医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2023.07.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3525号より

 今回は,ヒヤッとする症例から入りましょう。

 70歳,男性。吐血による出血性ショックのため輸血を行いながら内視鏡待機中。看護師から「けいれんしています!」との報告を受けた研修医が駆けつけ,開口一番ジアゼパム静注の指示を出した。そこに遅れて登場した上級医は,頸動脈を触知しないことから心停止と判断して胸骨圧迫を始めたのであった――。

 「けいれん」という用語はよく使われていますが,正確な使い方ができていない例が散見されます。けいれん(convulsion)は不随意に起こる筋肉の収縮を指し,いわゆる発作(seizure)とイコールではありません。Seizureとは,脳由来の異常な電気活動によるけいれんを指します。Convulsionには脳由来ではない不随意運動も含まれます()。脳由来の「けいれん」であればけいれん性発作(convulsive seizure),「けいれん」はしていないけれど脳由来の意識障害であれば非けいれん性発作(non-convulsive seizure)と表現されます。これらが持続する状態をてんかん重積状態と表現し,「けいれん」の有無でGCSE(generalized convulsive status epilepticus),NCSE(non-convulsive status epilepticus)と分類します。なお,てんかん(epilepsy)はseizureを反復する疾患を指します。

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 「けいれん」周辺の用語の整理
発作(seizure)が反復する疾患をてんかん(epilepsy)という。

 けいれんを目にした場合,まず頸動脈が触知できるかを必ず確認すること! 上記のように,実は失神もしくは心停止でした,という場面にしばしば遭遇します。一対一対応で「けいれんにはベンゾジアゼピン(BZD)」と考えていると,本当に患者の息の根を止めかねません。失神でも,速やかに水平位をとれない状況では脳血流量低下によりけいれんのような運動がみられることもあります(convulsive syncope)。救急隊や目撃者からの聴取の際には発症時の体位を入念に確認してください。目撃がない場合には身体所見(尿便失禁や舌側面の咬傷は発作を示唆),血液ガス(乳酸アシドーシスがあれば発作かも。ショックの場合にはあてにならない),血液検査のアンモニア値(発作の7割で上昇し,500分後に正常化)あたりは鑑別の一助になるかもしれません1)

◆発作と判断したら①――急性症候性発作の可能性を考えよ

 発作と判断したら,診療はスピーディーにこなしましょう。原因検索と治療を同時並行で行わなければならないため,非常に難易度が高いです。原因のある発作を急性症候性発作と呼び,初発発作の40%を占めます2)。治療介入が必要なため,積極的に検索しましょう。原因の詳細は成書に譲りますが,病歴(アルコールを含む薬剤使用,妊娠など),血液ガス(低Na血症,低血糖など),頭部CT(脳卒中や脳腫瘍など)あたりで検討をつけ,必要に応じて腰椎穿刺やMRIを追加するイメージで診療します。特に脳卒中は頻度が高い割に見逃しが多いので要注意です。

◆発作と判断したら②――発作を止めよ

 治療は「まず発作を止めること」が何より重要です。時間を無駄にしてはいけない理由は3つ。

①誘発因子が除去されたとしても,発作の自然停止が望めなくなる
②脳の自動調節能が破綻し,不可逆的な神経障害につながる
③時間経過とともに薬物治療への抵抗性が出現する

 どのような時間感覚を持って臨めば良いのでしょうか。2012年のNeurocritical Care Societyによるガイドラインでは,臨床的あるいは電気的な異常活動が少なくとも5分以上持続す......

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