。どんな気持ちがきっかけでもよいです。ただその気持ちを感じた瞬間に持針器や鉗子を手に取ってみてください。近い将来,きっと大きな変化をもたらしてくれると思います。

本記事では,畑中先生にもご協力いただき,手術の練習の中でもなかなか取り上げられることの少ない腹腔鏡手術に向けた練習について解説していきます。

トレーニングを開始するに当たっては,練習のための設備や鉗子,持針器を準備する必要があります。施設にドライボックスが整備されている場合にはそれを利用しましょう。しかし,施設にない場合は練習道具一式を揃えるところから始めなければならず,ここが練習を始める上での大きな障壁となっている方は多いのではないでしょうか。けれどもここで時間を要してしまうと練習を開始するまでたどりつけずに終わってしまうことから,全部を揃えるには費用は数万円かかってしまうものの,手術がうまくなるために,ここは何も考えずインターネットで持針器や鉗子,トレーニングパッドを即座に購入することを強くお勧めします。参考までに筆者の練習設備をご覧ください(写真1,2)。

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写真1 筆者の練習環境①
モニターは手術を想定して目線の高さに配置することがポイントです。また練習で手首や肩を痛めないよう,楽な姿勢で練習ができる位置に鉗子セットを配置することも大切です。
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写真2 筆者の練習環境②
作成には1日を要し,かかった費用は7万円ほどです。少し高いなと思った方もいるかもしれませんが,患者さんへ少しでも良い手術を提供できるなら練習環境にかける費用は厭わないことを推奨します。

針だけを用いた練習

針を手放すことなく同じ角度で持ち続けながら運針を行う練習です。針の弯曲に沿った運針と左手の把持力が重要です。弯曲に沿った運針ができなければ,針や組織に抵抗を生じて針を手放してしまいかねず,左手の把持の意識が弱いと,これまた針を落とす原因となります。針を繰り返し常に把持することで,細かい組織の把持や鉗子の先端で把持するトレーニングをしてみましょう。ただし,この練習の際には針をなくしやすいので,十分に注意してください……。

    手技動画:針だけを用いた練習

縫合結紮の練習

一般的な針付縫合糸を運針し,3回結紮して糸を切る練習です。

    手技動画:縫合結紮の練習

外科医の視点
この動画はそれなりの修練を積んだ外科医による手技です。まずはこの縫合結紮手技を針の把持から糸切まで2分以内を目標に取り組んでみましょう。ただし,初めからタイムを意識して取り組むより,まずは正確に針をつかむ練習,運針して糸を引き抜く練習,糸を適切に巻き付けて締めこむ練習など,パートごとに分割して練習を進めていくのがお勧めです。そうすればそれぞれのコツを体得し,2分以内で終えるという目標が達成できるはずです。練習を重ねるとさらにタイムの短縮が期待できます。手技の上達が数字で実感できるところもこの練習のいいところです。

ジグザグに縫合する練習

その名の通り,ジグザグに縫合を行うトレーニングです。この練習のポイントはジグザグに運針することではなく,鉗子のトルクを回転させて針の向き・角度を調整したり,針を甘噛みしたまま針糸を牽引したりすることで針の向き・角度を調整することにあります。特に左手で針を甘噛みすることが重要であり,針を把持することで最短距離での縫合や運針,ならびに短時間での針の持ち替えを可能にします。また,針の把持だけに限らず,左手での場の展開も要するため,運針だけでなく手術を行う上で重要となる左手の協調した動きの修練につながります。糸の長さは約5 cmで行うとよいでしょう。

    手技動画:ジグザグに縫合する練習

外科医の視点
初めて行う際は,どのような角度で針を把持すれば適切な運針ができるかわからないことが多いと思います。そんな時は,一方向だけからまずは始めてみてください。特に2時,8時方向がお勧めです。この際,スピードは意識せず,焦らず一定の速度での運針を心がけてみてください。気づいたら一周できるようになっているはずです。地道な練習ですが,筆者イチ押しの練習方法の一つです。ぜひ一度取り組んでみてください。

フェルトを星形に縫う練習

正方形に切ったフェルト上に,星形となるよう油性ペンで10か所マーキングします。点と点を結び,すくうように運針して星形を完成させます。

    手技動画:フェルトを星形に縫う練習

外科医の視点
針の運針の基本は「右→左」ですが,場合によってはさまざまな角度からの運針が求められます。逆針である「左→右」,頻度は低いですが「手前→奥」または「奥→手前」など,総合的な運針スキルの向上を目的とした練習です。星形が難しい場合は左右に2点並べ,「右→左」を中心にまずは練習するとよいでしょう。この時,マーキング部から刺入点/刺出点がずれないように意識してください。実臨床での縫合手技では正確な運針が求められます。うまく運針できたと思ったら裏面をチェックしてみましょう。糸で綺麗な星形が描けていたら合格です!

ストッキングを縫う練習

腹腔鏡下での鼠径ヘルニア手術で行う腹膜縫合を意識した練習となります。100円ショップで購入可能なA5縦長の写真立てにストッキングを被せます。ストッキングに約10 cmの線を引き,さらに5 mm間隔で区切った後,はさみで横一線に切り込みを入れて準備完了です。初めは写真立てを固定して行ってみてください。慣れてきたら固定せずに行いましょう。固定なしでも写真立てを動かさず縫合できれば,力みのない組織愛護的な運針につながります。

    手技動画:ストッキングを縫う練習

外科医の視点
この練習方法は実際の手術での状況をイメージした練習となります。そのため腹膜縁への針の刺入を意識したり,編み糸なら5~7針ごとに組織を寄せたりと,より本番を意識して練習してみてください。また,針先が腸管に向かないよう逆針で運針したり,糸が絡みにくいよう螺旋状に運針・縫合をしてみたりなど,練習でしかできないことにもチャレンジしてみましょう。いつかその場面に出くわしたときに実践できるようになります。たかが練習ですが,されど練習です。どんな練習でもぜひ自分だけのこだわりを持って行ってみてください。

鶴を折る練習

7.5 cm×7.5 cmの折り紙を,持針器や把持鉗子で折り上げて折り鶴を完成させます。

    手技動画:鶴を折る練習

外科医の視点
折り紙一枚で腹腔鏡手術に求められる総合的な手技(左右の鉗子の協調性,正確

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済生会宇都宮病院外科

2018年獨協医大卒。栃木県内の医療機関で外科修練中。 外科専門医,消化器外科専門医など。

岐阜大学医学部附属病院消化器外科

2014年岐阜大卒。岐阜県内の医療機関で修練後,24年より岐阜大病院消化器外科で主に食道癌診療と外科教育に従事する。 外科専門医,消化器外科専門医,内視鏡外科技術認定医,食道科認定医など。

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