ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第6回] そのアナフィラキシー対応,遅れてない? basic編
連載 徳竹雅之
2022.11.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3493号より
2022年に日本アレルギー学会より『アナフィラキシーガイドライン2022』1)が発表されました!
アナフィラキシーは医療従事者であれば誰もが遭遇する可能性があり,治療の遅れが死亡に直結してしまう恐ろしい疾患です。残念ながら,しっかり治療がなされていないことが多いのも現実です。
あなたのマネジメントはどうですか? 5つの質問の答えを考えながら,「常識」を確認していきましょう(体系的なまとめはガイドラインを読み込んでください)。
アナフィラキシーマネジメントをチェックする!
◆Q1. 皮膚粘膜症状がない場合,アナフィラキシーは考えなくてよいですよね?
……A1. 皮膚粘膜症状がないアナフィラキシーは10~20%も存在します。
診断基準のマイナーチェンジがあったので確認してみましょう1)。皮膚症状を伴わなくても,アレルゲンと考えられる物質への曝露後に血圧低下や呼吸器症状があればアナフィラキシーの診断になります。アナフィラキシーの10~20%では,皮膚粘膜症状がないか軽微であるため注意が必要です2)。とにかく過小評価されがちな疾患です。あるアンケート調査では,皮膚症状のないアナフィラキシーを正しく診断できたのは55%だったとされています3)。診断や治療の遅れは二相性反応の増加や死亡のリスクとなりますので,見逃し厳禁! 筆者は特にショックや呼吸不全の鑑別で,最初に考えておく疾患として挙げています。
◆Q2.アナフィラキシーに対するアドレナリン筋注の投与量は?
……A2.0.01 mg/kg(最大量:成人0.5 mg, 小児0.3 mg)です。
投与量については,実は強いエビデンスがありません。これまで国際的なガイドラインでは,expert opinionに基づいて緊急時に安全かつ実用的に投与できると考えられる量が用いられてきました。「投与量は0.01 mg/kg,最大量は0.5 mg」が標準的です。体重が50 kgを超える場合には0.5 mg筋注をしなければなりません。十分量を大腿前外側部の遠位3分の1(気をつけの姿勢をして指先があたるくらいの位置)に筋注しましょう。症状や徴候に合わせて5~15分ごとに追加使用します。2回目以降の筋注は同側,対側のどちらでも構いません。本邦のガイドラインには年齢別に簡素化された推奨投与量が記載されていますので,救急カートなどに貼っておくとよいでしょう1)(表1)。Distributive shockになるので,晶質液の投与もお忘れなく。
◆Q3.小児や高齢者へのアドレナリン投与はリスクがありますか?
……A3.アドレナリン筋注はとても安全です。
心疾患をはじめとした多数の基礎疾患を持つ高齢者や小児へのアドレナリン投与はどうでしょう。気が引けますか? 高齢者や10歳未満の小児では,アドレナリン筋注が避けられる傾向にあることが研究からわかっています4, 5)。しかし,アドレナリン投与に絶対的禁忌は存在しません!6, 7)確実にリスクよりベネフィットが勝ります。抗ヒスタミン薬は皮膚症状を改善させる効果がありますが,アナフィラキシーを逆転させる作用はないために,それでお茶を濁してはいけません。確かに,治療を行わなくとも完全に症状が改善することもあり,「今まではそれで問題なかったよ」とお考えの方もいらっしゃると思います。しかし,自然に治癒するタイプか致命的な経過をたどるタイプかは,事前にわかりません8)。そのため,どのような患者群に対してもアドレナリンの迅速な投与を遅らせてはなりません。
大事なことなので2回言います。アドレナリン投与に絶対的禁忌は存在しません! 筋注に関してはめちゃくちゃ安全性が高いので,アナフィラキシーを疑えば何も気にせずに即座に使いましょう(難治性アナフィラキシーに対する静注療法は別です)。
◆Q4.二相性反応予防にステロイドは効果的なのですか?
