がん薬物療法のひきだし
腫瘍薬学の基本から応用まで
「まずはここから」。がん薬物療法の「疾患」「レジメン」「副作用対策」の入門教科書
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がん薬物療法に関する知識をわかりやすく解説し、臨床業務で生じる課題・疑問を解決するための“ひきだし”となる入門教科書。学生などの初学者から、専門・認定資格を目指す中堅・若手まで、がん薬物療法のステップアップを目指す人に最適! がん薬物療法の「疾患」「レジメン」「副作用対策」をバランスよく取り上げ、最新のガイドラインに準拠。免疫関連有害事象(irAE)についてもフォロー。
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- 目次
- 書評
序文
開く
序
がん薬物療法で用いる薬剤は,従来の殺細胞性抗がん薬やホルモン療法薬に加え,2000年代以降は分子標的治療薬,さらにがん治療に革命をもたらした免疫療法薬があり,その進歩は実に目覚ましいものがあります。各薬剤はそれぞれ薬物動態や作用機序に特徴があり,薬物相互作用や副作用の発現も多彩なため,がん薬物療法の管理はこれまで以上に高度化,複雑化しています。
現在の医療では,1人の医師だけでがん治療を安全にマネジメントすることは不可能です。他の分野の医師やその他の多くのメディカル・スタッフが協働するチーム医療が必須で,当然ながら薬剤師も多くの分野で深く関与することができます。薬剤師による副作用管理や患者マネジメントは,すでに医療の現場で定着しつつあり,薬剤師外来やプロトコルに基づく薬物治療管理(PBPM:Protocol Based Pharmacotherapy Management)や米国等における共同薬物治療(CDTM:Collaborative Drug Therapy Management)などの新規業務として実施されています。これらにおいて薬剤師は,医師への薬効評価および副作用モニタリングの伝達,モニタリング結果による新規薬剤の処方および同一処方の継続可否の提案,プロトコルによる処方オーダーなどを行っています。がん薬物療法において,薬剤師の副作用管理や支持療法の提案は医師とは視点が異なる部分があります。その特徴をうまく生かすことができれば,患者の生活の質やアドヒアランスを向上させ,結果として患者の治療効果および医療経済に好ましい影響を与える──といった報告もされています。またチーム医療の実施によって,医師の業務負担が減り,医師しか行えない治療計画などの業務に専念できる環境を作り出すことができます。さらに治療による副作用が軽微で症状が安定している患者を薬剤師がマネジメントすることで,医師の業務を高度な管理が必要な患者へ重点的に配分することもできるでしょう。
本書は,このように高度化するがん薬物療法を学ぶための知識の習得や各種認定試験を受験するためのテキストブックとして計画・準備しました。その内容は以下のように非常に多岐にわたります。
1段目 総論(がん治療の考え方,レジメン管理,投与管理・調製など7章)
2段目 抗がん薬各論(殺細胞性抗がん薬,分子標的治療薬,ホルモン療法薬,
免疫療法薬など5章)
3段目 がん薬物療法(乳がん,肺がん,胃がん,大腸がんなど13章)
4段目 がん薬物療法(骨髄抑制,感染症,口内炎,悪心・嘔吐など16章)
5段目 緩和ケア(疼痛緩和と鎮痛薬)
執筆と編集にあたっては,腫瘍薬学の基礎から応用までの知識をわかりやすく解説することを心がけました。臨床業務で生じるさまざまな課題や疑問を解決するためのがん薬物療法の「ひきだし」として,本書を1人でも多くの方に活用していただけたら幸いです。
2020年2月
清らかな香り漂う梅花の時節に
編者を代表して 松尾宏一
がん薬物療法で用いる薬剤は,従来の殺細胞性抗がん薬やホルモン療法薬に加え,2000年代以降は分子標的治療薬,さらにがん治療に革命をもたらした免疫療法薬があり,その進歩は実に目覚ましいものがあります。各薬剤はそれぞれ薬物動態や作用機序に特徴があり,薬物相互作用や副作用の発現も多彩なため,がん薬物療法の管理はこれまで以上に高度化,複雑化しています。
