医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2023.05.15 週刊医学界新聞(レジデント号):第3517号より

 めまい診療後編は,EVS(episodic vestibular syndrome)についてです。前回(3513号)のフローチャートを確認してください。安静時や診察時にめまいの症状がないことが特徴となるカテゴリーです。本稿でも,よくある疾患 vs. 見逃してはいけない疾患をどのように鑑別して対応すれば良いかを考えていきましょう。

 t-EVSの特徴は,「ベースには全くめまいがなく,頭位変換によりめまいが出現する」ことです。安静にしていれば,患者さんは何ともないような表情をしていることがほとんどです。最も多い原因はもちろん良性発作性頭位めまい症(BPPV)! その診断と治療のポイントを押さえてから,見逃してはならない起立性低血圧や中枢性発作性頭位めまい症(CPPV)の見極め方を考えましょう。

 まずBPPVの特徴を押さえましょう。t-EVSと判断でき,「特定の頭位変換により,数秒の潜時をおいて症状が出現し,次第に増強した後1分以内に減弱ないし消失するめまい」であればBPPVの可能性が高くなります1)。さらに,寝返りやベッドから起きる動作で発症したという病歴があれば,陽性尤度比が60と非常に強い疑いが持てます2)

 BPPVが疑われれば,どの半規管に耳石が迷入しているかを判断して治療につなげる努力をします。耳石の迷入部位として,後半規管:60~90%程度,外側半規管:20%程度,前半規管:1%程度であるため,ER診療においては後半規管型(pc-)BPPVと外側半規管型(hc-)BPPVへの対応をできるようになれば合格です()。それぞれDix-Hallpike testhead roll testで鑑別を行います(具体的な方法はガイドライン1)などをご確認ください)。ガイドラインでは頻度の高いpc-BPPVの診断に必要なDix-Hallpike testをまず行うよう推奨がありますが1),筆者はhead roll testから行うことが多いです。救急搬入されたt-EVSを呈する患者に対して寝たまま顔を左右に向けるだけのhead roll testは簡便で行いやすいですし,hc-BPPVはDix-Hallpike法でめまい/眼振が誘発されてしまう可能性があることも理由の1つです。

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 良性発作性頭位めまい症(BPPV)の鑑別法と治療法
hc-BPPVでは,耳石が半規管内に迷入している半規管結石症,耳石がクプラに付着したクプラ結石症の2つを分けて考えます。前者では患側を向いた時に眼振が強くなる一方,後者では健側を向いた時に眼振が強くなります。また,hc-BPPVではhead roll testで左右を向かせた時に眼振の方向が交代しますが,これはいわゆる中枢性眼振を示唆する交代性眼振とは区別して考えます。

 BPPVと診断し耳石の迷入部位が推定できたら,耳石置換法を行います。練習すべき手技はこれまた2つだけ! Epley法Gufoni法です(こちらもガイドライン1)などで確認してください)。特に,Epley法は症状消失についてNNT(number needed to treat)=3と,とても有効性が高いことが知られており3),実臨床でもサクッと治せて非常にやりがいのある処置です。薬剤なしで治療ができて,患者さんにはびっくりされることが多いです。救急医はDix-Hallpike testやEpley法を行わないことが多いとされていますが4),やらずに寝かせておくのはもったいないですよ。

 注意点として,頸椎や腰部に異常がある患者にはリスクがあり,耳石置換法は行わないほうが良いとされています1)。筆者もそのような患者や関節リウマチ患者(→環軸椎亜脱臼のリスク)等には耳石置換法は行わず,自然治癒を望める疾患でもあることから経過観察を勧めています。症状が強い場合には抗ヒスタミン薬や制吐薬などの投与を行うこともありますが,文献上は症状の改善とは関連がないとされています5)

 t-EVSのカテゴリーに含まれますが,その中でも中枢神経障害が原因となるものを総称してCPPVと呼びます。後頭蓋窩(特に第4脳室付近)に問題があることが多く,悪性腫瘍や脳卒中,脱髄疾患などが原因となります6)。BPPVを疑ったものの,以下のような所見がある場合にはCPPVの可能性があると考えて軌道修正が必要になります6, 7)

