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問題解決型救急初期診療 第3版

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救急患者の診断からマネジメントまで、分かりやすいフローチャートで優先順位をつけ、考えること・すべきことを理解した上で、初期診療につなげる構成。特に基本的症候へのアプローチに重点を置き、単に手順を示すのではなく、真に理解しながら学べるよう問題解決のプロセスに焦点を当てている。最新のエビデンスを踏まえて全面的にバージョンアップ。筆者の魂の込もった好評書、待望の第3版。

田中 和豊
発行 2022年02月判型:B6変頁:564
ISBN 978-4-260-04732-6
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

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第3版 序

 本書の初版の発行は2003年10月15日,第2版は2011年10月1日であるので,今回上梓するこの第3版は初版から19年,第2版からは11年が経過したこととなる.

 本書の初版発行の年である2003年から2022年までの19年の間に日本の医療環境は急激に変化している.

  2003(平成15)年 DPC(診断群分類に基づく入院1日あたりの包括支払い制度)導入
  2004(平成16)年 新医師臨床研修制度発足
  2005(平成17)年 医学部教育に共用試験CBT・臨床実習前OSCE導入
  2010(平成22)年 医師臨床研修制度の見直し
  2018(平成30)年 新専門医制度が予定よりも1年遅れて発足,医師国家試験が2日間に変更
  2020(令和2)年~医師臨床研修制度改定,新型コロナウイルス感染症パンデミック,医学部教育に臨床実習後OSCE導入

 この期間,筆者も医療現場で働く一医師として限界状況の中で上記のような制度改革に大きく翻弄されてきた.そのため,本書の改訂が大幅に遅れてしまったことを深くお詫びする.
 そして,この改革の波はこれからも続く.

  2023(令和5)年 医学教育の国際評価基準に関する2023年問題
  2024(令和6)年 医師についての時間外労働の上限規則の適応開始(改正労働基準法の施行)予定
  2025(令和7)年 団塊の世代全員が後期高齢者となる2025年問題 など…

 日本の医療環境はまさに激動の時代に突入しているのである.この激動の時代を生き抜くためには,医療システムの改革という「組織」を変革するだけではなく,医師「個人」も変革する必要がある.限られた時間で最大の効果を上げるためには,個々の医師の臨床能力を最大限に向上させなければならないはずである.

 自分の専門しか診ない(あるいは診られない)医師ばかりでは医療は成り立つはずがない.現在では医師個人の能力として単に専門ができるだけではなく,プライマリ・ケア能力を身につけたうえで専門能力を獲得することが求められている.そのプライマリ・ケア能力とは,具体的には本書の内容を実践する能力である.本書の内容は,単に初期臨床研修医の到達目標だけではなく,一部については現在では医学生が受験する医師国家試験の出題範囲にもなっている.したがって,本書の内容は単に初期臨床研修医が修得すべき内容ではなく,医学生も修得すべき内容も含んでいるのである.もしも本書の内容をすべての初期臨床研修医が初期臨床研修修了時に実践可能となれば,日本の医療レベルはわずかばかりではあるが確実に向上するはずであると筆者は確信している.

 しかしながら,翻って日本の医療現場では,本書の初版,そして新医師臨床研修制度が発足してから約18年経過した現在でも,いまだに十分なプライマリ・ケアが行き渡っているとは言い難い状況である.この状況を打破するために現在筆者が考えていることは,本書の内容を医学部5年生の臨床実習から伝授することである.初期臨床研修の期間は2年であるが,実際には2年目は各研修医が自分の専門を意識するために,プライマリ・ケアの研修は実質初期臨床研修1年目の1年間に過ぎない状況である.それならば,いっそのことプライマリ・ケアの内容を卒前に前倒しして開始したほうがよいのではないかと考えるに至ったのである.つまり,卒前の医学部臨床実習2年間と卒後の初期臨床研修の2年間の合計4年間でプライマリ・ケア能力を修得することを目標にするのである.

 本書はもともと初期臨床研修医用に発刊したものである.しかし,今回の改訂では,初期臨床研修医,専攻医,広くプライマリ・ケアに従事する医師およびコメディカルだけではなく医学生も対象として,ここに装い新たにして第3版を世に問う次第である.