現在の医療では,1人の医師だけでがん治療を安全にマネジメントすることは不可能です。他の分野の医師やその他の多くのメディカル・スタッフが協働するチーム医療が必須で,当然ながら薬剤師も多くの分野で深く関与することができます。薬剤師による副作用管理や患者マネジメントは,すでに医療の現場で定着しつつあり,薬剤師外来やプロトコルに基づく薬物治療管理(PBPM:Protocol Based Pharmacotherapy Management)や米国等における共同薬物治療(CDTM:Collaborative Drug Therapy Management)などの新規業務として実施されています。これらにおいて薬剤師は,医師への薬効評価および副作用モニタリングの伝達,モニタリング結果による新規薬剤の処方および同一処方の継続可否の提案,プロトコルによる処方オーダーなどを行っています。がん薬物療法において,薬剤師の副作用管理や支持療法の提案は医師とは視点が異なる部分があります。その特徴をうまく生かすことができれば,患者の生活の質やアドヒアランスを向上させ,結果として患者の治療効果および医療経済に好ましい影響を与える──といった報告もされています。またチーム医療の実施によって,医師の業務負担が減り,医師しか行えない治療計画などの業務に専念できる環境を作り出すことができます。さらに治療による副作用が軽微で症状が安定している患者を薬剤師がマネジメントすることで,医師の業務を高度な管理が必要な患者へ重点的に配分することもできるでしょう。
本書は,このように高度化するがん薬物療法を学ぶための知識の習得や各種認定試験を受験するためのテキストブックとして計画・準備しました。その内容は以下のように非常に多岐にわたります。
1段目 総論(がん治療の考え方,レジメン管理,投与管理・調製など7章)
2段目 抗がん薬各論(殺細胞性抗がん薬,分子標的治療薬,ホルモン療法薬,
免疫療法薬など5章)
3段目 がん薬物療法(乳がん,肺がん,胃がん,大腸がんなど13章)
4段目 がん薬物療法(骨髄抑制,感染症,口内炎,悪心・嘔吐など16章)
5段目 緩和ケア(疼痛緩和と鎮痛薬)
執筆と編集にあたっては,腫瘍薬学の基礎から応用までの知識をわかりやすく解説することを心がけました。臨床業務で生じるさまざまな課題や疑問を解決するためのがん薬物療法の「ひきだし」として,本書を1人でも多くの方に活用していただけたら幸いです。
2020年2月
清らかな香り漂う梅花の時節に
編者を代表して 松尾宏一
目次
開く
1段目 総論
1 がん疫学と病因
1 疫学
2 病因
2 がんとは(がんの種類,がん細胞,病期,がんと免疫の関係)
1 がんの種類
2 がん細胞
3 病期(TNM分類)
4 がんと免疫の関係
3 がん診断と効果判定
1 診断のアプローチと考え方
2 画像診断
3 内視鏡診断
4 腫瘍マーカー
5 遺伝子・染色体診断
6 治療効果判定
4 がん治療の考え方(各種治療,集学的治療)
1 がん治療の考え方
2 集学的治療
3 外科手術
4 内視鏡手術
5 放射線療法
5 レジメン管理
1 レジメンとは
2 レジメン申請・審査・登録
3 レジメン評価と更新
6 投与管理・調製
1 抗がん薬のレジメンチェック(投与量・投与間隔など)
2 併用支持薬のチェック
3 抗がん薬の調剤
4 注射用抗がん薬の投与中の注意
7 曝露対策
1 HDとは
2 職業性曝露
3 曝露予防対策
4 抗がん薬調製
5 汚染時の対応
6 HDリストと危険性の分類
2段目 抗がん薬各論
8 殺細胞性抗がん薬
1 アルキル化薬
2 代謝拮抗薬
3 抗腫瘍性抗生物質
4 プラチナ製剤
5 微小管阻害薬
6 トポイソメラーゼ阻害薬
7 その他
9 分子標的治療薬(低分子薬+抗体薬)
1 低分子薬・遺伝子組換え融合蛋白質製剤
2 抗体薬
10 ホルモン療法薬
1 ホルモン産生阻害
2 ホルモンレセプター機能阻害薬
3 その他
11 免疫療法薬
1 免疫チェックポイント阻害薬
12 免疫調節薬(IMiDs)
3段目 がん薬物療法
13 がん薬物療法の総論
1 がん薬物療法とは