……A4.議論が残る領域です。筆者はほとんど使用しません。
二相性反応予防にステロイドを投与することがあるかもしれません。でも,それって効果はあるのでしょうか?
一時的にアナフィラキシーが改善しても,数時間後に症状が再燃することがあります。これが二相性反応であり,約5%の患者に発生するとされています。二相性反応による死亡は非常にまれで,臨床的に重要な二相性反応の発生率は2%弱です9, 10)。リスク因子としてアドレナリン投与の遅れ(発症から30~60分)や2回以上のアドレナリン投与を要した重症度の高いアナフィラキシーなどが有名です(表2)。アドレナリンを迅速かつ十分量投与しないと,二相性反応が発生しやすくなるという報告もあり,やっぱり0.5 mgを基準にしておくのがよさそうですね13)。
ステロイド投与によって二相性反応の発生率が低下するという根拠はありません。それどころか,ステロイド投与が有害性を持つ患者群が存在する可能性すらあります。主に後ろ向き観察研究を基にした研究であり交絡因子の存在は否定できませんが,18歳未満へのステロイド使用が二相性反応のリスク因子となったという報告があります11)。また,ステロイドの早期使用は(重症度を調整しても)ICU入室リスク上昇と関連していることを示唆する報告もあります12)。あまり効果がなくて,一部の患者に対して有害性を持つなら使わないほうがよいのでは,というのが今の筆者の立ち位置です。
◆Q5.二相性反応に備えての経過観察はどのくらい行えばよいですか?
……A5.重症度やリスク因子によりますが,基本的には1泊入院が安全です。
どのくらい経過観察を行えばよいかはよくわかっていません。重症度の高い患者さんに限って早く帰宅したがるんですよね。トホホ。二相性反応が出るまでの時間の中央値は約12時間なので,そのくらいの期間は経過観察ができればよいと思います。あるガイドラインでは経過観察時間の推奨を提示してくれていますので,参考になるでしょう14)(表3)。どの病院も今はベッド事情が苦しいかもしれませんが,可能であれば1泊入院が好ましいです。
*
ガイドラインを基にアナフィラキシー対応の「常識」を俯瞰してみました。アナフィラキシーを早期に認識し,十分量のアドレナリン筋注を迅速に行えるようにしましょう!
次回はアナフィラキシーadvanced編をお届けします。お楽しみに!
今回の勘どころ
✓ 皮膚粘膜症状がないアナフィラキシーもある。ガイドラインを確認しよう。
✓ アドレナリン筋注は0.01 mg/kg(最大量:成人0.5 mg, 小児0.3 mg)。小児も高齢者も安全に使用可能。
✓ 二相性反応予防のステロイドは議論が残る領域。基本的には入院で経過観察しよう。
参考文献・URL
1)日本アレルギー学会.アナフィラキシーガイドライン2022.2022.
2)J Allergy Clin Immunol. 2004[PMID:15316518]
3)Pediatr Allergy Immunol. 2014[PMID:25263184]
4)Resuscitation. 2017[PMID:28069483]
5)Prehosp Emerg Care. 2018[PMID:29336638]
6)J Allergy Clin Immunol. 2011[PMID:21377030]
7)J Allergy Clin Immunol Pract. 2018[PMID:29660429]
8)Ann Emerg Med. 2006[PMID:16546624]
9)Ann Emerg Med. 2014[PMID:24239340]
10)J Allergy Clin Immunol Pract. 2020[PMID:32763470]
11)J Allergy Clin Immunol. 2020[PMID:32001253]
12)J Allergy Clin Immunol Pract. 2019[PMID:31035000]
13)Ann Allergy Asthma Immunol. 2007[PMID:17225722]
14)Working Group of Resuscitation Council UK. Emergency treatment of anaphylactic reactions: Guidelines for healthcare providers. 2021.
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