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長期外用による皮膚の菲薄化を避ける

連載 大塚 篤司

2022.11.04

新薬の登場や病態解明の進展により,アトピー性皮膚炎治療は飛躍的に進歩し続けています。しかしその一方で,最新情報をキャッチアップできず,治療に苦慮している先生も多いのではないでしょうか。

「新薬剤への対応法」から「患者とのコミュニケーション方法」までをまとめた新刊『まるごとアトピー』では,現在のアトピー性皮膚炎診療に必要な知識が幅広くまとめられています。

「医学界新聞プラス」では,本書から「ステロイド外用剤の副作用と注意点」「かゆみのスコア,対策と指導」「ステロイド忌避の患者への指導」の項目をピックアップし,全3回にて最新情報をお届けします。

ここがポイント!

  • ☞ステロイド外用剤は長期外用により皮膚の菲薄化が起こる.酒さ様皮膚炎を防ぐため,顔面へのステロイド外用は2週間以内にとどめる.

  • ☞ステロイド外用剤を大量に使用すると全身性の副作用が出現する.

  • ☞外用剤の患部への接触時間を短くして,副作用を軽減しながら治療効果を発揮するショートコンタクトセラピー(短時間接触療法)が注目されている.

1 ステロイドとは

ステロイドは優れた抗炎症作用をもつ.当初関節リウマチの治療薬として利用され,発見,抽出,合成に関わったHench,Kendall,Reichsteinは1950年にノーベル医学生理学賞を受賞した.ステロイドホルモンは副腎皮質でつくられ,アルドステロン(鉱質コルチコイド),コルチゾール(糖質コルチコイド),アンドロゲン(男性ホルモン)が含まれる.治療薬として用いられる「ステロイド」あるいは「副腎皮質ステロイド」は,多くの場合は糖質コルチコイドを指す.筋肉増強剤で用いられるステロイドはアナボリックステロイドと呼ばれるもので,男性ホルモンであるテストステロンの働きをもち治療に用いられるステロイド(糖質コルチコイド)とは別物である.

ステロイドは脂溶性であり,甲状腺ホルモンと同じように細胞内(核内)受容体として存在する.一方,水溶性ホルモンやペプチドホルモン,カテコールアミンなどは細胞膜受容体である.非ステロイド性抗炎症薬であるNSAIDsは,プロスタグランジンを先生するシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害し抗炎症作用を発揮する(図Ⅱ-7).ステロイドはこの上流の遊離アラキドン酸を合成するホスホリパーゼA2(PLA2)の働きを阻害し抗炎症作用を有する.

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図II-7 ステロイドの抗炎症作用

2 内服ステロイドの副作用と注意点

治療に用いられるステロイド,つまり合成コルチコイドは,ヒドロコルチゾン,プレドニゾロン,メチルプレドニゾロン,トリアムシノロン,ベタメタゾン,デキサメタゾンの6種類に分類される(表Ⅱ-6).ヒドロコルチゾンの糖質コルチコイド作用(抗炎症作用)を1として,それぞれ4倍,5倍,5倍,25倍,25倍と増強する.鉱質コルチコイド作用は,ナトリウムの再吸収亢進とカリウムの排泄効果がある.つまり,高血圧や電解質異常として副作用が出現する場合がある.こういったことから,アトピー性皮膚炎の治療はステロイド外用剤でコントロールすることが望ましく,副作用の観点から内服ステロイドはなるべく使用を避けたい.やむをえず内服ステロイドを用いる場合は,内服直後に高血圧や高血糖などの副作用に注意する必要がある(表Ⅱ-7).また,数週間以上内服することは骨粗鬆症や白内障のリスクを考えると可能な限り避けたい.また,長期内服による副腎機能抑制や,急な内服中止による副腎クリーゼの発症は忘れてはならない.

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表II-6 合成ステロイドの特徴
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表II-7 内服や注射によるステロイドの副作用

3 ステロイド外用剤の副作用と注意点

ステロイド外用剤の副作用は,多毛,にきび,皮膚萎縮,白内障,緑内障が挙げられる.顔面などの表皮の薄い部位にステロイド外用を継続すると酒さ様皮膚炎のリスクが上がる.これは薬剤の吸収率が体の部位によって異なるからである.腕の内側の吸収を1とした場合,頰は13倍である(『まるごとアトピー』99頁参照).そのため,顔面にステロイドを外用する場合はなるべく弱め〔おもに下から2番目,ミディアム(Ⅳ群)のステロイド外用剤であるロコイド,キンダベート,アルメタなど〕を使用する.また,眼瞼周囲は白内障や緑内障の副作用を誘発する危険性があるため注意が必要である.

患者に間違って認識されているステロイドの副作用もある.ステロイドによる色素沈着が代表的なものである.ステロイド外用剤とアトピー性皮膚炎は,火事の現場と消防でたとえられることが多い.火事の現場には消防隊が駆けつけ消火活動を行う.鎮火に成功した後,火事の現場には焼け焦げた残骸が生じることになる.この火事の現場を見て,焦げた残骸があるのは消防隊のせいだという人はいない.ステロイド外用剤は皮膚炎を抑えるために働くのであり,皮膚の色が黒くなるのは皮膚炎そのものの影響である.ステロイド外用剤のせいではない.

ステロイドによる全身性の副作用は,一般的なステロイド外用剤の使用量で起こることはないとされている.一方,大量のステロイド外用剤を使うと内服と同じ副作用が起こるとの報告もある.0.05%クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏を1日10g単純塗布した場合の副腎皮質機能抑制は,ベタメタゾン錠を1日0.5mg内服した場合に相当する1).ステロイド外用剤により副腎機能抑制が起こりうる1日あたりの予測量は表Ⅱ-8に示したとおりである2).これより多いステロイド外用剤が長期治療に必要な場合,全身性の副作用が出ないか副腎機能をモニタリングしながらの投与が必要である.

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表II-8 ステロイド外用剤による副腎機能抑制が起こりうる1日あたりの予測量

近年,ステロイド外用剤の皮膚への接触時間を短くし副作用の軽減を目指すショートコンタクトセラピーが開発されている.クロベタゾールプロピオン酸エステル(コムクロ®)などのシャンプー様外用剤が使用可能である.

 

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文献
 1)島雄周平,他:外用ステロイド剤による全身的影響.Ther Res 8:222-231,1988
 2)阿曽三樹:ステロイド外用療法とその副作用―ステロイド外用剤を安全に使うために.PTM 8:6-7,1997

 

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