2 臓器障害等のハイリスク患者におけるがん薬物療法の考え方
3 耐性のメカニズム
14 乳がん
1 乳がんとは
2 治療法
3 副作用管理
15 肺がん
1 肺がんとは
2 小細胞肺がんの治療法
3 非小細胞肺がんの治療法
4 副作用管理
16 食道がん
1 食道がんとは
2 治療法
3 副作用管理
17 胃がん
1 胃がんとは
2 治療法
3 副作用管理
18 大腸がん
1 大腸がんとは
2 治療法
3 副作用管理
19 肝・胆・膵がん
1 肝臓がん
2 胆道がん
3 膵がん
20 婦人科がん
1 卵巣がん
2 子宮がん
21 泌尿器がん
1 腎細胞がん
2 膀胱がん
3 前立腺がん
22 頭頸部がん・甲状腺がん
1 頭頸部がん・甲状腺がんとは
2 治療法
3 副作用管理
23 悪性リンパ腫
1 悪性リンパ腫とは
2 治療法
3 副作用管理
24 慢性骨髄性白血病
1 慢性骨髄性白血病とは
2 治療法
3 副作用管理
25 多発性骨髄腫
1 多発性骨髄腫とは
2 治療法
3 副作用管理
4段目 副作用対策
26 がん薬物療法の副作用
1 抗がん薬で起こる副作用
2 副作用対策の重要性
3 副作用評価の方法
4 薬剤師による副作用マネジメント
5 副作用症状の患者教育
27 支持療法薬
1 支持療法とは
2 予防的支持療法薬と治療的支持療法マネジメント
28 貧血(赤血球減少症),血小板減少症
1 貧血(赤血球減少症)
2 血小板減少症
29 好中球減少症と感染症(発熱性好中球減少症)
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 FNの治療(支持療法)
30 消化器症状(口内炎,悪心・嘔吐,下痢,便秘)
1 口内炎
2 悪心・嘔吐
3 下痢
4 便秘
31 皮膚障害(血管外漏出,皮膚障害,脱毛)
1 血管外漏出
2 皮膚障害
3 脱毛
32 腎毒性
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 支持療法
33 心毒性
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 支持療法
34 肝障害
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 治療
35 神経障害
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬と神経障害の特徴
3 アセスメント
4 支持療法
36 味覚障害
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 支持療法
37 過敏症(infusion reaction 含む)
1 定義
2 原因となりうる抗がん薬
3 アセスメント
4 治療
38 腫瘍崩壊症候群
1 定義
2 病態
3 原因となりうる主な抗がん薬
4 アセスメント
5 支持療法
39 間質性肺炎
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 治療
40 高血圧
1 定義
2 原因となりうる主な分子標的治療薬
3 アセスメント
4 支持療法
41 免疫関連有害事象:irAE
1 定義
2 原因となりうる薬剤
3 アセスメント
4 支持療法
5段目 緩和ケア
42 疼痛緩和と鎮痛薬
1 緩和ケア
2 痛みの種類と評価
3 鎮痛薬の種類
4 がん疼痛治療の基本とコツ
5 オピオイド鎮痛薬の副作用
欧文略語一覧
索引
1 がん疫学と病因
1 疫学
2 病因
2 がんとは(がんの種類,がん細胞,病期,がんと免疫の関係)
1 がんの種類
2 がん細胞
3 病期(TNM分類)
4 がんと免疫の関係
3 がん診断と効果判定
1 診断のアプローチと考え方
2 画像診断
3 内視鏡診断
4 腫瘍マーカー
5 遺伝子・染色体診断
6 治療効果判定
4 がん治療の考え方(各種治療,集学的治療)
1 がん治療の考え方
2 集学的治療
3 外科手術
4 内視鏡手術
5 放射線療法
5 レジメン管理
1 レジメンとは
2 レジメン申請・審査・登録
3 レジメン評価と更新
6 投与管理・調製
