医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2023.06.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3521号より

 出血コントロールと言えば,トラネキサム酸(TXA)の出番! 根本的止血術の重要性は言をまちませんが,補助的な薬剤としてTXAは優秀です。でも,どんな出血でもTXAに頼っていると患者さんに思わぬ不利益を与えるかも!? 使用法や適応といった側面から,テキトーに使われがちなTXAを深掘りしていきます! なお本稿では,血管性浮腫や肝斑などへのTXAの有効性には言及しません。

 TXAはプラスミノーゲンからプラスミンへの変換を阻害したり,プラスミンとフィブリンの結合を阻害したりして,線溶阻害作用を発揮します。正しく使えば有害事象はそれほど多く発生せず,忍容性が高い薬剤です。主な有害事象として,肺塞栓/深部静脈血栓症/脳静脈血栓症などの重篤な血栓症,中枢神経のグリシンやGABAとの拮抗による発作閾値の低下などが挙げられます1)。そのため,有効性が上回る場合にのみ使用しましょう。

 使用方法は,外傷や産後出血などの全身性出血に対しては静脈内投与が基本ですが,鼻出血にはガーゼに染み込ませるか鼻腔内噴霧をして圧迫止血をする,喀血には吸入するなど,バラエティーに富んだ方法が選択できます。

使い方一覧

・TXA 1gを10分間かけて点滴静注(速度はあまり気にしていません)
 →TXA 1gを8時間かけて持続静注
・鼻出血:TXA 500 mgをガーゼに染み込ませて使用
・喀血:TXA 500 mgを1日3回吸入

 ここからは,主要な研究と共に疾患ごとに有効性を確認します。リスクもあるため,何でもかんでもTXAは許容されません()。

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 トラネキサム酸(TXA)の有効性とエビデンス

くも膜下出血(SAH)

 最新のガイドラインでは,SAHに対してTXAを使わないことが強く推奨されました2)。CTで診断されたSAH患者955人を対象としたULTRA試験では,SAH発症から中央値3時間程度でTXAが投与されましたが,プラセボ群と比較して神経学的転帰や再出血率は改善しませんでした3)。外科的な介入に勝るものはなく,薬物治療は補助の補助に過ぎないので,有意な差が出ないのは当然なのでしょう。さらに,再出血の半数は3時間以内に発生するため,投与が遅すぎたのかもしれません。過去には,再出血率を低下させるものの遅発性脳虚血発生率を上昇させることが示唆された研究もあり4),SAHにTXAは使いづらいです。

脳出血

 脳出血発症から8時間以内に受診した2325人を対象にしたTICH-2試験では,90日神経学的転帰の改善を示せませんでした5)。ただし,2日目時点での血腫拡大率,7日以内の死亡率を低下させる効果が認められました。発症からの時間が短ければ結果は変わったのでしょうか。TICH-2試験以降の研究では一貫した結果が得られていません。

外傷(頭蓋外)

 受傷から3時間以内の大量出血やそのリスクがあるバイタルサインを呈する外傷患者2万人以上を対象にしたCRASH-2試験が有名です。TXA投与群で全死亡率が改善し,特にSBP<75 mmHgの場合にはその効果が高いという結果でした6)。TXA投与は早いほど効果が高い可能性があり,受傷から1時間以内での投与で死亡率が低下したという報告が出てきています7, 8)。大量出血が疑われる外傷患者にはなるはやTXA投与が推奨されます。

外傷性脳損傷(TBI)

 TBIに対するTXAの有効性を検討したCRASH-3試験では,TXA投与はGCS(Glasgow Coma Scale)3および両側瞳孔対光反射消失の患者を除いた感度分析において,28日以内の頭部外傷関連死亡率を低下させました9)。Secondary outcomeですが,GCS 9~15の軽症~中等症TBIや両側対光反射がある患者群にはそれぞれNNT(number needed to treat)=60弱の効果があるとされています。その後に行われた中等症~重症TBIについて検討した研究では,6か月後の良好な神経学的転帰を改善させることはできませんでした10)(有意差はないものの絶対差3.5%の差があり,それを臨床的に意義があると解釈できるかもしれません)。不明...

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