医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

Pre-chargingとDouble Sequential External Defibrillation

連載 徳竹雅之

2023.01.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3500号より

 2022年11月,難治性心室細動(VF)に対する除細動の方法に関する非常に重要な研究がNew England Journal of Medicine誌に発表されました1)。コレに触れずしてこれからの心肺蘇生(CPR)は語れない!? 良い機会なので,除細動器の一歩踏み込んだ使い方を一緒に勉強していくことにしましょう。ちょっとした工夫で生存率や神経学的転帰を改善させることができるかもしれません!

①Pre-charging

 心停止へのCPRでは,「質の高い胸骨圧迫」と「除細動適応症例への迅速な除細動」が重要なポイントとして挙げられます。質の高い胸骨圧迫と言えば,「強く,速く,しっかり戻して,絶え間なく」が合言葉です。この中でも「絶え間なく」胸骨圧迫を行うことは特に意識しておかないと,中断時間がのびのびになってしまいます。この「絶え間なく」という部分を小難しい言葉で評価するときに,胸骨圧迫中断時間(hands-off time)といった指標が用いられます。

 通常であれば,下記のアプローチを取ることが多いと思います。

波形確認のため胸骨圧迫中断①→除細動適応波形を確認→胸骨圧迫再開/同時に除細動器充電→除細動(胸骨圧迫中断②

 除細動完了までに胸骨圧迫の中断が2回あります。なんか,無駄な動きですよね。

 では,もっとhands-off timeを短くできないものでしょうか? なるべく短くするための秘策は,「除細動前のひと手間」にあります。

波形確認前に除細動器の充電を開始→波形確認のための胸骨圧迫中断①→除細動適応であれば除細動(非適応なら内部放電)

 つまり,2分ごとの波形確認の直前にあらかじめ除細動器の充電ボタンを押しておくことです(pre-charging)。この方法であれば胸骨圧迫の中断が1回で済み,hands-off timeが40%も減少したとする報告もあります2)。これなら「絶え間ない胸骨圧迫」と「除細動適応症例への迅速な除細動」を同時に達成できますね!

 ただし波形確認前に充電ボタンを押すと,除細動器から不穏な音声が流れますので(「コイツなにやってんだ?」という怪訝な視線を向けられちゃうこともあります),周囲をびっくりさせないためにも各職場でコンセンサスを得ておく必要はあります。

②DSED(Double Sequential External Defibrillation)

 DSED,聞いたことはありますか? 聞き慣れないと思いますが,難治性VF/無脈性心室頻拍(pulseless VT)の際に,胸背部に2対のパッドを装着してバシバシと2回連続で除細動を行う方法です()。YouTubeで検索すると,実際のやり方を見ることができます。

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 除細動器の3つの使用法
除細動器には,Standard Defibrillation(右前胸部と左側胸部にパッド装着),Vector Change Defibrillation(左前胸部と左背部にパッド装着),DSED(Double Sequential External Defibrillation)などの使い方がある。DSEDは難治性VF/pulseless VTに対して用いる方法で,胸背部に2対のパッドを装着して2回連続で除細動を行う方法。

 一般的には,難治性VF/pulseless VTへの治療介入としてアミオダロンやリドカインといった抗不整脈薬が使用されていると思います。しかし,これらの薬剤は生存退院率や神経学的転帰を改善させることはなかったと報告されています(ALPS試験)3)

 少し脱線しますが,薬剤関連でいうと難治性VF/pulseless VTへのアドレナリン投与のタイミングがよろしくないケースが散見されますので,ここで言及しておきたいと思います。除細動適応リズムには,「初回除細動が不成功であった場合」にアドレナリン投与を行うことが推奨されています。これっていつなんでしょうか? 具体的なタイミングは,初回除細動を行って2分間の胸骨圧迫→波形確認で難治性VF/pulseless VT(初回除細動が不成功であることの確認)→除細動→アドレナリン投与となります。つまり,必然的に2回目の除細動後にアドレナリンを投与することになります。院外心停止の場合にはそもそもルート確保ができていないのでこのような状況に陥ることは少ないですが,院内心停止では難治性VF/pulseless VTに対して早期にアドレナリン投与がなされているのをしばしば見かけます。初期波形が難治性VF/pulseless VTであった院内心停止症例を対象にした研究でも,25%を超える症例で初回除細動前に,50%を超える症例で初回除細動から2分以内にアドレナリン投与(いずれもガイドラインの推奨からは逸脱した対応)がなされており,それらの群では生存率や神経学的に良好な退院が低下したことが報告されています4, 5)

 さて,話をもとに戻します。難治性VF/pulseless VTへの体外循環式心肺蘇生法(ECPR)の適応は施設ごとに少しずつ異なりますが,実施されることが多くなってきているのではないかと思います。ただし,施設によっては行えませんし(当院でもECPRは行うことができませんので,どうしてもの場合には近所の救命救急センターにお世話になっています),侵襲度は高めです。

 これら以外の方法で,難治性VF/pulseless VTと戦うことはできないのか? その方法の1つがDSEDなのです! これまでにもcase seriesなどで話題になっていた方法ですが,ついにNew England Journal of Medicine誌よりRCTが発表されました(DOSE VF試験)1)。405人の難治性VF/pulseless VTによる院外心停止患者を対象とした,カナダの6救急隊におけるクラスターランダム化クロスオーバー試験です。Standard Defibrillation群(右前胸部と左側胸部にパッド装着),Vector Change Defibrillation群(左前胸部と左背部にパッド装着),DSED群に割り付けられ(図),生存退院率はそれぞれ13.3%,21.7%,30.4%と,DSED群が有意に高いという結果でした。副次アウトカムではありますが,神経学的転帰の観点からもDSED群は優れていることがわかりました。すごい効果ですね! 低侵襲で簡便なのにもかかわらず,難治性VF/pulseless VTへの効果的な武器となりそうです。

 実はCOVID-19パンデミックにより必要なサンプルサイズに達しておらず過大評価されている可能性もあり,引き続き検証が必要ではあります。しかし,それを差し引いても試す価値のある方法かなと考えています。

 日本では救急隊がDSEDを行ってくれていることはほぼないでしょう。救急隊からの申し送りで難治性VF/pulseless VTであることが判明している場合には,ERへ搬入されてベッド移乗の際に追加パッドを装着してしまえばいいと思います。もしくは波形確認の際にさっと貼り付けることも,チームで共通意識が確立されていれば可能かもしれませんね。

 今回は,質の高いCPRを行うための除細動器の使い方のコツを紹介しました。いずれの研究も救急隊ベースですので,ERでの有効性は不明瞭です。真の効果判定のためには検証が必要ですが,臨床に与える効果は大きいため,ERで試してみてもバチは当たらないかなと考えています。1人でも多くの患者さんを救えるCPRを行えるように,ぜひ各病院でチームトレーニングを欠かさないようにしてくださいね。

 


1)N Engl J Med. 2022[PMID:36342151]
2)Resuscitation. 2021[PMID:34627866]
3)N Engl J Med. 2016[PMID:27043165]
4)BMJ. 2016[PMID:27053638]
5)BMJ. 2021[PMID:34759038]