1 抗がん薬のレジメンチェック(投与量・投与間隔など)
2 併用支持薬のチェック
3 抗がん薬の調剤
4 注射用抗がん薬の投与中の注意
7 曝露対策
1 HDとは
2 職業性曝露
3 曝露予防対策
4 抗がん薬調製
5 汚染時の対応
6 HDリストと危険性の分類
2段目 抗がん薬各論
8 殺細胞性抗がん薬
1 アルキル化薬
2 代謝拮抗薬
3 抗腫瘍性抗生物質
4 プラチナ製剤
5 微小管阻害薬
6 トポイソメラーゼ阻害薬
7 その他
9 分子標的治療薬(低分子薬+抗体薬)
1 低分子薬・遺伝子組換え融合蛋白質製剤
2 抗体薬
10 ホルモン療法薬
1 ホルモン産生阻害
2 ホルモンレセプター機能阻害薬
3 その他
11 免疫療法薬
1 免疫チェックポイント阻害薬
12 免疫調節薬(IMiDs)
3段目 がん薬物療法
13 がん薬物療法の総論
1 がん薬物療法とは
2 臓器障害等のハイリスク患者におけるがん薬物療法の考え方
3 耐性のメカニズム
14 乳がん
1 乳がんとは
2 治療法
3 副作用管理
15 肺がん
1 肺がんとは
2 小細胞肺がんの治療法
3 非小細胞肺がんの治療法
4 副作用管理
16 食道がん
1 食道がんとは
2 治療法
3 副作用管理
17 胃がん
1 胃がんとは
2 治療法
3 副作用管理
18 大腸がん
1 大腸がんとは
2 治療法
3 副作用管理
19 肝・胆・膵がん
1 肝臓がん
2 胆道がん
3 膵がん
20 婦人科がん
1 卵巣がん
2 子宮がん
21 泌尿器がん
1 腎細胞がん
2 膀胱がん
3 前立腺がん
22 頭頸部がん・甲状腺がん
1 頭頸部がん・甲状腺がんとは
2 治療法
3 副作用管理
23 悪性リンパ腫
1 悪性リンパ腫とは
2 治療法
3 副作用管理
24 慢性骨髄性白血病
1 慢性骨髄性白血病とは
2 治療法
3 副作用管理
25 多発性骨髄腫
1 多発性骨髄腫とは
2 治療法
3 副作用管理
4段目 副作用対策
26 がん薬物療法の副作用
1 抗がん薬で起こる副作用
2 副作用対策の重要性
3 副作用評価の方法
4 薬剤師による副作用マネジメント
5 副作用症状の患者教育
27 支持療法薬
1 支持療法とは
2 予防的支持療法薬と治療的支持療法マネジメント
28 貧血(赤血球減少症),血小板減少症
1 貧血(赤血球減少症)
2 血小板減少症
29 好中球減少症と感染症(発熱性好中球減少症)
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 FNの治療(支持療法)
30 消化器症状(口内炎,悪心・嘔吐,下痢,便秘)
1 口内炎
2 悪心・嘔吐
3 下痢
4 便秘
31 皮膚障害(血管外漏出,皮膚障害,脱毛)
1 血管外漏出
2 皮膚障害
3 脱毛
32 腎毒性
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 支持療法
33 心毒性
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 支持療法
34 肝障害
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 治療
35 神経障害
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬と神経障害の特徴
3 アセスメント
4 支持療法
36 味覚障害
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 支持療法
37 過敏症(infusion reaction 含む)
1 定義
2 原因となりうる抗がん薬
3 アセスメント
4 治療
38 腫瘍崩壊症候群
1 定義
2 病態
3 原因となりうる主な抗がん薬
4 アセスメント
5 支持療法
39 間質性肺炎
1 定義
2 原因となりうる主な抗がん薬
3 アセスメント
4 治療
40 高血圧
1 定義
2 原因となりうる主な分子標的治療薬
3 アセスメント
4 支持療法
41 免疫関連有害事象:irAE
1 定義
2 原因となりうる薬剤
3 アセスメント