●BPPVにはあり得ない所見がある
・頭痛や頸部痛,複視など
・脳神経障害
●頭位変換で眼振のみが出現し,めまいがない
●非典型的な眼振がある

・垂直方向性眼振,下向き眼振など
・潜時のない眼振,90秒以上持続する眼振,増強した後の減衰がない眼振
・検査ごとに眼振の方向が異なる
●耳石置換法への反応性が乏しい

 典型的には,臥位→立位など重力に抗した運動により生じるめまいが起きます。眼前暗黒感を伴うことが有名ですが,実はvertigo(回転性めまい)の訴えが多いことはあまり知られていません。やはりsymptom quality approachはうまくいきません(3513号参照)。起床時のめまいではBPPVを考えたくなりますが,特に高齢者では安易に考えないほうが賢明です。少なくとも寝返りでのめまい誘発は起立性低血圧では起こり得ないことはBPPVとの鑑別に有用です8)寝返りは大丈夫だけど,ベッドから頭を起こすとめまいがする場合には,起立性低血圧を考えるべきです。

 そして,リスク因子や随伴症状をとらえることが重要です。降圧薬や利尿薬,ChE阻害薬などの薬剤を内服している場合にはリスクが高まりますし,出血/嘔吐/下痢/多尿/多汗などの随伴症状や循環血液量減少の徴候を見逃さないようにしましょう。異所性妊娠破裂など強い疼痛を伴う循環血液量減少性ショックではしばしば経験することですが,循環血液量減少があっても必ずしも頻脈を呈するわけではないことには十分注意が必要です9)

 このカテゴリーは「triggerなしに発症する一過性のめまい発作」が特徴であり,多くの患者は受診時点では無症状です。定義上はベッドサイドでめまいを誘発することができないため,評価は病歴に大きく依存します。受診時点で症状が残存している場合には,AVS(acute vestibular syndrome)としての評価を行うことになります3513号を参照)。そして,「慢性的に繰り返す症状」が診断に必要である疾患が含まれることから,ERでは診断がつけにくいカテゴリーです〔前庭性片頭痛(s-EVSで最多),メニエール病,パニック発作など〕10)

 このカテゴリーで見張っておく疾患は,後方循環系TIA(一過性脳虚血発作)の一択です。後方循環系TIAの最大50%でs-EVSを呈すると報告されています11)。それにもかかわらず見逃しが非常に多いことが知られており,初診時に9割が見逃されていたという報告もあります12)。強い疑いを持って臨まないことには見逃してしまいます。多くの臨床場面で有用な身体所見からは鑑別が進まず,診断は病歴と疫学的考察からなされることが多いです。頭痛や頸部痛などの随伴症状がある場合には,椎骨脳底動脈解離によるTIA/脳卒中を強く疑ってマネジメントを行いましょう。若年者で多い脳卒中の原因疾患です。また,ABCD2 score≧3であるような場合には,TIAのリスクが高いと考えて慎重な対応をとることが妥当でしょう13)

 ニガテな人が多いめまい診療について,ピットフォールになり得る項目を2回にわたってまとめました。筆者も初めは手も足も出ず,途方に暮れていたものです。少しでも本稿がお役に立てれば幸いです。



1)日本めまい平衡医学会(編).良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン2023年版.金原出版;2023.
2)J Vestib Res. 2018[PMID:30149484]
3)Acad Emerg Med. 2020[PMID:32281203]
4)Emerg Med Australas. 2015[PMID:25651159]
5)Acad Emerg Med. 2022[PMID:36268806]
6)QJM. 2013[PMID:23404787]
7)J Emerg Med. 2018[PMID:29395695]
8)Clin Auton Res. 2011[PMID:21279415]
9)Am J Obstet Gynecol. 2003[PMID:14634556]
10)Neurol Clin. 2015[PMID:26231275]
11)J Eval Clin Pract. 2010[PMID:20367831]
12)Lancet Neurol. 2013[PMID:23206553]
13)Stroke. 2012[PMID:22442167]

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