 本書を上梓するにあたって,丹念に原稿をご校正いただいた聖路加国際病院 院長 石松伸一先生,済生会福岡総合病院総合診療部 香川聡志先生,神戸大学感染症内科 西村 翔先生,聖路加国際病院内分泌代謝科 能登 洋先生(以上,50音順),そして,忍耐強く校正にご尽力いただいた医学書院の方々に深く感謝する.

 最後に,下記の新医師臨床研修の基本理念がより一層実現されることを願って第3版の序とさせていただく.

  臨床研修は,医師が,医師としての人格をかん養し,将来専門とする分野にかかわらず,医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ,一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう,プライマリ・ケアの基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身に付けることのできるものでなければならない.

 2021年12月
 田中 和豊

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第1部 イントロダクション編
 1 Primary Careとしての救急医療
 2 救急室における基本戦略
 3 主訴
 4 問診
 5 診察
 6 検査
 7 診断
 8 治療
 9 医学判断学とEBM
 10 マネジメントと説明
 11 患者教育と予防
 12 病歴記載
 13 コンサルテーションとプレゼンテーション

第2部 症状編
 1 症状解析 Symptom Analysis
 2 疼痛 Pain
 3 頭痛 Headache
 4 胸痛 Chest Pain
 5 腹痛 Abdominal Pain
 6 腰背部痛 Back Pain
 7 関節痛 Joint Pain
 8 めまい Vertigo/Dizziness
 9 失神 Syncope
 10 痙攣 Convulsion
 11 意識障害 Altered Mental Status
 12 麻痺 Paralysis
 13 しびれ Paresthesia
 14 起立・歩行困難 Difficulty in standing up or walking
 15 咽頭痛 Sore Throat
 16 咳・痰 Cough/Sputum
 17 喀血 Hemoptysis
 18 呼吸困難 Dyspnea
 19 動悸 Palpitation
 20 嘔気・嘔吐 Nausea/Vomiting
 21 下痢 Diarrhea
 22 便秘 Constipation
 23 吐血・メレナ Hematemesis/Melena
 24 下血 Blood per Rectum
 25 肉眼的血尿 Gross Hematuria
 26 浮腫 Edema

第3部 外傷編
 1 創傷処理 Wound Management
 2 整形外科疾患 Orthopedic Injuries
 3 外傷患者の診かた How to See Trauma Patients
 4 頭頚部外傷 Head and Neck Trauma
 5 胸部外傷 Chest Trauma
 6 腹部外傷 Abdominal Trauma 
 7 骨盤外傷 Pelvic Trauma
 8 四肢外傷 Trauma of Extremities

第4部 救命・救急編
 1 蘇生法 Resuscitation
 2 ショック Shock
 3 急性アルコール中毒 Acute Alcohol Intoxication
 4 急性中毒 Acute Intoxication
 5 熱傷 Burn
 6 異物 Foreign Bodies 
 7 熱中症 Heat Illness
 8 偶発性低体温症 Accidental Hypothermia
 9 溺水 Drowning
 10 マイナー系救急 Minor Emergencies

参考資料
 1 救急医療関係の各種届出義務
 2 隔離(出席・出勤停止)期間
 3 届け出が必要な感染症
 4 放射線被曝
 5 造影剤(ヨード造影剤・ガドリニウム造影剤)
 6 主要抗菌薬 腎機能による投与量
 7 妊婦および授乳婦への薬物
 8 交通事故における治療期間と重傷度
 9 交通事故(人身事故)における行政処分と刑事処分
 10 知っておくと便利な漢方薬

付録
 1 勉強方法10か条
 2 法的事項
 3 医学倫理
 4 医療過誤,品質保証,危機管理

略語
索引

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バイブルの評価などできない!!
書評者:薬師寺 泰匡(薬師寺慈恵病院院長)