4 支持療法
5段目 緩和ケア
42 疼痛緩和と鎮痛薬
1 緩和ケア
2 痛みの種類と評価
3 鎮痛薬の種類
4 がん疼痛治療の基本とコツ
5 オピオイド鎮痛薬の副作用
欧文略語一覧
索引
書評
開く
がんの専門・認定看護師,がんに興味を持つ医療関係者に推薦したい
書評者: 坂本 節子 (九州大病院・がん看護専門看護師)
がん治療薬は,年々高度化・複雑化しており,薬物療法に関する最新の知識を得ることが,看護師にとって難しい状況にある。また,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療薬や支持療法薬の目覚ましい発展により,がん医療は外来治療が中心となり,生活の質をできるだけ落とさずに,外来治療が継続できるよう,がん患者の多様なニーズへの対応が求められている。
本書は,がん薬物療法に精通した薬剤師の知識が集約されており,「がん種の特徴」「疫学と予後」「治療方法」「治療による副作用対策」について,まさに業務で生じる課題や疑問を解決するための,腫瘍薬学についての情報が幅広く収載されている。また,チームマネジメントのポイントや疼痛コントロールに必要な基礎知識・麻薬性鎮痛薬における留意点など,実践的な内容も含まれている。
がん患者をサポートする看護師にとって,薬剤師に質問し,回答が得られるように,必要な情報がいつでもこの一冊から引き出すことができるのは便利である。
本書の構成を概観すると,以下のようになる(タイトルの「ひきだし」になぞらえて,普通は「章」と呼ぶまとまりが本書では「段目」になっている)。
・ 1段目:総論として,がんの疫学からがん治療の考え方,レジメン管理,曝露対策などがまとめられている。
・ 2段目:抗がん薬について作用機序,主な適応がん種と治療レジメン,特徴的な副作用,薬物動態・薬物相互作用,ポイントが丁寧に書かれている。分子標的薬は,抗体薬ごとに表でまとめられており,適応,服用タイミングなどの特徴が一目でわかるようになっている。
・ 3段目:がん薬物療法について各種疾患の疫学,診断,病期分類,予後因子,治療法が書かれている。代表的な治療レジメンは表形式で記載されており,投与間隔や使用する薬剤が看護師にもわかりやすく書かれている。
・ 4段目:がん薬物療法の副作用ごとに,その特徴と対処法が書かれている。また,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害反応(irAE)について,基礎的知識からアセスメントのポイント,早期発見・早期対応のための患者教育について書かれていることは,出色の内容である。
・ 5段目:疼痛緩和と鎮痛薬について書かれており,オピオイド鎮痛薬の特徴が,薬学的に詳しく書かれており,メリット,デメリットがわかりやすい。
本書にはスキルアップの引き出しというコラムが各所にあり,一歩進んだがん患者サポートを志す医療者が知っておきたい情報も記載されている。基本から応用まで,指導的立場のスタッフが自身の知識を確認する際にも有用だろう。がん看護専門看護師,がん分野の認定看護師だけでなく,がんに興味を持っている全ての医療関係者に推薦したい一冊である。
がん薬物療法を適切に実施するために必要な情報をワンストップで
書評者: 奥田 真弘 (阪大病院教授・薬剤部長)
がん薬物療法は日進月歩であり,年々新薬が投入されるとともに新たなケアが導入されるなど,多様化している。2010年に発出された医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では,医師・薬剤師が事前に作成・合意したプロトコールに基づき,専門的知見の活用を通じて医師と協働して実施するチーム医療が推奨され,薬剤師ががん患者の薬学的管理にかかわる機会も格段に増加している。がんチーム医療における薬剤師の役割は年々拡大しており,薬剤師が備えるべきがん薬物療法の知識も増加している。がん薬物療法に関する最新情報を入手するには,質の高い情報源が欠かせないが,新薬に関する情報は特定の薬剤に偏りがちであり,また治療法や副作用管理に関する情報も断片的なことが多い。
