医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2022.12.05 週刊医学界新聞(レジデント号):第3496号より

 「アドレナリン筋注をガイドライン通りにしっかり行ったのにアナフィラキシーが改善しない! どうしよう……」。そんなとき,第2・第3の矢を持っておくことで,救急の現場での安定感が抜群にアップします。前回のbasic編(3493号)では,アナフィラキシーを早期に認識すること,十分量のアドレナリン筋注を迅速に行うことを強調しました。引き続き,今回はアナフィラキシーadvanced編を見ていきましょう。

 アドレナリン筋注を2回行ったにもかかわらず,呼吸の異常(喘鳴や低酸素血症など)や循環の異常(ショックの徴候)が持続する場合を,「難治性アナフィラキシー」と本稿では定義します。

 アナフィラキシーは血液分布異常性ショック(distributive shock)の代表格です。不適切に末梢血管抵抗が低下してしまうために,末梢血管に血液が滞ります。その結果,心臓へ戻る血液が減少し,全体として心拍出量が減少するのです。筆者は敗血症とともにこれらをまとめて“血管ぶよぶよ病”と呼んでいますが,カテコールアミンで末梢血管を締めて,晶質液の投与で前負荷を増やすことが治療の出発点になります。ということで,難治性アナフィラキシーに対する重要な治療法は2つ(+α)! ①晶質液の投与,②アドレナリン持続静注です。

①晶質液の投与
 十分な輸液は必須です。晶質液500~1000 mLをbolus投与します。3~5 Lほどの輸液を要することもあるので,気合を入れて行いましょう。

②アドレナリン持続静注
 難治性アナフィラキシーの場合には,低用量でのアドレナリン持続静注が推奨されています1)。末梢静脈からのルート確保がどうしてもできない場合には,骨髄路からの投与も可能です。あくまでアドレナリン筋注が効かなかったときのPlan Bであり,「重症そうだからアドレナリン持続静注からやったろ」という感じで使うものではないので注意してください。いつでも治療の第一選択は筋注での使用です。

 具体的な組成と投与方法はの通りです。アドレナリン1 mgを生理食塩水100 mLに混注し,それを0.5~1.0 mL/kg/時で持続静注します。体重60 kgの場合には30~60 mL/時ほどで投与することになります。反応性に応じて,5~10分ごとに投与量の調整が必要です。症状/徴候が改善して30分程度安定して経過すれば,1時間かけて段階的に減量して中止します(初回の減量は開始速度の50%を目安にします)。高度な頻脈が持続する場合には,より早い段階での中止または減量を考えましょう。

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 アドレナリン持続静注の組成と投与方法

 合併症として高血圧,頻脈,不整脈などがありますので,それらのモニタリングを継続的に行うことは必須です。また,血管外漏出のリスクがあります。マンシェットはアドレナリン持続静注をしている側とは反対側に巻くと良いでしょう。

③グルカゴン静注

 アドレナリン持続静注の他にも対応方法を持っておくと安心♪なので,+αの治療としてグルカゴン静注についても紹介します。

 アドレナリンを使用しても改善に乏しい難治性アナフィラキシーには,グルカゴンの投与も選択肢です。患者さんがβ遮断薬を常用している場合には,アドレナリンの効果が減弱することがあります。β遮断薬を内服していると,アドレナリンがβ受容体に結合できないため,アナフィラキシーが重症化するリスクがあります。グルカゴンはβ受容体を介さない回路でcAMPを産生することで効果が発現されるため,β遮断薬を常用している場合のアナフィラキシーには有効性が高いとされています。β遮断薬を内服していなくとも,アドレナリン持続静注に抵抗性の難治性アナフィラキシーには試す価値アリです。

 投与方法は,グルカゴンを1 mgずつ5分ごとに静注し,その後1~2 mg/時で持続静注を行います。

 β遮断薬内服中→グルカゴン投与!の図式で覚えている方もいるかもしれませんが,β遮断薬内服中であってもアナフィラキシー治療の第一選択薬はアドレナリンであることに変わりはないのでご注意を。

 アナフィラキシーの合併症としてKounis症候群が知られています。アレルギー反応により生じる急性冠症候群(ACS)と定義されており,アレルギーとACSが同時発生する珍しい疾患です。1991年にKounisらによってアレルギー性狭心症症候群として報告された2)のが始まりで,比較的新しい疾患です。病態生理学的に全貌は解明されていませんが,活性化された肥満細胞が放出した大量の炎症性メディエーターにより引き起こされると考えられています。Kounis症候群は3種類あり,冠攣縮が起こったり(Type I),プラークの破綻や血栓の不安定化が誘発されたりするタイプがあります(Type II:冠動脈閉塞,Type III:ステント血栓症)。

 アナフィラキシーと臨床的に診断されたにもかかわらず,アナフィラキシーに対する標準的な治療を行っても遷延するショックや肺水腫などが出現する場合には,Kounis症候群の合併を疑いましょう。

 治療はアレルギーとACSへの介入を同時に行います。アナフィラキシーのときには日の目を見なかったH1/H2 blockerやステロイドも使用して,アレルギーとしての治療を行います。アドレナリンは基本的には筋注での使用が良さそうで,静注が必要なシーンもあるかもしれませんが,その際には心筋虚血の悪化や不整脈の誘発に注意が必要です。ACSにはType IであればニトログリセリンやCa拮抗薬を使用し,Type II/IIIであれば通常のACSと同様に経皮的冠動脈形成術(PCI)と抗血小板薬投与による初期治療を行います(3)

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 Kounis症候群を疑った際の治療戦略(文献3をもとに作成)
アナフィラキシーに対する治療を行ってもショックが遷延したり,肺水腫が出現したりする場合,Kounis症候群の合併を疑う。治療は,アレルギーとACSへの介入を同時に行う。

 アナフィラキシーadvanced編,いかがだったでしょうか? アナフィラキシー対応においては正確な認識と迅速なアドレナリン0.01 mg/kg筋注がとにかく大事です。しかし,それだけでは解決できないこともあります。そんなときのためのPlan Bを知っていただくことが今回の目的でした。今後の皆さんの救急診療の一助となればうれしいです。

 


1)Working Group of Resuscitation Council UK. Emergency treatment of anaphylactic reactions:Guidelines for healthcare providers. 2021.
2)Br J Clin Pract. 1991[PMID:1793697]
3)Eur J Intern Med. 2016[PMID:26795552]

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