 救急外来では,迅速かつ正確に患者の病態を把握して,緊急性が高い場合には即時介入し,生命予後を左右するような疾患の除外をし,さらにはその場で行わねばならない処置を的確に行う必要があります。毎日がこれの繰り返し。しかし,患者さんは千差万別。同じ疾患でも,全く異なる症状でやってくることも多々あるので,毎日やみくもに働いているだけでは救急対応の能力は磨かれません。緊急性の判断や,除外診断を適切に行うには,膨大な時間と経験が必要になります。もちろん,不適切な修行は時間の無駄ですし,何をしてよいか悩んでいる時間すらリスクになるのが救急外来です。われわれには道しるべが必要なのです。

 初期臨床研修は,研修医一人当たりかなりの数の救急車対応をする病院で学ばせてもらいました。が,当然最初は進むべき道がわかりません。途方に暮れる研修医に道を照らしてくれたのが,この『問題解決型救急初期診療』でした。まず行うべきことは当然網羅されており,症候から入る構成になっているので,実際の診療時と同じ思考過程をたどることができます。26の症状に始まり,外傷や熱傷,中毒,ショック,蘇生など救急医が専門とする分野,そして精神科救急までまとめられていますから,大部分の救急患者はこの一冊があれば対応可能で,少なくとも何をしていいのかわからないという状況には決してならないことが約束されています。確かな救急外来の道しるべ。これは救急外来のバイブルです。

 というわけで,書評を書いてくださいと言われ面食らいました。研修医のころから愛用し,後輩にもオススメしてきた,おそらく救急医であれば一度は目にしたであろう書籍の評価をしろというわけです。誰がバイブルの評価をできるというのでしょうか。まだ日本で救急科を掲げることすらなかった2003年に初版が出版され,20年にもわたり増刷改訂を続けて,現場の救急医に愛されてきたのです。その事実が書籍の価値を十分物語っております。

 救急医として10年以上働いてきた上で,その価値を再確認しています。改めて読み直すと,最前線の救急医として考えるべきことが,きれいにトレースしたかのように記載されています。例えば,「30歳代女性,今朝からの腹痛」と搬入依頼が来たとしましょう。救急医は,「急性胃腸炎だろうか?」などと考えません。「外傷じゃないよね? そうじゃなければ産科,婦人科疾患から考えようか……」となります。これがそのままフローチャートになって載っています。いや,これはむしろ,この本で勉強しこの本で型を身につけたからであって,すでにこの書籍は救急医の一部として道を照らし続けているだけということなのかもしれません。

 改訂に当たり,COVID-19など,最新の情報も追加されています。参考文献もきちんと示されています。研修医から救急ローテ中にどの書籍を買うべきか尋ねられたら,自分のではなくこちらをオススメしています。


「専門医である前に一人の医師であれ」の具体的な道標
書評者:藤井 達也(アンカークリニック船堀整形外科)

 「これから動悸の患者さんが来るから,ACLS見直しておいて」。

 初期研修医だった僕は上級医に言われ,ACLSのテキストを見直していた。「意識があるということは脈あり・頻脈だな」と思い頻脈プロトコールを頭に入れた。すると心電図モニターを確認すると洞調律の78歳男性だった。僕は脈あり・頻脈のフローチャートの最初でつまずき,頭が真っ白になりそうだった。しかし,過去カルテを見にいくときに本書の「動悸」の項目を開いた。まずは「問診」「心電図」と記載がある。「それで具体的には何をきくのか?」と思い次のページを見ると,「安静時の動悸か?」「労作時の動悸か?」「既往歴」「家族歴」と書かれている。ふむふむ。30秒でざっと確認し現場に戻る。診察や検査を終え無事に上級医へプレゼンできた。

 本書の初版は米国内科学会専門医取得後,聖路加国際病院救命救急センターに在籍していた当時卒後9年目の田中和豊先生が執筆されたもので,本書は全面改訂を行った第3版である。初版では初期研修医が救急外来において,診療科を問わず自分一人で戦えることを目的としていた。初版から約20年が経過し,さらに医学生も読者対象にしたいという想いが田中先生の言葉からうかがえる。

 ここでは整形外科専門医の立場からこの書籍を切り出してみる。結論から述べると「プライマリケアの最前線にいる田中先生という熟達者から,これから実臨床を学ぶ初学者に向けたEBMと経験を融合した実践知を詰め込んだ道標」である。その理由は以下の3つである。