本書は,がん薬物療法の適正実施に必要な幅広い情報をがん薬物療法の最前線で活躍する薬剤師が執筆したものであり,最新のエビデンスやガイドラインに基づいてまとめられ,主な対象は薬剤師,薬学生のほか看護師,医師などの医療スタッフとなっている。本書の構成は「1.総論」「2.抗がん薬各論」「3.がん薬物療法」「4.副作用対策」「5.緩和ケア」となっており,総論ではレジメン管理や投与管理・調製,曝露対策について触れられている。また,本文の約3分の1に相当する150ページががん薬物療法に伴う副作用対策に割り当てられており,近年注目されている免疫関連有害事象(irAE)を含む15種類の代表的な副作用が,定義,原因薬剤,アセスメント,治療または支持療法,の順に要領よくまとめられている。
本書の体裁は「ひきだし」を模している。1章,2章の代わりに「ひきだし1段目」「ひきだし2段目」が割り当てられているほか,各セクションの要点は「はじめのひきだし」として箇条書きにまとめられ,発展的な知識は「スキルアップのひきだし」として随所に挿入されるなど,読みやすさも工夫されている。箇条書きを主体として書かれているため,必要に応じて本文の途中から拾い読みすることも容易である。多忙な医療現場で活動する医療スタッフにとって,がん薬物療法を適切に実施するために必要な情報がワンストップで得られる機会は貴重と考えられる。がん薬物療法の現場に携わる医療スタッフに本書が活用されることで,がん薬物療法の適正な実施がさらに進むことが期待される。
チーム医療の中心となって活躍するための「ひきだし」
書評者: 高野 利実 (がん研有明病院乳腺内科部長)
病院薬剤師が主人公のドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系,2020年)が話題になっている。患者さんに寄り添い,薬剤師として悩みながら,知識と経験に基づいて行動していく主人公。これまで,いろんな病院で,優秀で熱心で魅力的な薬剤師に支えらえてきた私としては,○○さんや△△さんなどの姿を重ねながら,このドラマを楽しんでいる。現実離れした描写や,高圧的すぎる医師の姿には批判もあるようだが,薬剤師の想いや仕事ぶりはうまく伝わっているように思う。チーム医療に欠かせない存在としての薬剤師がこのようにクローズアップされるというのは,チーム医療に救われている腫瘍内科医としても,とても喜ばしいことである。医師の指示のもと,薬剤の管理だけを行うのではなく,患者さんのために,チーム医療の中心となって活躍することが,これからの薬剤師に求められる役割であり,それこそが,このドラマの重要なメッセージであろう。
がん薬物療法の分野では,進歩のスピードが加速しており,薬剤師が身につけておくべき知識も膨大なものになっている。今の時代は,知識を全て身につけているというよりは,知識のひきだし(エビデンスを検索する能力)こそが求められているともいえる。いずれにしても,これらの知識を背景に,患者さんや他の医療従事者と対話し,より適切ながん薬物療法をめざしていく必要がある。そんなときに手元にあると役立つのが,『がん薬物療法のひきだし―腫瘍薬学の基本から応用まで』である。
本書は,がん薬物療法に最前線で取り組む薬剤師が創り上げた教科書である。網羅的で重層的な,それでいて,わかりやすく,かゆいところに手が届くような内容になっている。「ひきだし」というタイトルも絶妙で,全体の構成から,各章(各ひきだし)の構成まで,いろいろな工夫がなされている。「はじめのひきだし」と「スキルアップのひきだし」も,知識の整理に役立つことだろう。
ひきだしは5段あり,「1段目 総論」「2段目 抗がん薬各論」「3段目 がん薬物療法」「4段目 副作用対策」「5段目 緩和ケア」となっている。本書を開く場面はいろいろであろうが,特定の薬剤について知りたいのであれば2段目をあけ,特定のがん種の薬物療法について知りたいのであれば3段目をあけ,特定の副作用について知りたいのであれば4段目をあけると,得たい情報に行きつける。網羅的に知識を整理したいのであれば,上から順番に通読するというのもありだろう。
「自分で自分の立ち位置決めちまったらそっから進めなくなるぞ?」というのは,「アンサング・シンデレラ」で先輩薬剤師から主人公にかけられる言葉だが,薬剤師も医師も,よりよき医療をめざして,切磋琢磨していきたいものである。
書評者: 坂本 節子 (九州大病院・がん看護専門看護師)
がん治療薬は,年々高度化・複雑化しており,薬物療法に関する最新の知識を得ることが,看護師にとって難しい状況にある。また,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療薬や支持療法薬の目覚ましい発展により,がん医療は外来治療が中心となり,生活の質をできるだけ落とさずに,外来治療が継続できるよう,がん患者の多様なニーズへの対応が求められている。
本書は,がん薬物療法に精通した薬剤師の知識が集約されており,「がん種の特徴」「疫学と予後」「治療方法」「治療による副作用対策」について,まさに業務で生じる課題や疑問を解決するための,腫瘍薬学についての情報が幅広く収載されている。また,チームマネジメントのポイントや疼痛コントロールに必要な基礎知識・麻薬性鎮痛薬における留意点など,実践的な内容も含まれている。
がん患者をサポートする看護師にとって,薬剤師に質問し,回答が得られるように,必要な情報がいつでもこの一冊から引き出すことができるのは便利である。
本書の構成を概観すると,以下のようになる(タイトルの「ひきだし」になぞらえて,普通は「章」と呼ぶまとまりが本書では「段目」になっている)。
・ 1段目:総論として,がんの疫学からがん治療の考え方,レジメン管理,曝露対策などがまとめられている。
・ 2段目:抗がん薬について作用機序,主な適応がん種と治療レジメン,特徴的な副作用,薬物動態・薬物相互作用,ポイントが丁寧に書かれている。分子標的薬は,抗体薬ごとに表でまとめられており,適応,服用タイミングなどの特徴が一目でわかるようになっている。
・ 3段目:がん薬物療法について各種疾患の疫学,診断,病期分類,予後因子,治療法が書かれている。代表的な治療レジメンは表形式で記載されており,投与間隔や使用する薬剤が看護師にもわかりやすく書かれている。
・ 4段目:がん薬物療法の副作用ごとに,その特徴と対処法が書かれている。また,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害反応(irAE)について,基礎的知識からアセスメントのポイント,早期発見・早期対応のための患者教育について書かれていることは,出色の内容である。
・ 5段目:疼痛緩和と鎮痛薬について書かれており,オピオイド鎮痛薬の特徴が,薬学的に詳しく書かれており,メリット,デメリットがわかりやすい。
本書にはスキルアップの引き出しというコラムが各所にあり,一歩進んだがん患者サポートを志す医療者が知っておきたい情報も記載されている。基本から応用まで,指導的立場のスタッフが自身の知識を確認する際にも有用だろう。がん看護専門看護師,がん分野の認定看護師だけでなく,がんに興味を持っている全ての医療関係者に推薦したい一冊である。
がん薬物療法を適切に実施するために必要な情報をワンストップで
書評者: 奥田 真弘 (阪大病院教授・薬剤部長)
がん薬物療法は日進月歩であり,年々新薬が投入されるとともに新たなケアが導入されるなど,多様化している。2010年に発出された医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では,医師・薬剤師が事前に作成・合意したプロトコールに基づき,専門的知見の活用を通じて医師と協働して実施するチーム医療が推奨され,薬剤師ががん患者の薬学的管理にかかわる機会も格段に増加している。がんチーム医療における薬剤師の役割は年々拡大しており,薬剤師が備えるべきがん薬物療法の知識も増加している。がん薬物療法に関する最新情報を入手するには,質の高い情報源が欠かせないが,新薬に関する情報は特定の薬剤に偏りがちであり,また治療法や副作用管理に関する情報も断片的なことが多い。