 (1)症候からフローチャートがある:例えば「動悸」の最初の分岐は「一過性」か「持続性」かである。「持続性」の後には「ACLS徐脈・頻脈プロトコールに従い,不整脈をコントロールする」と書かれている。このようにフローチャートで視覚的に示すことで,初めて動悸を診る医学生,初期研修医にも持続性動悸は “急いで” 対処しなくてはいけない症状だとわかる。一方,一過性動悸に関しては,問診や心電図などの項目が示されており,次の一手がすぐにわかる。

 (2)必要なスコアが必要なところにある:診断や治療をしていく中では疾患に特化したスコアリングを活用することがある。例えば心房細動の抗凝固療法にはCHADS2スコアがある。こういったスコアは検索しても前後の文脈までは記載されておらず,目の前の患者さんに当てはめてよいのかわからないことが多い。しかし,本書では診断や治療に関する記載のすぐ近くにスコアが掲載されている。これを参考にすれば,コンサルトする際に専門医と円滑にコミュニケーションがとれそうである。

 (3)具体的に何をすべきかが書かれている:フローチャートのすぐ後には,問診や診察,検査で何をすべきかが記載されている。ここには「なぜ」を解く田中先生のTipsがたくさん詰め込まれている。まるで現場で田中先生に教わっているような気分になる。

 初期研修医のときに初版を片手にERに出ていた僕だが,いま一度,整形外科専門医としてだけでなく一人の医師として学び直しをしてみようと思う。


「この本メチャメチャ売れています!」ってホント?
書評者:増井 伸高(札幌東徳洲会病院救急センター副センター長)

◆何を指標に選ぶか?

 2020年代以降は救急のマニュアル本が非常に充実しています。研修医は数十冊以上の中から何を買うか迷ってしまうでしょう。上級医だってオススメ本を知る必要があります。数あるマニュアル本から皆さんは何を指標に選んでいますか?

 「先輩研修医に聞く」「書店で読み比べる」「Amazonの★の数」いずれも悪くありません。しかし,私のオススメは「増刷数の多いものを選ぶ」という戦略です。

 新しい医学書を何部作るかは,出版社が売り上げ予想部数から「初版刷数〇千部」と数を決めます。その予測以上に売れると増刷です。ドラマで黒木華さんが「重版出来♪」と言っていたヤツですね。一方で残念ながら重版出来されず書店で1冊だけ棚刺しされ,残りが出版社に払い戻される書籍もけっこうあります。

 売れに売れて増刷を第2刷,第3刷と繰り返すと書籍の冒頭や末尾に記載されます。お手元の医学書をチェックしてみましょう。その本が既に有名で人気のある医学書なら増刷数も多いはずです。そう,なにより「増刷数」は信頼のおける良書の指標なのです。では本書の増刷数は……「第1版第7刷,第2版第8刷」!! これは超オススメの書籍といえます。

◆なぜ売れているのか?

 本書を開くと売れている理由がすぐにわかります。それは救急現場で必要な全ての問題を網羅しているからです。本書の第2~4部の章立ては計44項目の 症候 ・・ から成ります。章立てが診断名ではなく症候名なのがポイントです。例えばCOVID-19という章立てはありませんが,ある症候ではいつCOVID-19を疑い,何を処方するかは必要十分に記載されています。救急患者さんは診断名でなく症候で来院するため,症候の解決が問題解決型なのです。

 また全章で図・表・チャートが多いのも売れている理由でしょう。本を作るとわかるのですが,作図は著者も出版社も非常に骨が折れる作業なのです。私などは過去の執筆で作図作業に発狂して,文字の羅列に逃げようとしたことが何度もありました。その点で本書は読者目線の図説が目白押し。著者の田中和豊先生と医学書院さんが骨を折って救急現場目線の書籍化に挑戦した熱意がひしひしと伝わってきます。

 売れている本が正義です。第1版第7刷,第2版第8刷に続き,今回の第3版も数年後には増刷を重ね,多くの救急外来で活躍していること間違いありません

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