本書は,がん薬物療法の適正実施に必要な幅広い情報をがん薬物療法の最前線で活躍する薬剤師が執筆したものであり,最新のエビデンスやガイドラインに基づいてまとめられ,主な対象は薬剤師,薬学生のほか看護師,医師などの医療スタッフとなっている。本書の構成は「1.総論」「2.抗がん薬各論」「3.がん薬物療法」「4.副作用対策」「5.緩和ケア」となっており,総論ではレジメン管理や投与管理・調製,曝露対策について触れられている。また,本文の約3分の1に相当する150ページががん薬物療法に伴う副作用対策に割り当てられており,近年注目されている免疫関連有害事象(irAE)を含む15種類の代表的な副作用が,定義,原因薬剤,アセスメント,治療または支持療法,の順に要領よくまとめられている。
本書の体裁は「ひきだし」を模している。1章,2章の代わりに「ひきだし1段目」「ひきだし2段目」が割り当てられているほか,各セクションの要点は「はじめのひきだし」として箇条書きにまとめられ,発展的な知識は「スキルアップのひきだし」として随所に挿入されるなど,読みやすさも工夫されている。箇条書きを主体として書かれているため,必要に応じて本文の途中から拾い読みすることも容易である。多忙な医療現場で活動する医療スタッフにとって,がん薬物療法を適切に実施するために必要な情報がワンストップで得られる機会は貴重と考えられる。がん薬物療法の現場に携わる医療スタッフに本書が活用されることで,がん薬物療法の適正な実施がさらに進むことが期待される。
チーム医療の中心となって活躍するための「ひきだし」
書評者: 高野 利実 (がん研有明病院乳腺内科部長)
病院薬剤師が主人公のドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系,2020年)が話題になっている。患者さんに寄り添い,薬剤師として悩みながら,知識と経験に基づいて行動していく主人公。これまで,いろんな病院で,優秀で熱心で魅力的な薬剤師に支えらえてきた私としては,○○さんや△△さんなどの姿を重ねながら,このドラマを楽しんでいる。現実離れした描写や,高圧的すぎる医師の姿には批判もあるようだが,薬剤師の想いや仕事ぶりはうまく伝わっているように思う。チーム医療に欠かせない存在としての薬剤師がこのようにクローズアップされるというのは,チーム医療に救われている腫瘍内科医としても,とても喜ばしいことである。医師の指示のもと,薬剤の管理だけを行うのではなく,患者さんのために,チーム医療の中心となって活躍することが,これからの薬剤師に求められる役割であり,それこそが,このドラマの重要なメッセージであろう。
がん薬物療法の分野では,進歩のスピードが加速しており,薬剤師が身につけておくべき知識も膨大なものになっている。今の時代は,知識を全て身につけているというよりは,知識のひきだし(エビデンスを検索する能力)こそが求められているともいえる。いずれにしても,これらの知識を背景に,患者さんや他の医療従事者と対話し,より適切ながん薬物療法をめざしていく必要がある。そんなときに手元にあると役立つのが,『がん薬物療法のひきだし―腫瘍薬学の基本から応用まで』である。
本書は,がん薬物療法に最前線で取り組む薬剤師が創り上げた教科書である。網羅的で重層的な,それでいて,わかりやすく,かゆいところに手が届くような内容になっている。「ひきだし」というタイトルも絶妙で,全体の構成から,各章(各ひきだし)の構成まで,いろいろな工夫がなされている。「はじめのひきだし」と「スキルアップのひきだし」も,知識の整理に役立つことだろう。
ひきだしは5段あり,「1段目 総論」「2段目 抗がん薬各論」「3段目 がん薬物療法」「4段目 副作用対策」「5段目 緩和ケア」となっている。本書を開く場面はいろいろであろうが,特定の薬剤について知りたいのであれば2段目をあけ,特定のがん種の薬物療法について知りたいのであれば3段目をあけ,特定の副作用について知りたいのであれば4段目をあけると,得たい情報に行きつける。網羅的に知識を整理したいのであれば,上から順番に通読するというのもありだろう。
「自分で自分の立ち位置決めちまったらそっから進めなくなるぞ?」というのは,「アンサング・シンデレラ」で先輩薬剤師から主人公にかけられる言葉だが,薬剤師も医師も,よりよき医療をめざして,切磋琢磨していきたいものである。